短剣への手がかり
揺れが何とか収まって来た。カエルさんも疲れたのかな? 声もしなくなった。
「ナチャ? 変な感じだね。私たちが入ってる袋自体は動いてないみたいなのに、流されてる感じがする」
「ああ、俺たちはカエルの胃袋に入ったまま動いてはいないだろう。これは、もしかして・・・」
「・・・もしかしてなあに?」
「俺たちを食った大カエルが食われた。それも丸呑みされたのでは」
「エエッ! 私たち二重に食べられちゃったの?」
「たぶんな」
「あのおっきなカエルさんを丸呑みするなんて、それもすっごく大きな生き物ってことだよね・・・」
「だな。先ほどは、カエルの声しか聞こえてはいなかった。と言うことは、相手はあまり声を出さない巨大な生き物ってことだ」
「でもさ、赤いカエルは狩りの矢毒にも使える猛毒ガエルだよ。赤い皮膚に触れただけで毒だって私のおじいちゃんが前に教えてくれた。それを食べちゃうなんて、大丈夫なのかな?」
「さあな? 猛毒ガエルを丸呑みした生き物が、その毒に耐性がないなら、たぶん俺たちは────」
「ワワワッ! ナチャ、この揺れはっ!?」
突然、またもや地震が来た!!
私たちは、グイグイ押し込まれるように、激しく動かされてる。時に、大きな波に揉まれてるみたいに。
「ヒャーッッ!!」
私たちは、急にボサンッと投げ出されたみたいに動きは止まった。
やっと落ち着いたのはいいけれど、揺さぶられ過ぎて今度はほんとに気分が悪い。
「ナチャ、私今度は本当に気持ち悪くなっちゃったよ・・・」
「なら、このまま少し休んでろ。もう、揺さぶられることは無いし、今は安全だと推測する」
「どういうこと?」
「これは直接的なデトックス。ゲロってヤツ? 俺たちは、いわゆるゲロと呼ばれるものになった。これまでの状況から推測すると、俺たちを食った巨大毒ガエルは、何らかの巨大生物に食われた。勝って食ったはいいが、毒には勝てず、巨大生物は、腹で半溶けした毒カエルを吐き出したと見ていいだろう。よって毒ガエルはもう息絶えている」
きっとナチャの言う通りだ。さっきまで絶え間なく聞こえてた、低く響くドクドクした音や、サラサラ水が流れるようなした雑音が全く無くなってるし。
「わあい! ( ・∀・) 私たち、念願のゲロになれたんだ! 私、どっちかというとウンチよりゲロを望んでいたよ」
「同感だが、シャイラにとっては・・・まあこれはなんとかなるだろう。それにしても・・・フッ、あんな見てからに猛毒ガエルを丸呑みするなんて、よっぽど頭の悪い生き物だったに違いない」
そうかもだけど、毒キノコを食べ過ぎたナチャはブーメラン発言だね。
「なら、もう出ようよ。私はここで休みたくないよ」
「いや、まず俺が辺りを見回って来るからここで待ってろ。いいか? 絶対勝手に出るな。すぐに戻る」
前足でスッと繭に小さな切れ目を入れて、隙間からスルリと出て行った。
*
ナチャがいなくなったら真っ暗だよ。
心細くなって、私は心の中で歌を歌っていたら寝てしまってたみたい。
「おい、起きろ! ったく、シャイラは大物かよ? こんな時にスヤスヤ気持ちよさそうに」
「・・・あれ? いつの間に・・・で、どうだった?」
「ここから出てから話す。取り敢えず、大丈夫そうだ。向こうも今は毒ガエルのダメージ食らってるはずだろうし」
私、夢の中で考えてたよ。
鳴かない生き物で、カエルを食べる生き物って?
毒ガエルを丸呑み出来る巨大生物って?
