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タイトルとかとか、いただいて書きました。

廃棄された公爵令嬢、牛頭天王様の贄になる。

 



 この世界には、神から祝福された者が存在する。

 だが陰では『呪い』と恐れられていた。

 牛頭天王様もその一人。


 牛頭天王様の地方で着られている、へレンガという伝統衣装を身に着けさせられ、部屋へ押し込められた。

 そこで初めて彼を見て、祝福などといった甘い言葉は使えないな、と思った。


 浅黒い肌には奇妙な紫の斑紋様が走っている。

 ズボンのみ身に纏い、惜しげもなくさらされた素肌。均整の取れた逆三角形の身体はあまりにも大きく、威圧的だ。

 そして、赤い瞳は嫌に禍々しく、黒い髪の毛の隙間から天に向かって捻れるように生えている二本の乳白色の角はまるで悪魔のよう。


 正直、恐ろしい。

 どうにか笑顔を作り、カーテシーで挨拶した。


「はじめまして、牛頭天王様」




 ◆◆◆◆◆




 神々がまだ地上にいた頃、とある町の金に汚い富豪が人に化けた神を手酷く扱い、蔑ろにした。

 怒りを覚えた神々は地上を見放してしまう。

 こうして世界には恐慌が訪れた。

 ただ、一方で人々を見捨てなかった神もいる。

 それは祝福として人の身体に変化をもたらした。


 世界の中でも、私のいる国は神から祝福を受けた者の地位が高く、国の要職を担っている。

 基本的には家系に現れるが、稀に一代限りで次代はどこの誰に現れるか分からない、と言う場合もある。

 

「隣国の牛頭天王様が覚醒された。婚姻相手を捧げなければ、また疫病が蔓延するらしいぞ」


 隣国で先代の牛頭天王が身罷れたのが先月、今代はその家系の結婚適齢期の男性親族に顕現すると言われていた。

 



