冠山城の戦い【6】(降伏勧告をする二人の使者と二人の城主)
翌日の朝、鶴姫は日の出と共に冠山城を離れ、早島城へ向かった。
鶴姫が冠山城を離れてから数刻後、織田方より降伏勧告の為、2名の使者が訪れる。
使者としてきた男は、羽柴軍総大将羽柴秀吉の弟、羽柴秀長と加藤清正という6尺を越える大男の若武者であった。
敵襲に準備し、殺気立つ冠山城の兵士達。その中に、たった二人だけで出向いたのである。
冠山城の城門の前に立ち、白旗を掲げた若武者の大男が大きな声で名と目的を告げる。
『冠山城の方々、我らは降伏の勧告をしにこの場に来た。城主の方にお繋ぎをお願いしたい。』
腹の底から出した若武者の言葉は、ゆっくりで、聞き取りやすく、そして堂々とした物言いであった。
冠山城で監視をしていた弓隊の者が一人若武者に矢を放った、威嚇を試みたのか、それとも感情に駆られたのか理由は分からない、しかしその矢は若武者へ一直線に向かう。
若武者は、微動だにせずその矢を当然のように素手で受け止める。
受け止めた矢を持ちながら、若武者は言葉を続ける。
『方々のはやるお気持ちは分かりますが、お話だけでも聞いて下され、もう一度だけ申す、我らは降伏勧告に参った、城主の方にお繋ぎをお願いしたい。!』
その若武者の一連の行動に、冠山城の者達が惹きつけられる中、城門から声が響く。
『皆の者、攻撃をするな!攻撃をしてはならん。攻撃をした者には罰を下すぞ!。城門を開け!。』と久之助は、城内の者に指示をして城門を開けさせた。
『我こそは、竹井将監と申す。お二人を城主林重真様にお繋ぎ申す。此方に参られよ。』と、久之助は若武者に負けない大きな声で二人に告げる。
使者の二人は、言われるまま、久之助の方向にゆっくり歩み寄る。二人が久之助の傍まで来ると、本丸の方向を指さし、城の中迄先導する。
城門をくぐり、本丸の入り口近くまで来た時、久之助は2人にだけ聞こえる声で、『先程は、家来が矢を放ってしまい、申し訳ない。』と短く謝罪した。
二人の方向にもふりかえらず、頭も下げない謝罪であったが、二人には久之助の誠実さが伝わる謝罪であった。
林重真の部屋に二人を通し、部屋を出ようとすると、林重真が久之助に、話し合いに同席するように命じられる。
その為、織田方の降伏勧告の使者2名に対し、冠山城側は城主林重真と久之助が応対する事になったのであった。
『某、羽柴秀吉の弟、羽柴秀長と申す。此度この様な状況で、我らを迎い入れて頂き、礼を申す。』
『短刀直入に申す、城を開城してくだされ、どんなに、城の方々が奮戦しても、時間の問題でござる、無益な争いで城の者達の命を粗末にされるな。』
『我が兄秀吉は、開城して頂ければ、城兵の者達の命は必ず保証すると言っております、又この戦の後、林殿に、備中の国の半分を治めて頂くとまで言っております。』『降伏をして下され!。』
秀長の声色は、冷静ではあったが、決して上から下の者にいう様なものではなく、相手の心、状況を同じ立場で考えた者の口調であった。
秀長の勧告を聞き、林重真は直ぐに断ろうと思い、言葉を返すつもりであった。
しかし、一番最初に声を出したのは、久之助であった。
『羽柴殿、この城には名水が出る井戸がございます。その水でお茶をいれますのでそれをお飲みください。』
『御使者の方に、茶も出さず帰したとあっては我らの恥でございます。』
『茶をお飲み頂き、一息入れ、話を再開いたしましょう。我らがいると、御寛ぎ出来ないと思いますので、御足労ですが別の部屋にてお待ち頂きます。』
『茶菓子も作りますので、少し時間がかかります。わらび餅はお好きですかな?』
秀長は、林重真の方向を向いていたので、久之助の方向に身体を向け、久之助の顔を見る。
久之助の顔を見て、久之助の真意を推察する。
『わらび餅ですか、いや恥ずかしながら、食べた事が有りませぬ。それは楽しみですな。』と秀長は答える。久之助の指示に従う事の意思表示であった。
久之助の突然の物言いに、林重真は驚きの表情を見せていたが、自分が同席させた久之助の提案を無下にも出来ず、同意するしかなかった。
重真の近臣が秀長と清正をに別室へ案内し、部屋には林重真と久之助が残る。二人の気配が遠のいていくのを確認して、重真が話し出す。
『将監殿、何じゃ、まさかお主降伏を考えておるのか?。ワシは、領地惜しさに降伏などせんぞ。』
『いえ、私も降伏など考えてもおりません。しかし、この城の者達の命については、考えなければならないと思ったのです。』
『籠城から7日がすぎ、討ち死にした者達の気持ちを考えると、降伏などもってのほかです。ただ、それはもしかしたら私のワガママかもしれない。』
『降伏勧告の使者を直ぐに返すのは簡単です。しかし、直ぐ帰す事は、今生きている城の者達の命を粗末にしているのではないかと・・・。』
『我らは、武士ですが城主です。』
『一人の武士なれば、戦うまでですが、城主が城の者達の命運を決めるのです、そんな大事な判断には、時間をかけ考えるべきです、直ぐに決めてはいけないと思い、あのような提案をしました。』
『グゥッ、・・・・お主の申す事、一理あるが、なにかお主考えがあるのか?以前、宗治殿が、お主の意見を聞くようにとワシに言った事があった。お主に考えがあるのであれば申してくれ!!』
『城主である我らは最後まで戦います。しかし出来るだけ、城の者達を外へ逃がすのです。』
『羽柴秀長殿は、実質織田軍の副将、話し合うのには最善の相手です。』
『・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・ そうじゃな、お主の言う通りじゃ。』と林重真は、久之助の想いを受け取ったのであった。
城を持つ二人の男は、城の者達の事を考え織田軍の降伏勧告への返事を相談したのであった。
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