ひらめきのシャイラ
ナチャが叫んだ。
「シャイラの力を使えッ!!」
ナチャ? 私はただの人間のお子様だよ? ナチャやアルシアやゼニスおばあさまみたいに特別な力なんて私にはない。
ミュリナスがペロッと細長い舌をのぞかせた、ちらりと見えた赤い口の中。
もう毒は抜けて元気になってたんだ。
────ふぇっ・・・もう、私だめだ・・・
私は家族がいるあっちの世界だけで生きて行く。大好きなアルシアのことも、大好きになったナチャのことも忘れて。
そんなの私は嫌なのに。
ふうっと私の周りの全てはスローモーションと化した。
次いでこれまでの不思議世界での出来事が、パッパと走馬灯になってフラッシュバック。
あー? この現象はおじいちゃんに聞いたことあるよ。おじいちゃんも若き頃、走馬灯を見たって。
川で魚釣り中にでっかいワニが釣れて、いきなり水の中に引きずり込まれたんだって。
水の中に沈む一瞬の間に見たって。おじいちゃんによると、この現象は究極の危機を迎えて脳みそがフル回転してるらしい。
その時、片思いだったおばあちゃんの顔が何回も浮かんで、このまま死んでたまるかって力が出て、がむしゃらに岸に上がって高い木まで走って登って逃げたんだって。
ワニは追いかけて来て、しぶとく木の下から去らなくてそのまま寝ちゃったのか動かなくて、おじいちゃんは怖くて下りられなくて、木の上で一夜明かしたんだ。
眠ったら枝から落ちてしまうから、歌を口ずさんで過ごしたというおじいちゃんは「歌は力をくれるんだよ」って、チェストの上の、死んじゃったおばあちゃんのポートレートをちらりと見た。遠くを見てるようなおじいちゃんの横顔を覚えてる。
おじいちゃんは寝ないために歌か。 へぇー、私は反対のことが出来るし。
聞いておじいちゃん! 私、今日すっごいこと出来るってわかったんだ! 私の歌は誰かをスーッて眠らせてあげられるんだよ。そして心地よい夢を見せてあげられるの!
*
────シャイラの力を使えッ!!
ナチャの叫びにハッとした。
随分時間が経ったような気がしたけど、数秒も通り過ぎてはいないみたい。
見上げれば、ミュリナスの体勢は全く変わってない。
私に出来ることはあったんだ!
けど上手くいく?
行くよ。だってナチャが言ってくれたんだもん。
───シャイラの子守唄には何故だか知らんが、何らかの心地良い魔力が生じている。
これは素晴らしき才能だってね!!
深く一回深呼吸。胸にいっぱい息を吸い込んだ。
♪ラーララー ラーララ・・・・
ミュリナスはよい子 よい子はおやすみ おやすみは夢の中 夢の中は思いのまま ラーララー♫
小さなたまごだった頃を あなたは覚えてるかしら
さあ、ミュリナスよ 殻に守られていた赤ちゃんに戻って ゆっくりおやすみラーララー・・・
私は心に浮かぶままを歌にする。
ミュリナスの頭は、ゆっくりと下りてきて、私の正面まで下りてきて、じっと私を見てる。
♪ララー ラララー さあミュリナス お昼寝の時間よ きっと優しい夢を見られるの
私の顔をすーっとかすめて通り過ぎ、そのままとぐろの上に頭を乗せた。
♪ララー ラララー おやすみなさい ミュリナス・・・
ミュリナスはそのままじっと、動かなくなった────
《シャイラ、今だ! すぐにトンネルから出よう》
ナチャは、私を急かすけど、ちょっと待って! 短剣がまだだよ!!
私は走馬灯のフラッシュバックの間に、思い当たったんだ。
美しい細工を施された、アルシアの短剣。
ミュリナスはトンネル内でアルシアの短剣を落とした可能性が高い、ってことは────
短剣の在り処はもう分かりきってるじゃない?
《ナチャ! 戻るよ!! カラスさんの宝物倉庫へ》
《フッ・・・そういうことか! まさに灯台下暗し》
《なにそれ?》
《シャイラは俺の目がどこにいくつあるか知ってるか?》
《ワワワ、それは謎だよ》
《そういうことだ》
《ふぁ? (´・ω・`) ますます訳わかんないよ!》
《さあ、急げ! ミュリナスが起きる前に探し出して戻らなければ。いくらシャイラの歌でも日に何回も眠るわけはないし、次回は警戒して耳を閉じるかもしれないしな》
《了解、ナチャ! 行くよ! ちゃんと私につかまってないと落ちちゃうからね!!》
私は、ミュリナスが見えなくなる下り坂左カーブを曲がり切るまで、足音を立てないように気をつけて進んでから、一気にダッっと駆け出した。
若干休みます ( ´ー`)φ




