木は森に隠される
わぁん、どこどこどこっ? アルシアの短剣は。
ないないないないッ!! どこにもない!!
きらびやかだけど大半はガラクタの山。
いつとも知れぬタイムリミットに焦る気持ちが、私をイラつかせるよ。
ここはゴチャゴチャがすごくて何がなんだか。簡単に考えすぎていた。この中から探し出すなんて、半日以上かかりそうだよ。
もしかして、ここにはない可能性だって・・・
ああーッって叫びたいくらいイライラする!
ここにもないっ、ならこっちは? えっとここにこそ───
ガッシャーン! ガラガラガラ・・・
「あっ!」
いけない! 私は手が雑になって、大きな音を出してしまった!
入り口の方を慌てて振り返る。じっとして静寂を20数えた。
・・・セーフ。
「落ち着け、シャイラ、それはどんな短剣なんだ?」
「言わない。ナチャは探すのは手伝ったらダメだから言わないもん!」
「聞かなくてもおおよその想像はつくが。シャイラがリュックの中から鞘を出したならさらに」
リュックの中に短剣の鞘? 私、知らないよ。そんなの?
「私のリュックの中にアルシアの短剣の鞘が? 私、持ってないよ・・・」
「はっ? なんで俺が知っててシャイラが知らないのか謎だ。そのリュックの底は二重底。中に短剣の鞘らしきシルエットがあるが? それがアルシアの短剣の鞘なのではないのか? 俺はずっとそう思っていたが」
「底が二重に!? ホントに?」
「ムム、これはいかに? 自分で確かめろ」
私は一旦ローブを脱いでリュックを背中から下ろして中身を寄せながら底を探る。
「あっ! ここに分かりにくい切れ目がある」
無理やり2本の指を突っ込むと、硬い何かが確かにある。
「背中側に底の角に沿って隠れるようになんか入ってる。硬くて細長いものに指が当たるよ・・・」
「まさかシャイラが二重底の存在を知らなかったとは思いもしなかった」
「そっか・・・最初からリュックに仕込まれていたんだね。忘れてたけど、刃がむき出しの短剣を探しに行くんだから、対の鞘は必要だよね」
「(・o・) それを見つけ出すのも試験だったりして・・・」
「(;・∀・) ワワワ、だとしたらこの場合どうなるの? 天罰アリナシ」
「俺が言ってしまったのは不可抗力。フッ、天罰の行方は後ほどのお楽しみだろう」
もーう、ナチャったら「フッ」じゃないってばぁ・・・。難題が増やされちゃうかも。
頑張って二本指で挟んで、穴から先端を引っ張り出せたら、あとは簡単だった。
「これは・・・! 本当だ。これはアルシアの短剣の鞘だよ。革製の鞘に巻きつくように、蔓植物と、鳥の風切り羽模様の金色の装飾のモチーフが巻き付いているの・・・」
「ほお・・・美しく繊細な。これはアクセサリーだろう? ほぼ装飾品だ」
「けどさ、アルシアは短剣に呪文を唱えて硬い蔓を切ってたよ。ならばこれも魔道具の一種かな。もしくはアルシア自身の魔法だったのかもしれないけど・・・」
───待って。
もしもこれが魔法の剣ならば、この鞘は片割れの本体の行方を感じてるかも?
私には呪文はわからないけど、普通の言葉でだって、私がアルシアを思う気持ちは伝わるかも知れないよ? だってこれはアルシアの剣だもん。
「鞘さん、私のせいであなたと剣は離れ離れになりました。けど、それはアルシアを守りたかったからです。私はあなたを元通りにしたいの。だから教えて下さい。あなたの片割れはここの近くにいますか?」
祈りを込めて語りかけた。すると・・・
───キラン・・・
鞘に巻き付いてる金色の蔓の装飾に、サァーっと光が走った!
