表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芽吹きの巫女  作者: メイズ
魔蜘蛛と密林攻略
19/59

地下休憩所

 天井に残っていたコウモリさんたちが、パタパタ外に向かって行く。


 私は、なるべく足音を控えて洞窟を進んでく。不安を抱えながら。


 この奥に大蛇がいるとして───


 私の武器はリュックのホルダーに挟んでいた、この棒切れ一本だけ。しかも半分溶けて短くなった。これじゃまるで太鼓を叩く棒だよ。


 大蛇の足跡はまだまだ奥に続いてる。


「トンネル、どこまで続いているのかな? ああ、お腹すいた〜・・・」


「人間はすぐに腹が減るんだな。俺は何日も食わなくても全然平気だぞ? ・・・あんっ?」


 ふと、頭に乗っかってるナチャが、私の髪を引っ張った。


「おい、シャイラ。後ろを見ろ」


「なあに?」


 わ! 振り向いたら細い分かれ道がある。さすが後ろも見えてるナチャ。


 入口方向からだと見えない道だね。まるで隠してるみたい。


 よく見ると壁には、小さな下向き三角のマーク▽ が、一ついてる。あれ? これって・・・?



「・・・アッ!」


 そう言えば。


「シャイラ、どうした?」



 私は急いでブローシュアを取り出してナチャに示す。


「思い出したよ! 私がまだよく見て無かったのに、ナチャのゲロで溶けたあの地図にね、点線で描かれた道があったんだよ。『通行可能な祠への近道だが、避けた方がよい』ってなってた。あれって、なんだろうって思ったけど、地下トンネルの道のことだったんだ」


「では、大体の俺たちの現在地が分かったってわけだな」


「そうだよ! それはこのブローシュアの略された地図には載っていないけど、この辺り。でね、あずま屋の位置の印は、ほら上向き△だけど、この辺りに一つだけ下向き▽があるよ。これって地下のあずま屋のことじゃないかな? ここの壁におんなじ印がついてるよ!」


「・・・では、この細道の向こうには?」


「あずま屋があるんじゃない? ちょっと行ってみようよ。きっと食べ物もあるし、地下用の役に立つ何かアイテムがあるかも知れないよ。それにとっくに日は沈んで夜だよね。 お子様はもうご飯食べて寝る時間だよ」


「そうだったな。シャイラは人間のガキだ。普通のガキとはいささか違うがな。今日はいろんな事があり過ぎた。ここいらで休んでおくのも必要だ」


「そういうことだね! じゃあ、行ってみよう、ナチャ」



 ちょっとドキドキしながら暗い一本道の細道を進んで行く。


「明日には見つかるかな? このトンネルが祠までの近道ってことは、きっとこれは私が探すヘビさんだよね・・・」


「だろうな。災い転じたな」


 道なりに右に曲がって真っすぐ進んで左に曲がったら、オレンジ色のほんわかした明かりが見えた。


「あった! かわいいドアだね」


「まるでドワーフの家のようだな」


「扉の窓から明かりが漏れてるし、まさか中に小人さんがいたりして〜」


 ガチャガチャ・・・あれ? ドアが開かないよ。


 押しても引いても開かない。


「シャイラ、鍵穴も無いし、もしかして呪文がいるんじゃないのか?」


「うーん、そうなのかな? でも私、呪文なんて知らないよ・・・」



「・・ったく、誰じゃ!! 扉をガタガタと! それは押しても引いても開かないのじゃ! なぜならば───」


 中に先客がいたんだ! 急に聞こえて来た声に、ヒャッと飛び上がっちゃった私。



「なぜならば、それは引き戸だからじゃッ!!」



 扉が、ガラッと音を立てて勝手に横にスライドした。けど、目の前には誰もいないよ。


「・・・えっと? 今の声はどこから?」


 オレンジ色の暖かな光に照らされた部屋の中は殺風景。ただの洞窟だよ。あるのは干し草のベッド?


 一歩、部屋に踏み出した私の右足は、モニョッと柔らかなものを感触し、びっくりして引いた。



「ぎゃ~っっっ!! この無礼者めがッ! わしの大事な手を踏むとはッ!」


「エッ? ご、ごめんな・・・ワワワッ! ゲッ」


 この生き物はなに? 穴ポコから上半身だけひょっこり出してる。扉を開けて1歩目が穴ポコってて、中には謎生物!?


 私が踏んづけたのは・・・イノシシ? にしては変だよね。カワウソ・・・じゃないし。


「シャイラ。これは、モグラという生き物だ。一般的なモグラよりもずいぶんデカいが」



 ナチャは物知りだね。名前は知っていたけど、本物の姿は見たこと無かった。だって地面の下にいるんだよね。トンネル掘ってさ。あっ、ここはトンネル・・


「あの、もしかして、このトンネルを掘ったのはモグラさんなのですか?」


「エッヘン! そうじゃ。でもってここはわしの家じゃ。地下の休憩所はもっと先じゃ。ここは他のあずま屋と違ってデラックスな宿屋仕様じゃぞ。ほら、右に道が続いてるじゃろう? この先を左に曲がった突き当たりじゃよ。そしてお前たち2名様は───」


「ナチャと私?」


「ここを出て行く前に、トンネル通行料及び休憩所使用料をわしに払わねばならない」


 エエッ! 聞いてないそんなこと! 


「ちょっと! モグラさ──」 

「分かった。明日の朝支払う。さあ、行こうシャイラ」


 頭の上のナチャが、すかさず私の言葉を遮った。


 私、支払うものなんて何も持ってないけど、なんとかなるのかな? まあ、いっか。今はとにかく休まなきゃね。これからが本番だもん。



「じゃあモグラさん、おやすみなさい。先ほどは間違って開けて、しかも踏んづけてごめんなさいでした」


「うむ。小娘が蜘蛛のペットとは奇妙な組み合わせじゃな。まあ、ゆっくり休みなされ。わしがじきに夕食を部屋に持って行くでの」


《・・・ハァ〜・・・ここにたどり着く前にカモは皆あいつらに食われてしまうし、わしは商売上がったりじゃ、全く・・・》


 心の声をなにげに晒した独り言をブツブツ呟きながら、モグラさんは扉をバタンと閉めた。



「うっ!・・・なんたるヤクザ商法。俺たちはボッタクリのカモ?! しかもアイツ今、俺様をシャイラのペットと言ったのか? ・・・明日の朝、アイツを食ってやる。それで支払い問題も解決だ」


「フッフ。私はナチャがお友だちじゃなくて、ペットでもいいけどね」


「ナ、ナニッッ!」


「だって、そうしたらずーっとずーっとかわいいナチャと一緒にいられるもん♡」


「・・・ふ、ふざけてないで、さっさとデラックスな休憩所とやらに行け!」


「ハイハイ♡」



 そういえば私、この冒険が終わったらナチャとはお別れなんだ?


 なんだか心が痛い。


 ナチャとは昨日出会ったばかりなのに・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂きありがとうございます
眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