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芽吹きの巫女  作者: メイズ
清廉の雫を求めて
32/59

ナチャとの別れ

 ───ミュリナスの記憶を得るとは。さすが巫女候補だけのことはあるようだ。我らは娘シャイラを認めねばならない。されば、いざ我らの中を進め。清廉の雫へと。但し、連れの蜘蛛は通さぬ!


「エエッ! それはどうして? ナチャと私はまだ一緒に行くんだよ。ここでお別れなんてしない。そんなこと受け付けられないよ!」


 私の髪の中からナチャがモソモソと出て来た。


「シャイラ、俺のことはいい。一人で進め」


「そんな・・・・ナチャまでそんなことを!」


 私は手のひらにナチャを乗せて、お互いの目を合わせた。ナチャの目の色は、相変わらず美しい宝石みたいに碧く澄んでいる。


「シャイラなら一人でももう大丈夫さ。俺にしたってシャイラがいなければ、天罰を気にせず動けるしな?」


 ────グサッと胸に突き刺さるナチャの言葉。


・・・そっか。私に気を使ってナチャは行動を制限してたんだった・・・ナチャにはナチャの目指す目的があったのに。私はナチャに甘えてた。でもさ・・・ふぇ、ふぇ、わぁぁーん!


 こんな突然のお別れが来るなんて! 私はぎゅって胸が痛いくらい苦しい・・・


「ウウッ・・・ナチャ・・・私はナチャと一緒がいいよ・・・・けど・・・我慢しなきゃ・・・でも、わ〜ぁぁんっ」


 嗚咽と涙が止まんないよ。ゲホゲホッ・・・ズズ・・・


「いいか? シャイラは巫女となってミュリナスの秘匿のヴェールを剥げ。あいつは魔力も弱いし知能もイマイチだが、原始の本能が持つ鋭い感覚機能で、薬草を選別出来たんだろう。それは俺たちにはほぼ失われている感覚なんだ。シャイラが得た秘匿の中には、まだ薬草として未発見な草も含まれる可能性もある。それらを使った黄金の配合レシピは、宝石や金なんかより貴重な宝だぜ?」


「ミュリナスの秘匿の記憶の箱を開くなんて、私に出来るかわんないよ・・・ヒック、ヒック・・・」


「そりゃすぐには無理だろうが。役に立つ薬草配合レシピがいくつか知れれば、シャイラはたくさんの人を助け、苦痛を取り去ることが可能だ。そうか! あずま屋に置いてあったあの万能薬も、以前に誰かしらがミュリナスから秘匿の薬草配合レシピを盗んで作ったと推測出来るな・・・それは宮殿にいる誰かだろう。ムムム」


 ナチャのくせに、いつになくよく喋る。最後に私を励まそうとして・・・


「んー、シャイラはまたもや、何が何でも巫女にならなきゃならない理由が増えたな? 忘れたくないんだろう? この冒険のことも、俺のことも」


「ナチャ・・・・」



 私から去ろうとしてるナチャ。


 滲む景色。



「悲しむな。俺たち、絶対にまた会うことになるって保証するぜ?」


「・・・うん。絶対にまたナチャに会う。だってナチャは私とお友だちでいる約束はずーっと一生有効だもん!」


「はん、俺はとんだ人間に助けられてしまったもんだな? だが、シャイラ、ありがとう。出会いに感謝する。俺の方こそ有用な情報を得られて助けられたしな」


「ナチャ、また絶対に会うって約束の握手しよ」


 左手に乗せたナチャに右手の人差し指を差し出す。



 もう私たちに、ここからは言葉はいらないよ・・・


 ナチャの先端が白い2つの前脚が、私の指先を掴んだ。


 ウフ、相変わらず可愛い子。


 最後にヨシヨシって、フワフワのビロードの背中を指で撫でた。



 ────たくさん助けてくれてありがとう。ずーっとずーっと大好きだよ。ナチャ・・・



 じっと撫でられていたナチャは、ふっと顔を上げた。


 数秒見つめ合った(のち)、ナチャは大きくジャンプして草むらに消えた。



 なんだかあっけなくて、いなくなったのが信じられない。



 ナチャが消えた草むらをじっと見つめる私の目から、また涙が溢れ出した。


 一人、しばらく立ちすくむ。



 気づけば、辺りは不自然なくらいの静寂。



 手のひらのかかとで、ぐりぐり涙を拭ってから巨大モンステラの林を振り返る。


 先程までの出来事が幻だったみたいに、元に戻ってる。



「・・・・・」



 急にサアッと風が一陣吹き抜けて、巨大モンステラの林をざわめかせた。


 モンステラたちが、私に「さあ来い!」って言ってるみたい。


 両腕を上に広げて思いっきり深呼吸。すーーはぁーー、すーーはぁーー・・・



 ヨシッ!



 ナチャ。私、絶対に清廉の巫女になってみせる! だからまた会おう!



 私は一人、自然が織りなすモンステラ迷宮に踏み込こんだ────


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眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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