宿泊者記念品
ハァ、ハァ、ハァ・・・
岩陰となって隠れているあの洞穴に向かって走る。
おとぎの国みたいな幻想的な夜光キノコ照らすトンネル。その奥にある、カラスさんの宝物置き場を目指す。
*
ハァ、ハァ、ハァ・・・だいぶ来たよ。
えっと、この辺りだっけ? もっと先?
私の足は迷ってる。通り過ぎてないよね?
ふと立ち止まった私の頭上の方を、何かがビュッと通り抜けた。
───あ! カラスさんだ!
フードを被ったローブ姿私のことは向こうには全身見えてはいないはず。
あっ、光り物が好きなカラスさんは、ナチャのお尻の光が不思議で近寄って確かめたのか。けど、流石にナチャに触ろうとはしないようだね。
カラスの行く先を目で追うと、少し先の左壁際すぐ下の方でふっと姿が消えた。
よーく見るとその辺から、ごくうっすら光が漏れてるのがわかる。
───見つけた! あそこが夜光キノコ洞窟の入り口だ! 目印の岩もある。
少し離れてカラスの様子を窺った。
どうやら、2羽で石を集めているみたい。早速、洞穴を見えにくく工事するための材料集めのようだね。
石を地面に落としては、また飛び立ってを2羽で繰り返してる。
私の姿は見えないとはいえ、迂闊にこのまま突進するわけにも。
ちょっと作戦を考えなきゃ。ついでに焼き菓子の残りと、モグラ休憩所のトレイルさんのとこで補充したおいしいお水で休憩しよう。のどがカラカラだよ。
「ナチャ、ここで作戦タイムだよ。ちょっとだけ休も? ナチャ、ローブの内側においでよ」
ナチャが首元からローブの中にモソモソ来た。ナチャの脚は少しくすぐったい。
壁際隅っこに寄って座る。毛布の中みたいにすっぽり被ったら、ローブの内側はまるで秘密基地。
ナチャの明かりがまたいい秘密っぽい雰囲気を醸し出して楽しい。
私はリュックの中をゴソゴソ。
あ、そうそうこの箱は───!
この手のひらに乗る小さな箱と、リンゴくらいの大きさの箱は、帰り際にトレイルさんに貰った宿泊者記念グッズだよ。ウフフ・・・
***
モグラ休憩所のトレイルさんが、ほとんど来なくなってしまった宿泊者の集客のために始めたところだという。
『宿泊者は、この中から好きな箱を選べるぞい! 開けたら何が出るかお楽しみ、運試しじゃ! わしが若き頃、あちこちの大陸に渡り、掘って掘って掘った時の記念品のお裾分けじゃ。フッフ・・・さあ、この藁の小山の中に手を突っ込んで、手探りで1つづつ選ぶがいい』
地下のあずま屋を探して訪れた時、間違ってトレイルさんのお部屋の扉を開けて、奥に見えてたのは藁のベッドでは無くて、宿泊お楽しみくじ引きだったらしい。
『俺は蜘蛛だ。藁に潜ってもいいのか?』
ナチャは私の肩からぴょんって下に飛び降りた。
『あー・・・蜘蛛のくじ引きは初めてのケースじゃ。お前さんの場合は代わりにこちらのお嬢さんが・・・』
『いや。ならば───』
ナチャの前の2本の脚がシュルシュル伸びて藁の中に入った。モソモソした後、シュルシュル縮まっていく脚は、リンゴ大の古そうな紙箱を掴んでいた。
ナチャって不思議な蜘蛛だよ。他にもいろいろ出来るに違いないね。
『俺の分はシャイラにやる。昨夜の歌の礼だ』
『いいの? わあい、ありがとう。ナチャが選んだならこれは当たりの箱かもね!』
『どうだかな?』
『ウフフ、ハズレだったとしてもナチャとの思い出の品が増えるのは嬉しいよ』
『これこれ、二人とも。わしの記念品にハズレなどないのじゃ!』
私は手探りで、軽くて小さい箱を選んだよ。持ち歩きしやすいように。
『わあい! トレイルさん、ありがとうございます。開けるの楽しみだな〜。落ち着いたとこでドキドキを味わいながら開けようっと』
『どれもわしの自慢の品じゃ。見て驚いてくれ。次来た時は感想を聞かせてくれたら嬉しいのう。ふぁっふぁっふぁ』
『また来たいけど、来れなくても私は後でトレイルさんにお手紙書くね。では、私たちがまた会えますように・・・』
私は小箱を2つ、リュックの荷物に増やして、出発した────
***
あの箱、早速開けてみよう! 先ずはナチャに貰った分。リンゴ大の箱には、少し重みがあるよ。
───せーのっ!
「わぁ・・・( ゜д゜ ) スゴーイ! 綺麗・・・透明な石のお花だ」
「・・・・ウーム。これは水晶という石だろう。採掘した結晶のままの。トレイルは若き頃、いろんな大陸へ行って掘ってたらしいじゃないか。その時に掘り当てた石の欠片なのでは?」
「初めてみたよ・・・なんだか、闇を吸い込んで消し去って光ってるみたい・・・」
『ああ・・・清廉な乙女のような輝きだ。さすが俺様が引き当てただけのことはある。フッフ・・・』
『私とナチャの思い出の品がグレードアップだね。けど、この短くなった思い出棒もすごく大事だよ。さてさて、私の運はどうかな?』
すっごく楽しみ。私が選んだ小さい方の箱は、さっきのよりすごく軽い。せーの!
「エイッ! わぁぁ・・・! (*゜∀゜) 見て、ナチャ! 透明な黄色い石の中に小さな蝶々が入ってるッ! このちょうちょさん、どうして石の中に入れたんだろ? ここで寝てるの?」
ナチャの明かりで透かして見たそれは、幻想的で美しくて神秘的で見とれてしまう・・・
「これは・・・琥珀だろう。樹液が長い年月を経て化石が固まったものだ。この蝶は樹液に絡め取られてしまったのだ。時にカエルやトカゲさえ閉じ込められることもある。古の姿のままに」
「へぇー、不思議だね。私が見れるはずのない大昔のちょうちょが目の前にいるなんて」
トレイルさんの宿泊者記念品はガチでデラックスだった! 2つとも私の宝物にしよう。
・・・って、のんびりしてはいられない。
ローブを着直して、カラスさんを観察。
カラスさんたちはそれぞれに石を探しに行ってるから、洞窟の入り口が留守になる隙間があることが知れた。
タイミングを見計らえば、私は難無く洞窟に入り込こめるし出られる。
上手く行くよね?
*
緊張しながらタイミングを計る。
静まれ! 胸のドキドキ!
一羽がまだ戻らず、一羽が石を落として飛び去った姿を確認した刹那。
───今だッ!
私は短剣を探すべく、夜光キノコの洞窟に駆け寄り、そそくさと中に入り込んだ。




