冠山城の戦い【10】(羽柴陣中、物言う兄と言わぬ弟)
『小一郎、お主本当に、奴らが矢倉に火をつけると思っておるのか?。』と羽柴秀吉は驚きながら、呆れたように秀長の顔を見る。
『そうじゃ、あの者達は、約束は破らん。ワシには分かる。兄者、ワシのいう事が信じられんのか?』と秀長は、脅すような物言いで、まるで秀吉に重圧をかけるようであった。
『トラ、虎之助、お主も小一郎と同意見か?。』と秀吉は、又従弟である清正の元服前の名前を呼び、質問する。
『ハッ!、私も同意見でございます。』
『あの竹井将監殿の表情、一点の曇りなく、あの方は、私が城兵に弓で撃たれたことを、謝る殊勝な方でした。』
『こんな方が味方にいてくれたらとどんなに頼もしいだろうと、正直好感を持ちました。最後には、命を懸け戦おうとも申しておりましたし、私もあの様な男になりたいと・・・。』
『城主、林殿も、既に運命を受け入れているご様子、秀長様のおっしゃる通り、あの方達は約束を実行します。』と言い、清正は頭を下げる。
『お主ら、二人に口を揃えていう事であれば、信じざるを得まい。分かった。信じる。あ奴らではなく、お主ら二人をな!。』と秀吉は言うと、覚悟を決めたように腕を組み、その場に座り込んだ。
『秀吉様、少し状況は変わりましたが、結果する事は変わりませぬ。』
『夜襲をする事に変わりはありませぬ。ここは、相手の要望通り、矢倉から火の手が上がるまで、待ちましょう。』
『我が兵達も、今日まで戦い詰めです。ここは全軍に、夕暮れ迄休憩させる事に致しましょう。』と、同席していた黒田官兵衛が議論をまとめた。
『私は、人を信じ有岡城で酷い目にあった。しかし、それはそれ、毛利の者達がどういう人種かをみるには丁度良い機会かも知れませぬ。』
『こんな時代だから、約束をたがえない者達がいて欲しいと、思いたいものじゃな、なあ、忠家殿。』と官兵衛は、わざと黙って座っている宇喜多忠家に話をふる。
『・・・・。』、毛利を裏切り織田へ寝返ったばかりの宇喜多忠家は無言で、その質問に答える事は避けた。
(竹井将監という男、本当に読めぬ。ワシが考えた事が、こんなにも外れるとは、叶わぬことであるが、一度会いたかったな・・。)
黒田官兵衛は、自分が認めた未だ見ぬ男を想像しながら、その場を退出したのであった。
その次に、宇喜多忠家が『それでは、ごめん!!』と言って退出。
官兵衛と忠家が去ったのを見て、秀吉は加藤清正に近づく。
『トラよ、清正よ、矢倉から火が登ったら、お主が一番に駆け上がれよ!一番槍、一番首をお主に与えようと言うのじゃぞ!』
『気張れよ、初めて手柄を、シノ殿、お主の奥方と、生まれたばかりの其方の息子虎熊へ持って帰るのじゃぞ。!』と秀吉は言い、期待をかける又従弟の両肩に手をおき、叱咤激励したのであった。
『ハッ、必ずや!!』と、6尺3寸(約190㎝)の若武者は気迫を乗せた言葉を返し、その場を出ていった。
残った兄弟二人は、それから暫く二人だけで話し続けた。
『小一郎、未だ、なにかワシに隠しているダギャ。』と秀吉は、秀長を睨みつける。
『矢倉に火をつける見返りは何じゃ、黙ってみているだけで、そんな事せんじゃろうって。』
『見返りは、何じゃ。正直に言え。』と、秀吉は弟を尋問する。
『・・・言えん。兄者は黙って我らの仕事を見てればいい。』
『火をつけるまでに、城兵を逃がし、その間は手を出さぬと、そんなところじゃろ、お主も清正も、情に熱いからのう。』
『城兵を見殺しにする城主であれば、ワシは大嫌いだが、城兵を逃がす男は、好きじゃ。そんな男を殺さなければいけないとは、こんな時代、早く終われせねばな・・。』と秀吉が呟く。
兄の質問に無言を通した弟はそれを聞き、『兄者には無理じゃ・・・。』と短く答える。
言葉とは、裏腹に秀長の表情は、どこか兄を期待する様な目で見つめる。
百姓から城持ち大名になった奇跡を起こした兄が、また何かをやらかしてくれる日が来ることを祈っていたのかもしれない。
『そうじゃな・・ワシにはそんな力があるわけないか。』と秀吉は弟の気持ちを知らぬ様に、現実を見る眼差しを空にむける。天気は晴れていた。嵐の前の静けさの様に。
そして、話は冠山城へ戻る。
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