もしかして───って。
*
((((;゜Д゜))) こ、これはひどい。
ゲロ溜まりの中のナチャと私。
繭を大きく割いて、中から顔を出したはいいけど、周りはぐちゃぐちゃだよ。
さっきナチャが言い淀んでたのはこのことなんだ・・・
このゲロを踏んだらダメだ。ナチャのゲロだって私の地図を溶かしたし、これだってそうかも。おまけにカエルの毒だって溶けてる。
ナチャは軽々ジャンプして、広がってるゲロ溜まりを飛び越えた。
「ほら、この位置へ飛ぶのがベストだろう。シャイラもジャンプしてこっちへこい。俺は手伝わない」
ちょっと待ってよ! 助走もないなら私には無理な距離だよ。ふぇ~ん、どうしよう。
困った。えっと、えっと、えっと (。ŏ﹏ŏ) うー・・・
───ねえ、おじいちゃんならこんな時はどうするの?
使えそうなアイテムなんて、私は最初から持ってな・・・
・・・くもないね。
私、閃いたよ!
背中に右手を回し、リュックのホルダーに挿してある棒を、スッと引き抜く。
じゃじゃーん! 私とナチャの思い出の出会い棒だよ。
目の前にかざしたこのアイテムに全てをかける!
大切な棒だから、こんなことには使いたくはなかったけど、仕方がない。
私は繭の舟に座ったまま、棒を使って漕いで、ゲロの海を渡る。本日2度目の船漕ぎ。
ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ・・・
カエルの皮膚のせい? ゲロ溜まりにはとろみがあるらしく、私の力でも少しづつ進んでく。
((((;゜Д゜))) けど、だんだん棒が短くなってない? 急げッ!!
岸に着いた時には半分になってた。最後は立ち上がってジャンプ!
「やったぁー! 私も無事脱出!!」
疲れたよ〜。腕もふらふらだし棒を握りしめてた手のひらが痛い。
ナチャは無事到着した私の頭に、ピョンって飛び乗った。
「・・・フッ、考えたな。褒めてやろう」
あれ? 私、ナチャにヨシヨシされてるよ。エヘヘ・・・
*
後ろを振り返ると、半溶けの毒ガエルさんの姿。とてもかわいそうだけど、私にはどうしようもないよ。これも自然界の法則だもんね。おじいちゃんもきっとそう言うよ。
「ここはどこなんだろう? それにしてもすごい臭いだね。このゲロ」
ここは洞窟の中? ナチャの明かりが無ければ真っ暗だ。
「ここは、俺たちが見たあのトンネルの中だ」
「じゃあ、出た方がいいのかな?」
「出るのは賢明ではない。なぜなら、猛毒ガエルの遺体で、俺たちが来た出入り口方面が塞がれている。人間のおまえは、俺と違って壁や天井を歩くことは不可能だろ。それに毒ガエルが塞いでくれているから、おいそれと他の生き物は入ってこれないから、何とかして出るよりも安全度は増している」
「奥に進むしか無いの? でもさ、奥に何がいるかわからないし、行き止まりかもよ?」
「シャイラ、目的を忘れるつもりか? 下をよく見ろ」
ナチャは地面にピョンって降りた。
お尻の光が急に強くなって、地面がよく見えるようになった。
「あっ、これって・・・!!」
そこには引きずるような太い一本の線。トンネルの奥に続いてる・・・
「・・・これって、大蛇の通った跡だよねッ。きっとそう。なら、この奥に・・・」
不気味な暗黒の向こうを2人で見つめた。
「ああ。大蛇がこのエリアに何匹もいるわけが無い。シャイラが探してる大蛇の可能性が高い。祠を開くための鍵となる短剣を取り返す手がかりは、ここにあるかも知れない」
「・・・私、行く!」
「そう来ると思ったぜ! 今ならヤツは弱ってるはずだ」
ナチャは私の肩にピョンって飛び乗った。
私、短剣を取り戻せるかな? ううん、取り戻すことでしか、私の道は開かないんだ。