【幕間】 思い出
────私ね、ずーっと前からシャイラのことを知ってたわ。
私のお気に入りのシャイラ。優しく聡明、そして勇敢な小さな女の子。
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シャイラ、ごめんね。
私の贔屓が過ぎたせい。あなたに良かれと思ってしたことで、返ってあなたに難題を与えることになってしまった。
あなたは大蛇から私の短剣を取り返さなければならなくなった。私はスペアの短剣を持っているけれど、今回は、さすがにあなたに貸すことは出来ないわ。
けれどシャイラ、あなたならきっと難題をクリア出来るって信じてる。
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果樹園の木陰に置かれた籠の中で、柔らかい布に包まれて泣いていた赤ん坊のあなた。
母親は作業に追われていて、あなたがお腹が空かせて泣いたって、すぐには来てはくれないの。
辺りに響く、その力いっぱいの泣き声。なんて元気な赤ん坊でしょう!
うぎゃー、うぎゃー、うぎゃぁーーーーーん!!
密林の小鳥たちがびっくりして、さざめきながら群れをなしてバサササ飛び立った。
これはちょっと危険だわ。四つ足の動物たちも聞き耳を立てているもの。
見かねた妖精が一人やって来て、美しい声で子守唄を歌いながら、青緑に輝く美しい羽根の鱗粉を赤子に振りかけた。
それは夢見の魔法───
あなたは妖精の祝福を浴びて、泣き止んだ。うつらうつらと眠気に誘われて。
碧くきらめくモルフォの粉を浴びたなら、浅い眠りの世界へ。
楽しい夢をみられるの。心の望むままに───
だからほら、ウトウト眠り始めたあなたの口元から、不意に漏れる小さな寝言の笑い声。
ああ、良かった。やっとママが来たようね・・・
抱き上げられたあなたは、空腹を思い出して大きな声で泣き出した。
*
あなた自身さえ知らないでしょう?
実はあなたは妖精の祝福を受けているの。
それはゼニスおばあさまでさえ知らないのだわ。
ねえ、シャイラ? 赤子の時に受けた妖精の祝福は長続きするものよ?
だからシャイラの歌う子守唄は、聴くもの全てに良き夢をみさせるはずなの。
ウフフ、シャイラはいつ気がつくかしら・・・?
*
哀しいわ。仲良しになったとしても、あの子もどの子もみな私のことは忘れてしまうのよ。
だからシャイラ? お願いよ。必ず戻って来てね。
────私が待つこの宮殿に・・・
少し休みます。次から第2の冒険です。