魔蜘蛛と女の子
太陽高き明るい青空。土と緑と湿気の混じったじっとりした空気が肌にまとわりつく。
ナチャは私の頭の上。
「私たち今日は早起きしたのにね。この太陽、いつの間にか昼を過ぎてる。たった一晩と半日 地下にいただけなのに、久々に空を見た気分だよ。ふぁ~っ」
両腕を思いっきり空に伸ばして密林の匂いを思いっきり吸い込んだ。
「スゥー・・・はぁぁ・・・緑のいい匂〜い」
「取り敢えずあずま屋を探そうぜ? シャイラもそんなボロボロの服じゃ虫に刺されるぞ? 虫のやつらは、こっそり血を吸いにくるわ、体に卵を産みつけに来るわ、数は多いしマジで厄介で嫌な奴らだ」
「えっと・・・(・∀・)」
ナチャって虫じゃなかったっけ? しかも私の地図を溶かすという実害を与えたけど、まあいいや。
「それね。けど、あずま屋に服なんて用意してあるか分からないよ?」
「なんとかするさ。さあ、シャイラはトレイルの地図を思い出して進め!」
*
この道で合っていると思うんだけど、そろそろこの辺りに────
「あ! ナチャ、あそこの隙間に見えるのは、あずま屋じゃない?」
私が指を指すと、ナチャがトコトコ私の包帯の腕を伝って指先まで歩いて来た。
「おお、そのようだな。周囲に危険な気配は無し。もう昼下がり。じき日が傾く。今日はあれに泊まろうぜ」
「うん。私たち早起きしたしね。アルシアの短剣を取り戻すという難題もクリア出来たし、フッフ。トレイルさんとナチャのお陰で今日は上出来な1日だったよ!」
「・・・で、カラスにやられた腕の傷はどうなんだ?」
私の頭に戻る通りすがりに、腕の包帯の巻きのほつれを脚で器用に隙間に押し込みながら、ナチャが聞いた。
「痛いけど、意外とそんなでもないよ。この包帯は傷を早く癒やす包帯なのかもね」
「ほお? この包帯は薬草臭いと思っていたが、特別な薬草が染み込ませてあるようだな。・・・魔法でもないようだし、ならば宮殿には秘匿の痛み止めの薬草配合レシピがあるに違いない」
「ふうん? 私には分からないけど、きっとそうだね。あんなに血が出た傷なのに、こうして動かせてるもん。草ってありがたい力を持っているんだね。植物さんたちには感謝だよ。美味しい実を恵んでくれるし」
「ああ。動物の命を支えているのは間違いなく植物だ。そして生き物は、自然全体に対流する見えない何らかに支えていると俺はずっと前から推測していた」
「それって精の流れのこと?」
「ああ。たぶんそれのことだろう。そして生と死の狭間、意識と無意識の境目。それらの領域も、宮殿にいるアルシアって女が仕切っていることがシャイラから知れたが」
「ナチャはこの世の謎を追っているんだよね。眠りに落ちる瞬間の謎を知りたいんでしょ? 無意識になる瞬間にナチャが言うような空間が本当に広がっているのかは疑問だけど」
「それを確かめるために俺はここにいるのさ。決してシャイラのためではない。俺はほぼあると踏んでいるし、その空間を支配し俺の住処とするのが俺の狙いだ。誰にも邪魔されない俺だけの理想の城を作る。もちろん、蜘蛛の糸で作られた美しい白銀の城だ。シャイラなら特別に招待してやるからな。楽しみにしていろよ」
「わあい! 約束だよ。私は試験に合格したい理由がまた増えちゃった。ナチャのお城にご招待されるんだもん。試験に落ちて記憶を消されるわけにはいかないよ。私、もう絶対に清廉の雫の巫女になる!」
*
見つけたあずま屋は、中も外も最初に寄ったとあずま屋とまったく同じだった。
置いてあるものもほぼ同じだね。少し残念!
「シャイラ、疲れただろ? メシを食ったらもう寝ようぜ。明日も早起きしよう。巨大モンステラ群の林までたどり着いたら、目指す祠は見つけたも同然だ」
「うん。また寝る前にナチャにお歌を歌ってあげるからね」
「いや、今夜はいい。シャイラはブランケットをかけて先に寝るがいい。その前にボロボロのチュニックを脱ぎな。俺が蜘蛛糸で修繕しておいてやる」
「わわ、本当に? ありがたいけど・・・天罰は大丈夫かなぁ?」
「ハンッ、女の子の破れた服を俺が直しただけで罰を与えるとならば、そいつは神とは言えないぜ?」
「ふーん? ナチャは女の子には優しいんだね。意外と蜘蛛の中でモテてたりするの? フッヒッヒ・・・」
「・・・(ー_ー) ったく、子どものくせに俺様をからかうとは」
「(・д・) 確かに私は子どもだけどさ、私はナチャのお母さんのつもりでいるんだけど」
「な、ナニッ!?」
仲良しだけど異種族同士、お互いの存在位置の認識に違いがあったようだね。
*
ナチャは天才なの? これが私のボロボロになったあのチュニックなの?
翌朝、私の枕元に置かれていたのは、見たことないくらい綺麗な服に変わっていた。
見る角度によって、煌めきの虹色がうっすらとお上品に浮かぶ布地に変わってる。
すぐに袖を通した私は嬉し過ぎて、くるくる裾を広げて回ってる。
「袖の破れはレース模様で装飾しつつ繕っておいた。ついでに全体も破れにくいよう表面を補強しておいた。カラスの爪などわけもなく防御できるだろう。俺の出す糸は、その辺の虫が出す糸とは比べものにはならない。そしてこの俺様のセンスとスキルは唯一無二。フッフ」
「わーい! ありがとう。こんな綺麗なチュニックを着てるなんて私、お姫様みたい!」
テンションダダ上がりだよ!
「ナチャ! 私、一生これ着る!」
「随分と気に入ってくれたようだな (〃ω〃)・・・さてと、朝ごはんを早いとこ済ませて出発しようぜ」
「うんっ! 服もお気に入りだし、お天気もいいし、今日も頑張れそう」
*
祠はもうすぐ。最終局面はすぐそこに。
ナチャと私は、巨大モンステラ群の林を目指して、意気揚々出発した───