「オルレア、役立たずのお前には、牛頭天王の贄になってもらう」

「…………承知しました」

「良かったわね、お姉様。公爵家に産まれておきながら、今まで何の役にも立ちませんでしたものね。今回くらいはお国の役に立てるといいですね?」

「……………………ええ、そうね」


 私が生まれたのは、国を統べる竜神の一族。

 一族全員が竜に変身することが出来る。だが、私だけは変身出来ず、色もない。

 竜には赤竜や青竜など様々な色の竜がおり、色によって使える能力が変わってくる。

 私は真っ白で何の色もなく、竜にもなれない役立たず。


 自身の生まれた家で、使用人たちと一緒に働かされていた。そんなある日、父の執務室に呼び出されて言われたのが、先程のセリフ。

 どうやら私は覚醒した牛頭天王の妻に選ばれたらしい。


 牛頭天王は疫病の神。

 無慈悲で暴虐の化身とも呼ばれる存在。

 そして、そんな神に祝福されると、身体は禍々しく変化する。彼の機嫌を損ねると、身体から毒を撒き散らし、周囲の者は死に至る。

 先代の牛頭天王は自身を塔に幽閉しており、特定の使用人のみが接触できるようにしていた。


 牛頭天王は竜神族の女を娶ると、精神が落ち着くのだという。理由は定かではないが、太古の昔からそういう決まりなのだとか。表向きは。

 隣国には現在結婚適齢期の竜神族がいないので、近隣国家に依頼が出された。

 どの家も渋ったのだが、我が家だけは色良い返事をしたらしい。

 昨晩、夜間の戸締まりをして回っている時に、父の執務室から漏れ聞こえてきた。


『ほぼ間違いなく毒に耐えられずに死ぬんだ、オルレアなら何の問題もない。これであの国に恩を売れる。ちょうどいい破棄先が見つかってよかった』

『うふふふふ、お父様ったら!』


 牛頭天王と相性が悪ければ、身体から漏れ出る毒によって死ぬ。竜神族だから絶対に大丈夫という訳ではないのだと、その時に知った。

 私は――――贄だ。




 ◇◆◇◆◇




「はじめまして、牛頭天王様」


 着の身着のままで隣国に連れてこられ、入国した途端に目隠しをされ、大きな屋敷に到着した。

 そこで先ずされたのは、浅黒い肌の侍女たちによる入浴と着替え。牛頭天王様の地方で着られている、へレンガという伝統衣装を身に着けることだった。

 オレンジ色の丈が短いタイトブラウスと、ロングフレアースカートのようなもの。上下ともに赤や黄色やピンクで伝統的な刺繍やビーズでの飾りがある。

 それを着付けられ金飾りのついた立派な扉のある部屋へ押し込められた。


 そうしてどうにか振り絞ったのが、先程の言葉。


「老女かと思ったが…………髪が白いだけか」

「っ……はい」


 地を這うように低い声。

 魔力などなく、何の能力も持ち合わせていないが、彼から漏れ出る気配が酷く重たく感じた。


「今から何があるか、聞いているのか?」

「いいえ」


 何も聞かされてはいない。

 だが、部屋の奥に見えるベッドでなんとなく予想はつく。


「だろうな……」


 牛頭天王様がハァと大きくため息をついた。そして、髪の毛を掻き上げるようにしながらこちらに近付いてきた。

 震える身体を気力で抑え込もうとしたが、どうやら出来ていなかったらしい。


「来い」

「っ――――」


 手首を掴まれた瞬間、全身に微弱な電流が走ったような痛みを感じた。

 浅黒い肌におどろおどろしく走る紫色の紋様が、少しだけ発光しているようにも見える。


「こんな若さで贄とはな。自国で何をやらかした?」

「…………っ」


 なるほど、この人も理解しているんだ。妻という名目ではあるが、生贄だということを。相手が死ぬ可能性があるということを。

 そして、それは高確率なんだと思う。それに多少なりとも罪悪感を感じているのだろう。

 手首を掴まれた私の反応を見て、彼の瞳が悲しげな色に染まったから。

 威圧的な態度と言葉だけど、きっと根は優しい人なのだろう。手首を掴む力はあまり入っておらず、ベッドへと引っぱっていく力も、とても優しい。歩みを私の歩幅に合わせてくれている。


 この人はきっと、相手の死に心を痛める。だから、相手に罪がある方がいいのだろう。何より、父や妹の歪な笑み、ここまで連れてこられたときの対応からいっても、彼が求めたのは罪人。

 竜神族で罪人になるような者は少なく、相手探しに難航したのだろう。


 それなら私は、この人の心を守りたいと思った。

 見ず知らずの人だが、あの家から抜け出すチャンスをくれた。たとえこのあとに訪れるのが死だとしても、そういう運命だったのだろう、そう思えた。


「存在自体が、罪でした」

「…………くっ!」


 微笑んでそう答えると、牛頭天王様が真っ赤な瞳を大きく見開き、クツクツと笑い出した。何がそんなに面白かったのかと彼の顔を見が、彼は前を向いたまま。


「俺と一緒だな」

「一緒、ですか?」

「あぁ――――」


 相手が死ぬと分かっていても、行わねばならない儀式なのだ、と言われた。この国のために、国民のために。耐えうる相手が見つかるまで。

 ベッドの前まで連れてこられると、そこに座るように言われた。


「すまないが、お互いの体液を交換せねばならない」


 肩をとんと押され、上半身がベッドに倒れ込んだ。そこへ牛頭天王様が、ゆっくりとのしかかって来た。


「っ!」


 つまり、これから――――。


「…………優しくする」

「んっ」


 重なる唇は熱く、全身が痺れるようだった。


「んっ……っ、はぁ……はぁ……んっ」

「…………ん」


 ゆるゆると頬を撫でられ、閉じていた目を開くと、牛頭天王様の浅黒い肌に浮かぶ紫の紋様が、明らかに光を放っていた。


「なるほど?」

「…………どう、されました?」

「いや、気にするな。続けるぞ」

「っ……はい」


 知識としては知っていても、実際に体験すると、全く違うもので。

 恥ずかしいというか、なんというか――――。




 ――――で?


「いつ死ぬんですかね?」


 儀式というか、初夜と言っていいのか、な行為が終わり、ベッドで牛頭天王様に後ろ抱きにされていた。

 あまりの痛さに直ぐ死ぬものだと思っていたけれど、何だかんだと平気そう。

 もしや遅効性の毒とか?


「…………死なん」

「……………………はい?」


 なにを言われたのか理解できずに、聞き直してしまった。

 見てみろ、と持ち上げて見せられた彼の腕。

 そこには濃い紫の紋様があったはずだが、かなり薄くなっていた。


「浄化されているだろ」

「浄化?」

「ん。この紋様は体内に蓄積された毒の濃さや量を示している」


 なるほど、それならば彼の言う浄化も理解できる。薄くなったのだから、体内の毒も薄まった、ということ。


 ――――でも、なぜ?