「ナチャ、鞘さんがここにあるって言った!! 今の見たッ?!」
「ほお? これも俺が魔力を感知出来ない古の魔道具だったか。この次元は大陸ごと沈められた古と濃く太く繋がっているようだ。実に面白い。そして俺は俺の目的の探求のために来る場所を間違えてはいなかったと見える・・・フッ」
「鞘よ、それはどっちの方向なのですか? 私の前? 後ろ側? 右側? 左側?」
左側の時に光った。
「なら、場所まで来たら教えて下さい」
私はガラクタの中をゆっくり左側へ進む。 その辺りには鍬やら鎌鋤等の農機具、お馬さんの蹄鉄、その向こうには、何らかの細かな部品類が散らばってる。進むに連れ、蔦を走る光の速度が速まって、遂にピカーンと一瞬強く光ってあとは何も言わなくなった。
───ここにあるの?
私はピカーンしたスポットを丁寧に探してるけど、周りを探ってもアルシアの短剣はどこにもないよ? 謎の機械や部品類しかないよ。
鞘さんに何回も聞いたけど、もうウンともスンとも言ってくれない。
どうなっちゃってんの? もう泣きたい・・・
あれは短剣の行方を指し示す光じゃなかったの?
座り込んで肩を震わせていたら、ナチャが私の頭の上から、おでこをポンポンした。
「あー・・・シャイラ?」
もうダメだ。ここでもう終わりじゃない? 悔しい。
左手にはキツく握りしめた鞘。
「ごめんね。ナチャ・・・ウウッ・・・無いよ・・・どこにも・・・ここまで来れたのに・・・あのね、ナチャにも見せてあげたかったな。アルシアの短剣はね、すごく綺麗で・・・」
「柄頭と、鍔と刀身の交わりには、青い葡萄のような、瑞々しい若草色の美しい石がついているんだろう? うーん、これはペリドットか? この洞窟に蔓延る夜光キノコと似たような色だ」
「・・・どうして知ってるの?」
「う〜ん・・・敢えて言うなら俺が蜘蛛だからかな」
「ズルいよ、ナチャは魔法が使えるから知らないことも、なんでもお見通し出来るんだ・・・ゼニスおばあさまみたいに」
「シャイラ。それは違う。使える魔法の属性は誰しも限定的だ。さらに言えば、魔法というものは万能ではない。しかも俺はこの穴でなんら魔法は使ってはいない」
「なら、おかしいよ。なんで知ってるのさ?」
「シャイラの持つ感覚を研ぎ澄ませろ・・・ただ、俺は目がたくさんあるし、人間と違って壁も天井も歩けるし、その辺は有利だと認めるが・・・」
なんだかナチャのくせに、遠慮がちな口調。ただの人間の私を憐れんでるの?
「・・・・・あ!」
───違う。
ナチャったら、またしても! もーうッ!!
気がついたよ。ナチャは私の天罰回避のために迷ってる。
どうして私は下ばっかり見ていたの? 一面に散乱してるガラクタの山ばかり。
壁から天井にかけてぐるりと見回す─────
どこだどこだどこだ??? この辺に絶対ある!!
この夜空の星の如く、洞窟一面を覆う光るキノコ星の中で、私は一番綺麗なキラキラ星を探すんだ。
「・・・あれだッッ!!」
天井に1つだけ、違う輝き。ぼんやり光るキノコの中に、ひときわ煌めいてる夜光キノコ。
ううん、キノコじゃない。アルシアの短剣の、キノコの頭みたいな形の柄頭部分だ。
カラスさんたら、アルシアの短剣だけ、なんて隠し方してるの! 天井に刺して、夜光キノコに紛れさせてるなんて。
ジャンプすれば私にも届く高さ。
少し後ろに下がって助走をつけて、狙いを定めてジャンプ!
──やった、掴んだよ!!
感触では、土の中の木の根っこに刺さってるみたい。右手で短剣の柄にぶら下がったまま、体重をかけて体を揺らす。
エイッ! エイッ・・・短剣よ、抜けろ! お願い!
不意にすうっと刺さった天井から抜けて、私はガッシャーンとひときわ大きな金属音を鳴らしてしゃがむように下に落っこちた。
・・・ヤバッ!
こんな派手な音を立てたなら、もうカラスさんには見つかってしまったはず。
ここでの目的完了。急いで脱出しなきゃ!
鞘に刃の先端入れると、すうっと吸い込まれるように全体が収まった。
急いで腰のベルトに差し込んだ。
「ナチャ! さあ、行くよ!」
ナチャが勢いよく私の頭に飛び乗った。




