冠山城の戦い【8】(鶴姫の決意)
早島城についた鶴姫の目に入ってきた光景は、少なくなった城兵を補うように奥女中達が薙刀を持ち訓練する姿であった。
『突き、・・・・突き、』と大きな声が城内の庭で、所狭しと響き渡る。
二人の女性達が薙刀を振るう。模範動作をみせる女性達である。勇ましい姿と声で薙刀を振るう。
その他の女性達は、二人の女性の前に並び薙刀を持っている。模範の女性達と同じように対峙し左右に別れているのである。
『エェイ!』
左の模範女性が薙刀を振る、薙刀を振る一連の動作で3歩前進する。
女性は、動作が終わると薙刀を振る前の位置に戻る。
模範演舞する女性達の動作が終わり2秒経つと、左の女性達が同じように薙刀を振るう。
その動作よりも、声である。鬼気迫る雰囲気を、叫ぶ声が物語っているのであった。
(ああ、そういえば、あの時もこんな光景をみていたな。)
彼女達の訓練姿を見た鶴姫は、7年前自分の一族が毛利軍に攻められ、滅亡するまでのの日々を思い出してしまっていた。
(ああ、もしこの世に御仏がいるのであれば、何故女性達に武器を持たせ戦わせるのじゃ。どうしてこんな悲しい殺し合いに、女子供を巻き込ませるのじゃ、私はそんな御仏など認めない、大嫌いじゃ。)と鶴姫は無力な御仏を心の中で罵倒したのである。
鶴姫は辛い表情で彼女らを見守りながら、薙刀を振るう彼女らの行く末を心配していたのである。
暫くすると、模範演舞を見せていた女性が、訓練の終了を皆に告げる。
終了を告げた女性は、早島城主の妻、美津であった。
『午前の訓練は此処迄、急いで食事の準備に取り掛かりましょう!!。』
城内には、外から城へ避難させた彼女たちの家族、子供達がいるのである。
訓練の終わりは、彼女達の休憩を表すものではなく、別の仕事の始まりの合図であった。
多忙の中、彼女らも男達に負けず懸命に生きていたのであった。
美津は、服を整えると城の台所へ行き、数名の奥女中と共に昼食の準備をする。
朝食を作る際に、段取りをすませているので、手際のよい彼女達はあっという間に昼食の準備を済ませる。
食事を持ち子供達の待つ部屋に行く時には、美津の顔は城主の妻の顔から二人の子の母の顔に戻っていた。
『二人が、お世話になりました。後は私がやれるから、貴方も食事をして下さい。』と美津は、持って来た食事を畳の上に置き、子守をしてくれた者に礼を言って、その者に下がる様に指示を出す。
桃姫は起きていたが、彦丸は疲れて寝てしまっていた。美津は先ず、桃姫に母乳を飲ませた後、その後、彦丸を起こし二人で食事をする。
二人で食事をしていると、言葉を覚え始めた彦丸が美津へ質問した。
『はは、ちちは、おにたいじして、いつかえってくるの?』
『鬼が多くてね、まだ時間がかかるみたい。彦丸が良い子でまってれば、父上は頑張って早く帰ってきてくれると思う・・。』
美津は、幼い彦丸に言い聞かせながら、自分に言い聞かせいた。言い終わると、堪らず彦丸の小さい体を抱き寄せる。
『父上が、以前自分には鶴姫様という守護霊がついていると言っていたわ。その方のお蔭で、海での辛い訓練、原三郎様が誘拐されそうになった時助けてくれたと、だから、今回も大丈夫、きっと鶴姫様が父上を助けてくれるわ・・・。』と、美津は優しい声で愛息に伝える。
『つるひめさまが、イヌ、サル、キジ、みたいに、ちちを助けてくれるの??。』
『ええ、きっとね。』と美津は彦丸に笑顔をつくって答えようとしたが、その目は充血し涙がこぼれ落ちそうになっていた。
『つるひめさま、ちちをたすけてください。』と彦丸が、母の涙を止めようと励ますように言うと、美津は堪えきれず、口を押さえ泣いてしまったのである。
鶴姫は、二人の会話を聞きながら、自分の気持ちと使命を思い出したのであった。
『久之助は、私が絶対に守る。死なせはしない。』
『お主たちの元へ必ず返してやる、私がこの世に残った理由じゃ!御仏よ、みておれ、お主が誰一人救えないから、私が救ってやる、久之助を、そしてこの家族を。この鶴姫をなめるなよ。』
誰にも聞こえないが、鶴姫が己の決意を言葉にした時、『キャキャッ。』と赤子の桃姫が嬉しそうに声を出したのである。
鶴姫は、触れない3人に最期の挨拶をするかのように抱きしめるような仕草でより沿った後、早島城を後にした。
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