とうがらしは何故からい?
王子と姫が出てくるお話です。
むかしむかし、あるとても熱い国のお話です。
その国には、とても美しく、気立てのよい姫がいました。姫は、誰にも分け隔てなく優しく、その上とても賢かったので、王様や、お城で働く人々や、その国の民から愛されていました。
彼女と結婚したいと思う若者は大勢いて、近くの国からも遠くの国からも贈り物を携えて求婚にやってきました。
けれども、姫は、隣の国の王子に恋していました。隣の国は姫の国と長い間いくさをしていましたが、姫の兄が結婚した時には、隣の国の王子たちも宴に招かれたのです。
姫が恋した王子は、りりしく、武芸に秀で、仏様への信心も深い、申し分のない若者でした。姫は、少し話しただけで、王子を好きになりました。王子もまた、姫のことを一目見ただけで愛するようになりました。
王子は、姫と結婚したいと望みました。けれど、王子の父である隣国の王は、それを決して許しませんでした。姫の父王も、同じだったでしょう。
王子は、愛する人と結ばれない悲しみのあまりに、深い眠りについてしまい、目覚めることはありませんでした。
隣国からの便りでそれを知った姫は、国で一番えらいお坊様に相談しました。お坊様は、
「太陽が沈む西の方角へ、旅をしなさい。王子の目を覚ます物が見つかるかもしれませぬ」と姫に教えました。
そこで姫は、少しの金と宝石だけを持って、粗末な衣に身をつつみ、たった一人で西の方角へ旅立ちました。王はひどく悲しみ、姫の行方を探させましたが、誰も姫を国へ連れて帰ることはできませんでした。
姫はひたすら歩き、眠り続ける人の目を覚まさせるものを探し続けました。旅先で出会った全ての人に聞いて回りましたが、知っている人は一人もいませんでした。一年が経ち、二年が経ち、……やがて十年が経ちました。けれども、姫の探しているものはどうしても、どこにもありませんでした。
疲れ果てた姫は、ある夜休んでいる間に、一本の木になってしまいました。姫だった木は、枝を伸ばし葉を茂らせ、やがてたくさんの実をつけました。
それから何十年も経ち、一人の木こりが姫の木を見つけました。木こりはさっそく木を切り倒そうとしましたが、斧を一太刀入れたところで、おいしそうな青い実がたわわになっていることに気がつきました。木こりはその実を一つ残らずもいで、家に持ち帰りました。
その夜、木こりの夢に、見知らぬ美しい女がでてきて、泣きながら木こりに言いました。
「わたしがあなたに何をしたというのです。あなたはわたしに斧で斬りつけ、おまけに実を全て奪ってしまったでしょう」
見ると、女の胸には深い傷ができていました。木こりは、女の悲しそうな様子と、美しく威厳のある様子に驚き、手をついて謝りました。
女は木こりにまた言いました。
「わたしはもう枯れてしまうでしょう。だから、あなたにお願いしたいことがあるのです。あなたがもいだ実を、遠い東の国の、眠り続けている王子に届けてほしい」
目が覚めた木こりは、かごいっぱいの青い木の実を抱えて、東の方角へ旅立ちました。
道中で、木こりは、姫と王子の悲しい話を耳にしました。それで、自分が行くべき場所が分かったのです。
長い年月を経て、木こりは、とうとう王子の眠る宮殿にたどり着きました。その間、かごの中の実は、腐ることも熟することもありまりません。もいだばかりの新鮮な実を、王子にささげることができました。
王たちの見守る中で、木こりは、若い姿のまま眠り続ける王子の口に、一つの実を入れました。その実があまりにもからいので、王子は目を覚ましました。木こりは、王子の子孫たちからお礼に黄金の詰まった壷をもらいました。
木こりが持ってきた実の中に、一つだけ、真っ赤に熟した実がありました。王子がその実を手にとって、二つに割ると、その中から昔と変わらぬ美しさの姫が出てきました。
王子は姫と結婚し、二つの国の間に建てられた寺院で、末永く幸せに暮らしました。
王子を救った実は、香辛料として、今も多くの人々に愛されているということです。