2人だけの秘密
※子供時代 シャイラの語りで φ(・д・)
おじいちゃんに手伝って貰いながら自分で編んだこの編み上げの履き物は、履き心地も良くてお気に入り。底は丈夫な麻でキツく厚く硬く編んであるし、足の裏に触れる部分は、丈夫で柔らかな布張りだよ。
私の足取りはウキウキ軽い。
今日はいいお天気だし、まだ午前中だし、2人で目一杯探検だね! まだ私が未踏のポイントに、アルシアが連れて行ってくれるらしい。
アルシアの目指す場所は、この宮殿の広大な庭のどこかにあるという祠。
宮殿周りと手前の噴水池のある辺は、お手入れ行き届いた優雅が漂うけれど、そこから離れればもうまるでジャングル同然。まあ、敷地は高い塀でぐるりと囲まれているらしいし、遭難することはないと彼女は言うから、私は信じるよ。
ちなみに私は、その塀というのは見たこと無いんだけどね。というか、宮殿の門すら見たこと無い。
だって、私をお迎えに来るアレックさんの馬車に乗ると、毎回いつの間にか宮殿扉の目の前に着いてる。馬車はめちゃすごい速さのせいか、最初と最後以外、周りの景色は溶けて見えなくなるんだもん。
門から宮殿建物前までのアプローチの間は、噴水池間近まで密林になってるという広大な敷地なんだって、前にアレックさんが教えてくれたよ。
*
トコトコ早足で歩くアルシアの後ろを遅れまじとついてく私。
結構歩いたね。
ここは蒸し暑い。おでこに汗が滲む。
アルシアの一歩一歩に、銀色の輝きを放つ彼女の髪が規則的に揺れるのを見ながら、私もテクテク歩いてる。
うっとりしちゃうよ。こんな綺麗な髪の人、他に見たことないもん。うらやましいったらないよ。だって私は真っ黒カラス色だもん。けどアルシアは、私の髪には夜空の星のとりどりの煌めきが隠れててステキだって褒めてくれるけどね。
アルシアったらまだ行くのかな? さっきから同じとこぐるぐるしてる感覚。だって景色はどこも似てる。
行けども行けどもまるで獣道。小さい私たち、わりと緑に埋もれてる。腕に当たる枝や葉っぱがウザい。
「アルシア。あと、どれくらい?」
「もう半分以上は来たと思うわ。ねえ、シャイラ。これは誰にも内緒よ? 私たち2人の秘密なのよ?」
「おお、秘密! わぁい! よくわかんないけど、2人の秘密って楽しいね!」
ちらりと振り向いたアルシアに、この探検について詳しい事情も知れぬまま返事をし、私と違ってササクレや傷あとなど全くない彼女の白い手を取って繋いだ。おしゃべりしながらも足は止まらない。
「・・・誰にも言ったらダメなのよ? ゼニスおばあさまにもよ? シャイラが誰かに話したら、私は死んじゃうかも」
「言わないってば。だって私はゼニスおばあさまも大好きだけど、アルシアのことが一番大好きだもん!」
アルシアはお友達だけど、憧れの存在でもあるんだよね。だって、本当に優しい上に頭も良くて、しかもこんなにも綺麗だもん。
「ウフフ、ありがとう。私もシャイラが大好きよ。お友達になってくれて嬉しいっていつも思ってる」
「私だってそうだよ。でも私の家族は誰も宮殿のこともアルシアのことも信じてくれないんだよね・・・。『家から都にある宮殿まで行くのに何日かかると思ってるんだ!』って言うんだよ。アレックさんのお迎えの馬車は、乗るとまるで宙を浮いてるみたいな感覚になるくらい滑らかだし、周りの景色が見えなくなるくらい速く走れるって知らないからね。そしておじいちゃんは、宮殿の貴人たちは、この国では黒髪しかいないって言う」
「・・・ふうん。それは仕方がないかもね。たぶん言っても無駄だと思うわ」
「お父さんお母さんは私に、家族やよその人に妄想を話すのはやめなさいって怒るし、お兄ちゃんお姉ちゃんは私をウソつき呼ばわりするんだよ。本当に夢かも知れないって自分でもモヤることもあるけど、でもこれは絶対に夢じゃないし。誰も信じてくれないけど、それでも私はすっごく楽しいからいいよ」
フッとアルシアの足が止まって私に振り向いた。
「・・・聞いて、シャイラには私のことを忘れて欲しくないの。死んで欲しくもないの。だから・・・」
「はっ?!」
私はアルシアの手を振り払うように放した。だって、アルシアの顔がマジ過ぎて、なんだか私を不安にした。
私の態度にビックリしたアルシアの戸惑い顔。
「・・・シャイラ?」
「・・・へーんなの。なんでそんな風に思うんだろ? まるでアルシアか私がもうすぐ死んじゃうみたいな言い方が嫌だ」
「あ・・ごめんね。そんなふうに聞こえてしまったのね。そういう意味ではないの。人間はいつか死ぬものでしょう? けど、年月を重ねても忘れないくらいの仲良しでいようねって言いたかっただけ。だって私が心を許せるのはシャイラだけだもの・・・」
美しく高貴な女の子に、目を潤ませた悲しげな顔でそんなこと言われちゃたら、私だってドギマギしてしまう。
「べっ、別に怒ってないしー・・・ヘヘッ。さあ、行こう! この道なりでいいの?」
照れ隠しに再びアルシアの手を取って、私はズンズン先頭を切って進み始めた。
*
「あれ? えっと、シャイラ待って。ここかも! 目印の "天空の巨大モンステラ群の林" があるわ!」
わわ、絡み合って何がなんだかわかんないけど、どれも巨木だね!
んっ!?
も、もしやこの幹にはたくさんの目が付いていて、侵入者を見張っているの? まさかね・・・ただの模様だよ。
地上に立ち上がった、無数の立派な蔓状の根っこがひしめいてる。あっ、この隙間で追いかけっこしたら面白そう!
あ、そうそう! 思い出した。ゼニスおばあさまに教わった。このツル、気根って言うんだよ。地上に伸びた根っこ。
私の手をパッと放し、獣道を逸れてモンステラの根っこの織りなす自然の迷路を果敢に進んでくアルシア。
「危ないよ! お嬢様がそんなとこ入ったら駄目だってば! 獣がいたり、ヘビに噛まれたり、蜂の巣があるかもだよッ!」
「大丈夫。さあ、ついて来て!」
構わず進むアルシア。
まさか、アルシアがこんな凛々しいお嬢様だったなんて知らなかった! 私、益々アルシアが大好きになってしまうよ!
「おうッ!! アルシア! ヒャッハー!!」
私のテンションはダダ上がりだよッ!!
*
「・・・抜けたわ!」
アルシアを追いかけた私の目の前には───
わぁ〜・・・
草むらと木の枝抜けるとそこも植物に侵食されてる。ここも太いツル根っこに幾重に締めつけられた石積みの構造物。気根はすごく上の方まで伸びて絡み合って、上は幹になって茂ってる。
「シャイラ見て! ほら、あの扉に彫られたシンボルマーク! 探してたのはこれなの!」
色白の顔を上気させたアルシアの顔が私を振り返った。
私的にはそのシンボルマークとやらは初見だし謎だけど。ナニソレ、ナニコレ?
アルシアは、今日私にこれを見せたかったの・・・?