予期せぬ襲撃
「これは・・・?」
ここにはキラキラ光るものがいっぱい。
ぱっと見だけで───
山に積み上がった七色のガラス玉。鈍く光る壊れた銀杯、豪華な細工の金色の額縁の一部、取っ手の無いシャベル、ぐるぐるからんだ針金、所々ほつれてる黒地にラメ入りのローブ、派手な羽根と大きなリボン飾りのついた幅広の縁で豪華だけどボロっちい帽子、黒くてツヤツヤした風切り羽、etc…
「トレイルがこんな誰がいつ入り込むかもわからない場所にお宝、というかガラクタ道具を貯めておくのは不自然だ。まさかミュリナスが集めたのか?」
「ここは大蛇のミュリナスには狭くて入れないよ? 舌だってしっぽだってこんな奥まで届かないんじゃない?」
「まあな。・・・ミュリナスに、ここに入れる眷属がいる可能性も無きにしもだが、トレイルの話では、ミュリナスは古代外来生物由だから原始寄り生物で本能部分が大半だろうし、魔力があるかも怪しいくらいだ。眷属がいるとは考えづらい。なら、これらを集めたのは誰だ?」
「せっかくここまで来たことだし、どんなものがあるのか、お宝をよく見せて貰おうよ! 他には何があるんだろう? 光るものが好きで集めたんじゃないかな? 誰のか分かるかも知れないよ?」
「いや、ここはすぐに出た方がいい。それにここは行き止まりで危険だ」
「えーーっ! 少しなら?」
「少しでも」
「ちぇーっ・・・」
私たちが戻ろうと決めた時────
・・・んっ? 前方から何かがやって来るよ? わさわさわさわさって音を立てながら。
私に気がついてそれは「ギャーッ、ギーーッ」って騒がしい怒声を上げた。
「ワワワッ、なになになにッ?!」
思わず奥に下がる。
「シャイラ、鳥だッ! 2羽いるぞッ」
2羽の真っ黒い鳥がバサバサと私に襲いかかって来た!!
「ギャッ! 痛っ、痛いッ、やめてーーー!」
私の髪を引っ張って抜くし、あちこち突ついて来るッ!
「かっ、勝手に入ってごめんなさい! 鳥さんたちのだって知らなかったんだよ。すぐに出て行くから、お願いやめて!」
ギッ、ガッ、ギギッ、ガーッ、ギギギギ、ギャーーーッ!! グワーッ!!
両腕で振り払ってもどうにもならない。奥まで下がった私がお宝に踏み込んでしまったからか、さらに怒ったみたいで攻撃的になってる。鋭いくちばしと鉤爪がチュニックの袖を破いて肌に刺さる。
顔を庇う腕から血がパッと飛び散った。
「クッ、こいつらカンだけはいいようだ。俺には全く手を出さない。直接攻撃されてない俺がここで参戦したら、シャイラにペナルティが課される。が、しかしここは俺が!」
「やめて、ナチャ!! 私は大丈夫だよ。ただのカラスみたいだし、自分でなんとかする! ナチャはリュックのポッケに隠れてて!」
手に当たった物を手当たり次第投げつけた。スプーンやら、銀の皿やら、ジャラジャラビー玉やら。
「痛いよッ! お願い、やめて! 本当にごめんなさいです。私から離れてくれたらすぐに出て行くってばッ!!」
私の言葉はカラスさんには通じない。
「ウウッ! 痛ッ。カラスさん、お願い。やめて! クッ!」
庇った腕の皮膚が鉤爪で切り裂かれた感触がした。
「ヒィッ! もういやぁぁーーーッッ!!」
止まらぬ攻撃に、近くにあった羽根つきの帽子を思わず被った。そこにあった黒地にラメのローブを身体に巻いてお宝の中にうずくまる。
「ヒック、ヒック、グスン・・・やめて。お願い・・・」
このまま鳥さんたちの怒りの嵐が過ぎ去るのを耐えるしかないよ。
───んっ? 攻撃が止まった?
