夢見の子守唄
「わぁ・・・すごーい! かわいいお部屋だね。ふかふかベッドもあるし、タライのお風呂もあるよ! 台所までついてる。まるで普通のお家みたい」
水場にはどこからが清水が引かれていて、大きな水瓶に流れ込み、その滔々と水を湛えた水瓶の下方に付いた細い筒からは、常に水が流れ出ている。エントツ付きの小さなカマドまであるよ。
「ほぉ、確かに地上のあずま屋とは雲泥の差だ」
まもなくモグラのおじいちゃんがやって来て、果物バスケットとパンとチーズと温かいスープを持って来てくれた。
「ほら、ペットの魔蜘蛛には生きのいい極上のミミズじゃ。わしのとっておきじゃぞ? 料金は割り増しじゃがな」
モグラさんのキンキンした高い声は、ちょっと耳に痛い。
「ありがとうございます。ここはお空がないから時間がわからないです。地下ではどうやって時間を知るのですか?」
「小娘よ。ほら、チェストの上に、魔時計草の鉢植えがちゃんとあるじゃろうが。花の開き具合で読むんじゃが、子どもではまだ時計を読むのは難しいかの?」
「あれですか? お花が時計だったんだ! 私、初めて見ました」
「・・・ほお? 魔蜘蛛を連れた小娘は普通の人間なのかな?」
私はこの不思議世界のビジターで、住人ではないもんね。不思議な力も特に持ってない。
「まあ、そうです」
「ほお? どんな縁でここに来れたのやら。無事でなにより。ま、本道のトンネルは危険じゃが、ここは地下道のオアシス。ごゆっくり過ごしなされ。だが、昼過ぎたら延長料金じゃぞ? では。ごゆっくりなされ」
第一印象よりも、人柄はいいモグラさんみたいだけど、商売にはシビアだよ。明日の支払いは困ったな。
*
モグラおじいちゃんが去ると、ナチャは食事が置かれた小さなテーブルに飛び乗った。
「チッ! あのもぐらじいさん、セコい商売しやがって。これは宮殿のあずま屋の便乗商法だろ! ・・が、取り敢えず食事だ。お、これはッ!! ムシャムシャ・・・」
ナチャは、文句を言いつつ、美味しそうにミミズを頬張ってる。
わあい、私も温かいうちにいただきまーす!
「ここへの入口があの細道ならば、巨大生物は入って来られない。あいつらは、俺の魔力も読み取れず、恐れることすらせず飲み込んだのだから、双方とも知能はイマイチの上、体がデカいだけで魔力はほとんどないのだろう・・・お、これもなかなか・・・(*´ω`*)」
ナチャは、今度は身体と同じくらいの大きさの青リンゴに抱きつきながら、ムシャムシャ齧り始めた。
「もしかして、ここにお客が来ない原因は、このトンネルのあっちとそっちの出入り口で、毒ガエルさんと大蛇がそれぞれ縄張りにしてたってことなのかもね」
「そう推測するのが自然だな。明日の朝、あのモグラじいさんに聞いてみればいい」
パンもチーズもスープもすごく美味しい。ここを見つけられたのはラッキーだったよ。
「さて、私はお腹いっぱいだよ。タライ水を浴びてもう寝ようっと。明日に備えないとね。ナチャもお風呂に入る?」
「蜘蛛の姿の俺様には風呂は不要だ。さっさと入って来い。その後で俺に・・・えっと、その・・・」
ナチャが前足を忙しなく動かしながらモジモジしてる?
「えっと、どうしたの?」
「俺は起きてシャイラを待ってるから風呂から出たら、俺に・・・こ・・・こ・・・こも・・・」
急にキョドったりしてどうしたんだろ? なんか言いにくいこと?
「こも? 私に何かお願いがあるの? 言っていいんだよ? ナチャと私の仲だもん」
「・・・そ、そう? ならばえっと、俺様に子守唄を歌って欲しいのだが・・・」
昨日あずま屋で、ナチャを看病した時のあの歌だね。そんなに気に入ってくれてたんだ!
「そうなの? なら今すぐに歌ってあげる。ナチャはおねむの時間。さあ、おいで・・・」
お部屋の明かりをいくぶん暗くした。
私はベッドに腰掛けて、ナチャをお膝に乗せて、そっと背中を撫でながら昨日と同じ歌を歌う。
ナチャはとってもいい子だよ。ナチャの4つ並んだ目の深く碧い光が、もっと濃い色へと次第に沈んでいった。
ウフフ。ちょっと甘えん坊なとこもかわいい。清廉の雫を見つけるまでは一緒にいられるよね。
気持ち良さげに眠ったナチャを、そっとベッドの枕元に置いた。ヨシヨシナデナデ。
「ムニャ・・ムニャムニャ・・・フフッ、シャイラ・・・くすぐったい・・けどここも・・・ナデナデデ・・スー、スー・・・」
わわ、起こしちゃった? ううん、寝言だね。ナチャは赤ちゃんみたい。
私の夢を見てるのかな?
*
「昨夜確信した。シャイラの歌う子守唄には魔力が宿っている」
ナチャは起きるなり、私に言った。
「・・・人間の私に魔力?」
「シャイラ自身に魔力は感じないが、シャイラの子守唄には何故だか知らんが、何らかの心地良い魔力が生じている。理由はわからない」
「シャイラの歌で眠ると心地良い夢が見られるようだ。生き物は大抵は毎夜寝るが、いい夢を見られる夜なんて滅多に無いだろう? いくら願ったとしても」
そう言われればそうかも。
「心地良く楽しい夢は望んで見られるものではないし、金でも買えない。これは素晴らしき才能だ」
「・・・自分でも知らなかったけど、私にも少しだけど不思議な力があるのなら嬉しいな。ならさ、ナチャも昨夜は楽しい夢を見たの?」
「そういうことだ」
「へぇ~、どんな夢? 誰が出て来たの? ナチャと仲良しの人?」
「・・・忘れた」
ナチャはそっけなく言ってから、テーブルの裏側にカサコソ逃げた。
ふふん、私が出たことは知ってるもーん ( ・∀・)