 毒に耐えうる相手探しだったのでは? 死ななかったということは、たぶん私は毒に耐えれたのだろうけれど、浄化の能力などは持ち合わせていない。

 

「んー。そうだな。んー……まぁ、そのうち教える」


 妙に歯切れの悪い返事をされてしまった。

 もう少し話を聞きたかったけれど、抱きしめられ頭を撫でられているうちに、眠りに落ちてしまっていました。




 眩い光で目が覚めた。

 侍女たちが、部屋の中で右往左往しながら何かの支度をしていた。

 たぶん、彼女らの一人がカーテンを開けたから目が覚めたのだろう。


「陛下! 早く起きて下さい!」

「ん……………………今日くらい休ませろ」

「駄目です! 式典を行わねばなりません!」

 

 ――――へいか?


「ん? どうした?」

「貴方……国王なの?」

「言ってなかったか? あ、言ってないな。ん、国王だ」

「え……」


 ぽかんとしている間に、彼は腰に布を巻くと準備してくるとかで部屋から出て行ってしまった。

 私は私で式典の準備をするからと、湯殿に連れて行かれ、今後どうなるのかなど詳しく聞きたかったが、侍女たちは「陛下にお聞きください」と言うばかり。


「これを着るの?」

「はい」


 昨日着せられたへレンガという伝統衣装のもっと豪奢なものを着付けられた。今度は薄い水色らしい。

 そして、結婚式のような儀式に参加させられた。

 お祈りから始まり、飲めや歌えの儀式は五日間に及んだ。


 ――――長い。


 牛頭天王様と会話する暇などほぼなく、夜も別々の部屋だった。

 五日目の最終日にフラフラになりながら連れてこられたのは、牛頭天王様と初めて逢った部屋。


「来たか」

「えっと…………」


 あの日と同じく、上半身裸の牛頭天王様。

 あの日と同じく、紫の紋様が濃く出ている。


「消えたんじゃ?」

「…………様々な理由で浮き出てくる」

「様々な理由?」


 首を傾げていると、牛頭天王様が苦笑いをしながら私に近付いてきて、軽い口づけ。


「怒りや悲しみ、気の昂りなどだな」


 そう言うと、彼は私を抱き上げベッドに移動し始めた。

 

