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トラとシノの戦国ものかたり外伝(備中高松城攻め奇譚 わらび餅好きの女幽霊と優しき男達)  作者: 野松 彦秋
最終章 冠山城の戦い、備中高松城攻め

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冠山城の戦い【2】(命を燃やし切った者達)

『竹井将監を討ち取る事は出来ませんでした。』と、退却してきた兵の中で一番位が高い男は、息を切らせて報告した。


『あの男は、悪鬼のように、私達を追ってきて多くの兵が殺されました。』と男は言い、その状況を思い出したかのように恐怖に震える。


(死線を何度も切り抜けてきた我が宇喜多の兵を、ここまで震え上がらせるとは・・・、ここまで苦戦するとは思いもしなかった。)


宇喜多忠家は、焦っていた。このまま、無様な戦をしていると、織田軍に見限られてしまうという焦りであった。


忠家は声を出して一人の男を呼んだ。『佐島、佐島を呼べ、佐島兵右衛門を呼べ。あ奴なら、竹井将監を討ちとれる筈じゃ。』


数分後、甲冑を纏った男が姿を現す。『殿、兵右衛門参りました。』と忠家の近臣が忠家に男が来た事を伝える。


『佐島、来たか、お主の兵に任せる、あの城を落としてくれ!。』


『報酬は、如何ほど頂けますか?』と、男は聞く。


『3,000石を約束した誓詞じゃ、受け取れ。』と、忠家は男の事が良く分かっているみたいで、準備していた誓詞を素早く男へ手渡す。


『これはこれは、きっぷの良い事で、これだけの報酬を出すという事は、それだけの相手という事ですな・・・、承知致しました。準備が出来次第向かいます。』と男は頭を下げ退出した。


佐島兵右衛門は、槍働きのみで侍大将になった強者である。


宇喜多忠家は、敵に豪の者がいる時は、好んで彼を用いた。


しかし、兵右衛門には忠義の心が無く、報酬でのみ動く男で、強欲な男であった。


その為、忠家は彼を簡単には使えず、取り扱いの難しい男であった。


しかし、佐島に任せた仕事に失敗は一度も無く、いうなれば忠家の奥の手であった。


佐島が馬に乗り、冠山城の城門近くに来たのは5日目の夕方、太陽が隠れ、周囲がどんどん暗くなる頃であった。


鉄砲と弓の命中率を下げる為、佐島はあえてこの時間を選んだのであった。佐島の号令と共に、佐島の槍部隊が城門へ向けて突撃する。


慌てて、城から兵を出し、それを防ごうとする久之助であったが、相手にも勢いがあり、劣勢である。


味方の劣勢を補う為、久之助、松田、庄九朗の3人が前衛に出て、相手を防ぐ。佐島が指揮する槍部隊は、よく訓練されていて、久之助達3人の襲撃に動じず、前もって決められていたかのように精鋭10名が、3人を囲む。


3人が、敵の10名に切りかかろうとすると、其処へ佐島兵右衛門が馬に乗り割込み、久之助に槍で襲いかかる。


久之助は、佐島の槍の猛攻を剣で受け、躱す。助けに入りたい庄九朗と松田であったが、10名の槍部隊が行く手を阻む。


松田と庄九朗も、相手からの攻撃を受け、受けて躱すの精一杯であった。


相手の隙をつき、庄九朗が槍部隊の一人を切り倒す、それに併せるように、一呼吸おいて、松田も一人切り倒す。


二人の連携攻撃が、リズムに乗ったように、次々と相手を切り倒す。


3人目、4人目と切り倒した時である。4人目の男が、最後の力を振り絞り、庄九朗の刀をおさえ、離さない。


それに気づいた槍部隊の残り6名が、庄九朗を串刺しにしようと槍を一斉に突き刺す、突き刺す刹那、隣にいた松田が庄九朗を突き飛ばす。


庄九朗は、突き飛ばされ結果的に槍を躱し、庄九朗を突き飛ばした松田が代わりに6人の槍を体に受ける。ズブリズブリと鈍い音が鳴る。


『庄九朗、何をボケっとしておる、はやくこ奴らを斬るのじゃ!早くしてくれ』と叱咤激励するように大きな声で庄九朗に指示を出す松田。


松田は、自分に刺さった槍が自分の身体から抜かれるのを少しでも遅くする為、相手の方向に一歩ずつ前進する。


その姿は、能島の訓練時代に村上水軍の者達、訓練兵、久之助達に見せつけた松田の根性の集大成であった。


松田が動きを止めそうになった時、『うぅわああああ~』と庄九朗は奇声を叫びながら、狂った様に松田を串刺しにする者達を斬っていく。


6人を討ち取り、庄九朗は慌てて松田に駆け寄る。『松田様、大丈夫か・・・死ぬな。死ぬなよ。』と庄九朗は我を忘れたように松田を抱き寄せる。


『庄九朗か?・・・・スマン、目が見えん。無事か?』


『ああ、松田様のお蔭じゃ、なんで俺をかばったのだ。俺をかばわなければ、こんなキズを受けずに・・・。』


『何を言っておる、今迄何度もお主に救われたではないか、一度くらいワシに花をもたせよ・・・ワシは年上だぞ、お主の・・・・・。』と言うと、松田は静かに息を引き取った。


息を引き取った松田の顔は、苦しみの表情はなく、友を救った満足感のせいか非常に安らかな顔であった。


庄九朗は、あまりのショックに言葉が出せなかったが、大声で呻き泣いた。


泣き叫んだあと庄九朗は、かけがえのない友を失った苦しみを、ぶつける様に城門へ攻め込んでいる残りの槍部隊へ斬りこんでいった。


後ろから襲撃をうけた佐島の槍部隊は、堪らず侵攻を止め、その隙に冠山城の者達の守備体勢が整う。


時間稼ぎをした庄九朗は、10人ほど斬った後、数名の敵から報復を受け深手を負う。


深手を負いながらも、最後まで奮戦し、何名かを倒す。彼が力尽きる頃、冠山城の精鋭部隊が敵になだれ込んだ。


混戦の中、彼が命を燃やし切った時間を知る者はいなかった。敵を殲滅し、彼の遺体を発見した守屋が見た彼の死に顔も、まるで眠ているかのように安らかであった。


根性の男松田左衛門尉と農民の出自から足軽大将になった心優しき庄九朗の二人は、籠城から5日目に己の命を燃やし切ったのであった。

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