すこーし顔を上げて、隙間から様子を窺う。
『おい、泥棒が急にいなくなったぞッ?!』
『まあ! なんて逃げ足の早い泥棒でしょう!』
え? え? この声何の声? どこから聞こえて来てるのさ?
カラスさんたちが、しばらくキョトキョトしてから、私が投げ散らかしたビー玉を拾い集めて元に戻し始めた。
《シャイラ、これはどうやら古の魔道具らしい。このまま静かにじっとしていろ》
ナチャが私の耳元に来て囁いた。
どういうこと? 古の魔道具? あちこちほつれた黒いローブと、派手で豪華だけどすんごいボロい帽子が?
*
『ここの洞穴なら大丈夫だと思ったのに!』
『どうやら何らかの理由で、今日は蓋の岩が、いつもより大分ズレてたみたいだな』
『ミュリナスが暴れたのかしら? 困ったわね。どうにかして岩を元の位置に戻さなくては』
『それは俺たちには無理だ。いっそのこと小石を積んで、練ったモグラ残土で固めて入口を小さくしてはどうだろう』
私、カラスさんの声がわかる! この帽子のお陰??
カラスさんたちは片付け終わったら満足したみたい。仲良く去って行った。
「シャイラ、もういいぞ」
「ハァァ・・助かった・・・ああ、腕が痛くてたまんない」
帽子とローブを脱いだら、私の腕は大小の傷だらけ。
「シャイラ。こんなに血が・・・」
ナチャが私の傷口を見て戸惑ってる。青く澄んだ色の目が黒く沈んでる。こんな色は初めてだね。
クスン・・・痛くて見るのも怖い。けど、あまり痛そうにしたら、ナチャが余計に心配しちゃうから泣くのはガマンする。
「深い傷はすごくズキズキする。けど、大丈夫だよ。リュックに、昨日あずま屋から持って来た包帯があるから手当てするから、ちょっと待ってて」
「シャイラは、あの万能薬も一粒飲んでおくといい」
「うん。そうする。でも青臭くてまずそうだね。うへっ・・・」
私が包帯を不器用に巻いてる間に、ナチャが帽子とローブを調べてる。
「私にカラスさんたちの言葉がわかったんだよ。どういう魔道具だったの? それにカラスさんたち、全く私の事を気にしなくなったよね。それってローブのせいかな?」
「たぶんとても古い術式が使われているのだろう。古すぎて解読不能だ。しかも俺様としたことがこれらには全く魔力を感知すら出来なかった。古の時代は謎が多い。何度か大陸ごと失われたらしいからな」
「これを着ると周りから見えなくなるのかな?」
「だろうな。けど、見破れる魔力があるやつもいるかも知れないし、あまり魔道具を過信するのは良くないだろう。ここまで古いと、いつまで魔力が保つかも不明だしな。が取り敢えず、これを失敬して行こうぜ。シャイラのケガの詫び代としてな」
「じゃあちょとの間、借りとくことにしようかな」
「借りるも奪うも好きにすればいい。必要なものは必要とする者が持たなくては意味がないだろう? 魔道具だって使ってこそ魔道具だ。カラスのガラクタコレクションにされて洞窟に寝かせて置いても、そのまま朽ちてしまうだけだ」
けど、このクラシカルな貴婦人調のゴージャスな帽子と、派手な死神みたいなラメがキラキラ光るローブは合わないし、これ2つ身につけたらすごくへんてこなカッコだよね。見えなくなるならどうでもいけど。
試しにナチャにローブを被せたら、あら不思議! 消えちゃったよ!!
景色はそのままで、生き物だけ消えて見えるらしい。
「私も試しにもう一回着てみるから見てて。帽子も被ってみるね」
ウッ?! ナチャには見えてる?
はっきりした表情は不明だけど、ナチャが私を見てニヤけてるのを感じるよ。