「牛頭天王さ――――」

「ラージ」

「へ?」

「ラージと呼べ」

「ラージ様」

「ん」


 牛頭天王――ラージ様が満足げに頷いて私をベッドに寝かせると、覆い被さってきた。

 まるで愛おしいもののように、白い髪に指を通してくれる。


 二度目のそれは、初めてのとき同様、全身が痺れるようだった。


 私のことを話さねばならないと思いつつも、彼から与えられる温かさは、今まで体験したことのないもので、もうしばらくこのままでいたいと思ってしまった。




 それから毎日楽しく過ごしていた。


 今まで読むことも許されていなかった本は、知識になるからとたくさん読むよう言われた。

 果物が美味しいというと、もっと食べろと口に詰め込まれた。

 外の世界を見たことないと言うと、街へ一緒に出掛けてくれた。

 仕事が忙しくあまり顔を合わせられない日もあるが、必ず休みの日は一緒に過ごしてくれるし、甘いキスもくれる。

 乳白色の大きな角を触ってみたいと言うと、擽ったそうにしながら撫でさせてくれた。


 ――――どうやら、私は愛されているらしい。


 ラージ様に出逢って、半年が過ぎようとしていたときだった。


「オルレア、お前の父と妹から手紙が来ているぞ」

「え…………ありがとう、ござい……ます」 


 手渡された二通の手紙。

 要約すると、妹がラージ様の妻になる、ということだった。

 私が耐えられたのなら妹も平気だろう、だから交代するようにと。


「…………」


 ――――結局、こうなるのね。


 私は何も持たない白。無能の白。

 幸せになる権利などなく、私は死ぬべき存在。


「……荷物をまとめて来ます」

「は? 待て。手紙に何が書いてあった?」

「妹がこちらに向かっているそうです。ラージ様の…………妻になるために」

「あ"? ソレを見せろ」


 文面を見せたくはなかった。中に書いてあるのは私がどれだけ役に立たない存在なのか、ということばかりだから。

 ラージ様の身体にうっすらと紫の紋様が浮き上がってきた。手紙は奪い取られるようにラージ様の手に渡ってしまった。


「なんだ……これは」

「妹がラージ様の妻に――――」

「違う! なぜこんな手紙を書かれて、お前は受け入れようとする。なぜ諦めたように笑う!」


 なぜと言われても。私はそういう存在だからとしか言いようがない。


「お逢いした日にお伝えしました。私は存在自体が罪なのだと」

「だからなんだ? なぜ受け入れる」


 なぜかは、手紙に書いてあったのに。ラージ様は自分の口で説明しろと言う。自分で自分の無能さを。なんとうい酷な人だろうか。


「竜神族に生まれましたが、色がなく変身もできない無能の白です。私は死ぬためにここに送られてきました。死ななければ意味がないと」

「っ…………!」


 ラージ様の肌がどんどんと紫に染まっていきます。これは、強い怒り。役立たずを娶らされたから? でも、彼も私が罪人として送り込まれたのを知っているはず。だって、彼自身がそう言っていたから。


『こんな若さで贄とはな。自国で何をやらかした?』


 私は贄なのだと。


「そういうことじゃない」

「え?」

「オルレアは、俺に愛されて嫌だったか?」

「…………嫌じゃありません」

「俺といて幸せじゃなかったのか?」

「っ……! しあ、わせ……でした」


 頬を熱い雫が伝い落ち、自分が泣いているのだと気付いた。

 ラージ様がそれを拭うように、頬を撫でてくれた。


「ならば本心を言え。お前はいつもそうやって諦めてきたんだろう? だが、ここでは許さん。俺の妻でいる以上、絶対に許さん。ここにいたいと言え」


 それは甘く優しい命令。

 

「っ…………ラージ様」

「ん?」

「わ、わたしは……」

「ん」

「……私は、ラージ様の側にいたいです」

「ん!」


 ニカリと笑ったラージ様の身体には濃い紫色の紋様。それは禍々しく輝いていた。

 こんな色は初めて見た。

 

