宗治達の一日(百万一心)
翌日から、鶴姫は取り決めた様に毎日、久之助と共に高松城へ行き、宗治の一日を観察し始めた。
備中の武士の生活は、朝が早い。未だ日が昇っていない午前3時には起床する。
起床が早い理由は二つある。
一つは敵からの夜襲に備える為である。戦国の世は、戦が起こる場合、有効な戦術として敵が夜襲をかけてくることが多かった。
夜襲を受けやすい時間帯が皆が寝静まる明け方の夜、3時頃なのである。旧主の三村家の時代は、規模としては中小の戦国大名であり、敵から常に攻撃を受ける可能性があるという危機意識の中で生活していた為である。
毛利家の様に、戦国の雄と評されるほどの大大名であれば、支配領域が広い場合は、領地の場所によっては敵に接していない地域も有り、敵国と接する地域であっても、敵国は迂闊に攻めては来れないのであった。
但し、備中の国は不運にも、大国の中間に位置する国であり、正に奪い合いの対象になっていたのである。
もう一つの理由も、やはり戦が関係している。敵陣営の者は戦を仕掛ける前に、先ずは相手の領地の田畑を荒らすのが常であった。
戦の前に、相手の領地を荒らし、敵の力を削いでから、弱くさせてから戦を仕掛けてくるのである。
その為、備中の武士は朝3時に起床し、自分達の領地の田畑を見回りするのであった。
見回りが終わると、高松城に戻り朝食をとる。朝食をしながら、自分の上司に見回りの結果報告や、朝食後のその日一日の予定を確認していたのであった。朝食が終わると、武士は武芸の修行に励んだのであった。
領主である宗治は、主君からの依頼がある場合は、それをこなし、無い場合は領民同士の問題の仲介や仲裁に奔走していた。
仲介や仲裁の内容は、主に農作業に関わる農業用水の取り決め、農業道具の貸し借り、村人同士のケンカの仲裁、稀に結婚の仲介等もしていた。
清水宗治、いや宗治を中心とする清水家の領主として特異な点は、彼らは仲介、仲裁の仕事が無くても、平時はほぼ毎日領民と共に農業に従事する事であった。領主が領民と共に農業を行う、このような方法を取っている領主は備前の国の中には他にいなかった。
宗治達は、領民の農業を手伝いながら、村の問題を領民から直接聞き取り、又農作業を手伝いながら、戦に必要な土地勘を鍛えていたのである。
宗治が治める領地は大まかに5つの地区に分かれていた。宗治とその親族は、1週間を区切りに地域の当番を決め、毎日1人は必ず各地域へ派遣して領民を手伝っていたのである。
一日や二日という短期的に限られた日数ではない、毎日である。短期的に行うという事はそれ程難易度は高くない、毎日続ける・・・というのは実際大変な事である。
継続は力なりというが、正にその継続が高松城城主清水宗治、及び領主清水家であった。
雨の日もあれば、風が強い日もある、暑い日、寒い日、その日々を欠かさず手伝いに来る。そんな宗治達、清水家を領民達は慕っていたのである。領民を手伝う時の彼らは、非常に気さくであった。領主としての威厳はもちろんあるが、その態度は農作業のリーダーであった。
一緒に作業して、収穫の時期にはその成果を共に喜ぶのであった。
秋の収穫が終わる頃には、鶴姫も宗治が何故領民達の代表が危険を顧みず、小早川隆景に宗治の助命嘆願書を持ち直談判した理由が分かったのであった。領民にとって、宗治はいや清水家は領主である事はもちろん、農作業のリーダーでありそしてなによりも家族の一員である事がわかったのである。
その年の秋の収穫は、毛利軍が田畑の近くを行軍した際、一部の雑兵が田畑を荒らしてい為それが影響し、例年の6割ぐらいであった。
ぞの状況は、宗治達が収穫前の現場状況を詳しく把握していた為、予想ができており、宗治から主君である小早川隆景に報告していた。
隆景は、宗治に渡した書状の約束を守り、不作の事態に備え、兵量として備蓄していたお米を宗治の元に届けでおいたのである。
届けられたお米の量は、不作分を補って余りが出る量であった。
その処置に隆景の心遣いに、宗治はもちろん領民達皆が歓喜したのであった。
隆景の統治、いや毛利家の統治方法の基本は、国父毛利元就の百万一心という精神支柱の元に行われていた。
百万一心とは、領民全員が同じ心で困難に立ち向かい、協力して解決し皆一緒に幸せになろうという思想であった。
その為、毛利家の家風は何処かおおらかで優しさがあったのであった。
鶴姫が宗治、清水家、そして毛利家を領主として認める事になった、自分達三村家の統治方との差を感じ、悔しさと後悔を抱いた3ヶ月間であった。
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