モグラトンネル史
「た、大変じゃッ! 客人の小娘と魔蜘蛛よ!!」
突然、部屋の扉がバンバン叩かれた。急いで開くとモグラおじいちゃんがゼーゼーしながら私の肩までバンバン叩いてきた。私たち、背は同じくらいだね。
すごく興奮して慌ててどうしたのかな? 戸惑うよ。
「デンドルが死んでおるッ!!」
「えっ? デンドルって誰ですか?」
「デンドルを知らんのかッ!? 無事ここまで来れたお前たちはデンドルには会ってはいないのだろうが、噂には聞いておろう! 毒々しい赤に黒いまだら模様の、手の黒い巨大毒ガエルのことじゃ!!」
「・・・あ〜あ、あの赤い猛毒ガエルさんの名前はデンドルっていうのか。知ってるよ。けど、あの溶けたカエルさんには当分触らない方がいいよ。触った私の棒も半分溶けちゃったしね」
「小娘よ、あの溶けたデンドルを超えてここまで来たのか? それともミュリナス側から来て、デンドルの死骸で塞がれていたから諦めて戻ってここに?」
「ミュリナスって?」
「ミュリナスは網目模様の大蛇じゃ。デンドルとミュリナスは敵同士だが力は対等での、永き間均衡を保っておったが遂に決着が着いたようじゃ!!」
「えっと、ナチャと私がこのトンネルに来たのは、私たちがデンドルに丸呑みされて、そのデンドルは大きな生き物に丸呑みされたからだよ。たぶんそれはミュリナスという大蛇だと思う。ミュリナスはカエルの毒にあたって吐き出した。私たちは二重に食べられた末、トンネルの中で吐き出されたんだよ」
「おおっ!! なんと言うことじゃ!! なぜにそんな大ニュースをすぐにわしに言わんかったのじゃ!!」
「それが大ニュースだとは思わなかったよ。ねえモグラさん、私たちミュリナスに用があるんです。知ってることお部屋で教えて頂けませんか?」
「ミュ、ミュリナスにか?! 小娘よ、おまえさんいったい何者じゃ?」
*
落ち着いてお話するために、モグラさんを部屋に招き入れた。
私が清廉の雫の巫女候補になっていて、アルシアの眷属になるために今、承認試験を受けていることをモグラおじいちゃんにお話した。
「なんと! あなた様は巫女候補でアルシア様の友ご人のお嬢さんだったとは。永いこと巫女候補は現れなかったから、宮殿からの公式冒険者の存在すら忘れておったわい」
あれ? 私、「小娘」から「お嬢さん」に変わったよ。
「私はシャイラだよ。モグラさん」
「わしは知的モグラ、名はトレイルじゃ」
「デンドルとミュリナスについて教えて貰えますか? このトンネルに住んでるの?」
「わしは若き頃、密林を楽に通行出来るようにトンネルを掘ったのじゃ。そして通る者らに代価を貰っておった。しかしいつしかこのトンネルの東側入り口に、大きな毒ガエルが現れるようになった。古代外来生物由来の危険な輩だったが、わしの力では追い払うことは叶わなかったのじゃ」
わぁ、地下トンネルに歴史ありだね。
「わしはその頃、まさにこの部屋に住んでおったが、その頃のデンドルは、あれほど大きくも無かったからこの入口の細道に入ってこられるんじゃないかと心許なくてのう、納屋の部屋のさらに地下に部屋を作り潜ったのじゃ。その部屋から地上への自分用の出入りも掘った。その頃、カエルの臭いに誘われたのか、同じく古代外来生物由来の大蛇ミュリナスまで現れるようになって、わしは商売上がったりじゃ」
だからこのお部屋はすべて不自由なく揃っていたんだね。なるほど〜。
「やがてデンドルもミュリナスもさらに巨大化し、ここの細道も安全になったでの、空いたこの部屋でわしは休憩所を始めたのじゃ。通行者の避難所にもなるし、多くの者らに地下暮らしの素晴らしさを知って貰えるしな。宮殿にも伝えて庭園地図にも載せて貰ってるぞい」
おお、そうだった! ちゃんとした地図が欲しい。
「あの、ここに庭園の詳しい地図はありますか? 私のは溶けてダメになってしまいました」
「残念ながら詳しい地図の配布は禁止されておるので差し上げられぬ。中にはこの庭園に無断で侵入する不届者もおるでのう。そやつらに過剰な情報を与えぬためじゃ。だが、清廉の雫の巫女候補なれば、わしの持っている特製地図を見せてあげよう。ここを出る前にわしの部屋に寄ってくれ」
「ありがとうございます。えっと、それで宿代と通行料のことですが・・・」
ここは後払いにしてもらうしかないよ。でもって今は、お部屋もキレイにお掃除して、何かお手伝いするとかで見逃してくれないかな。
「シャイラ、わしが清廉の雫の巫女候補から料金を受け取るなんてあるわけないじゃろう?」
わわ、まさか清廉の巫女候補ってそんな特別な存在なの?
「でもー・・・それはありがたいけど、本当にいいの? 恩は近い内にお返ししたいです。試験に落ちたらもうここには来られないから無理かもだけど・・・。ご飯も美味しかったし、ゆっくり休めたし、心地よい宿でした。私アッ、そうだ! ゼニスおばあさまのお部屋でいただいた焼き菓子を持ってるから、トレイルさんにもあげるね!」
私は早速、リュックをガサゴソ。
「おお、統括省トップの、至宝の知的知識の持ち主と言われるゼニス様にあやかれるとは! シャイラよ、合格出来るといいのう。おまえさんがまたここに戻って来るのを期待して待っておるぞ」
私、トレイルさんのためにも頑張らなくっちゃ!
*
出発前に、トレイルさんに地図を見せてもらって、そして宿泊者記念グッズまでもらった。
再びトンネル本道に戻ったナチャと私。ナチャのお尻の明かりでテクテク歩く。
「これは決してシャイラのために照らしているのではない。俺様は自分のために照らしているのだ。神とやら、聞いてるか?」
ウフフ、ナチャはいつもさりげなく優しいんだよ。
トレイルさんの地図によると、このトンネルを出たら、まもなくあの巨大モンステラ群にたどり着くことが分かった。祠はモンステラ群に環状に広く囲まれていて、その中心にあった。
だからモンステラの林の迷路を抜けたら祠にたどり着ける。ただし、その前に短剣を取り戻さなきゃだけどね。
「ああ、俺様はトレイルという不味そうなモグラじいさんを食わずに済んでホッとしたぜ」
私の肩に乗ったナチャがつぶやいた。
「えっ? あれ、本気だったのッ!!」((((;゜Д゜)))
「冗談だ」
ナチャったら、私が昨日、繭の中でゲロ吐きで脅したこと根に持ってた!
いささか休みます m(_ _)m