「ハァ。この毒は、お前を抱いても収まりそうにないな」

「っ!」

「……………………そこで照れるのか? くそ。その反応は狡いぞ?」

「え? へ? え、あの、まだお昼――――」

「関係ない」


 まさかここから翌朝まで、愛され続けるとは思ってもいなかった。




「…………すまん」

「っ、ふふふ。ラージ様、愛してます」

「――――くっ、嫁が尊いっ!」


 ベッドから起き上がれずにいる私を、ラージ様はニコニコとした笑顔で看病してくれた。それは私に自信と勇気をくれた。愛し愛されていると、持てる勇気があるのだと知った。


 ――――奪わせない。


 父と妹が、嫁の入れ替えという前代未聞の行事をするために、ラージ様の下を訪れたのは、それから一週間後のことだった。

 彼らへの怒りが収まらなかったラージ様は、執務をずっと寝室でしていた。臣下たちが彼の毒に当てられてはいけないので。

 その間の彼のお世話は自ずと私一人がすることになったのだが、思ったよりも充実した日々を過ごせたので、実は嬉しかった。


 まぁ、それで彼らへの怒りが消えることはないのだけれど。ラージ様は何やら計画があるからと、必死に怒りを抑え込んで毒が漏れ出ないように……しようとはしていた。


「お久しぶりでございます」

「のうのうと生き残りおって。ちゃんと帰りの支度は済んでいるんだろうな?」


 王城に到着した父と妹を出迎えると、竜から人間の姿に戻って開口一番にそう言われた。相変わらず、この人は私を視界に入れようともしない。

 久しぶりに会ってみて、とても小さな存在に思えた。


「ちょっと、牛頭天王はどこなの!? 出迎えくらいしなさいよ」

「こらこら、相手は呪われているとはいえ国王陛下なんだ。敬う振りくらいはしなさい」

「えぇ? はぁい。あー疲れたぁ。もうわざわざ飛んできてあげたんだから、ご馳走くらいは用意してくれてるのよね? お姉様」


 あぁ、ここにラージ様がいなくてよかった。きっと、毒だなんだの前に、斬り捨ててしまいそうだから。


「牛頭天王様からご案内するよう命じられていますので。ついてきてください」

「なんだ。ここでも下女の仕事をしているのか」

「えぇー、可哀そー! あはははは」


 どんなにバカにされようと、もうなにも感じない。私はこの人たちに愛される必要はないし、愛されたくもない。愛する人はただ一人でいい。


「ラージ様、お連れしました」

「ん、ありがとうオルレア」


 ラージ様がニコリと笑い、横に来いと手招きした。


「さて、出迎えに行けず申し訳なかったな。見てわかる通り、この状態でな?」

「……はい?」


 父がきょとんとしてラージ様を見ている。妹は何やら頬を染めている。


「ん? 毒が収まらなくてなぁ。あぁ、大丈夫だ。この色だと、このくらいの距離ならな。だが、抑え込むのも疲れた」

「ヒッ!?」

「嫁を手に入れたら消えるのでは!?」


 ラージ様の浅黒い肌に、ぶわりと浮き上がる紫の紋様。それは美しく輝いていた。


「いつの時代の言い伝えだ。消えたら苦労せんわ。調節は出来るようになるがな」


 部屋中に濃い毒素が充満していく。

 

「調節?」

「いまそのツッコミはいらん!」

「申し訳ございません?」


 調節が上手く出来ずに人前に出られなくなっていたのに? と、考えていたら、口から漏れ出てしまっていた。ラージ様が、ちょっといじけてしまったのが、なんとなく可愛い。


「ひっ……イギッ?」

「ぐがっ……」


 ゲホりと咳をし、手にベットリと付いた血を見て父が慄いた顔をこちらに向けた。

 毒に感染する前なら竜に変身して逃げられた。でも今はもう無理。ラージ様の毒には様々な能力を打ち消す力があるらしい。


「おまェ……なゼ、平気なんっ…………ダ」

「さあ? 知りません」

「っ! くははは。あぁ、教える義理はない」


 ――――いえ、本当に知らないのですけど。


 そのうち教えると言われていたものの、そのままお互いに忘れ去っていた、というのが大きな理由でしょうけども。


「む? そろそろか? 竜神族だからか。結構持つな」

「そうなんですか?」

「あぁ、普通の者なら既に死んでいるだろうな。さて、追い返すか」

「はい」


 ラージ様の計画は、結構に酷かった。


 死にはしないものの一生苦しむ程度の感染性のある毒を植え付け、国に追い返す。

 当国内で感染させないよう、国境までは見張りをつけるが、隣国に入れば知ったことではない。

 

「向こうの国王には、既に手紙を届けている」


 殺さず、一生苦しませるようにと書いたらしい。

 

「対応が楽しみだ」


 この国はそれを命じることが出来るほど、立場が強いらしい。なのに、父と妹のあの態度。竜人族だから、神の祝福があるからと傲慢になった者の末路とは、見るも無残なもので。

 遠のいて行く二人を乗せた馬車をぼうっと眺めた。


「後悔しているのか?」

「いえ、微塵も」

「フッ。さぁて、滞っていた仕事を終わらせて、また愛を育むか」

「っ!? あまり大きな声でそのようなことを…………」


 慌てて止めようとすると、ただの浅黒い肌に戻ったラージ様が楽しそうに笑った。

 つられて私も笑うと、彼は初めて見る顔だと喜んでキスをしてくる。


 ――――なんて、幸せなのかしら。


「ラージ様」

「ん?」

「愛しています」

「ん、俺もだ」


 なぜ彼の毒が平気なのか、また聞きそびれているものの、幸せだからまぁいいかと思いつつキスを続けた。




 ―― fin ――




読んでいただきありがとうございます!

評価やブクマなどしていただけますと、笛路が小躍りしますですヽ(=´▽`=)ノ♪わーい


こちらのタイトルは、レスポンスキレッキレのつの狂いである(褒めてる)『ゆーしゃエホーマキ(https://mypage.syosetu.com/1541358/)』さんにいただきました!

めちゃめちゃ妄想が捗るタイトル、あざまっしたぁぁぁぁ!(土下座)



↓ あと、下の方に過去作のリンクありますので、気になられた方はじぇひ!

書籍化予定の作品とかもあるよっ!(大声)


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[一言] 諦めなくていいんだよ。幸せになっていいんだよ。 自分の口で本心が言えて本当に良かった。 この設定、とても好きです。
[良い点] これは良いハッピーエンドで良いザマァですね!
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