高松城城主の決断
高松城の清水宗治に、信長からの書状が届いたのは1582年の正月であった。
『降伏すれば、この備中の国どころか、備後の国を与えて下さるとは、織田信長もあった事も無いワシを高く評価してくれるものじゃ。』と言い、溜息をつく宗治。
戦況は、日に日に織田軍の方に傾いていっている事は、宗治達、高松城の人々も感じていた。
『六郎兄、どうしたらいいと思う?。』
『悪くない話じゃが、ちと買いかぶり過ぎだろう。お主の手に余るのが目に見えておる。』
『伝、お主の考えはどうじゃ?。』
『兄者の考えに従うのみじゃ、そういう難しい事は、兄者が決めてくれ!。』と宗忠が慌てた様に応える。
『本当に、相談がいのない兄弟達じゃ。』と言いながら宗治は諦めたかのように頭をふりながら目を瞑る。
目を開けたかと思うと、『与十郎、与十郎はおるか?』と、大きな声で草履取の与十郎を呼ぶ。『ハッ、此処に!。』と廊下から与十郎が宗治の呼び声に答える。
『悪いが、この書状を、早馬で小早川の殿の元へ届ける様にしてくれ!。』
『織田が本格的に備中の国へ、調略の手を伸ばしてきておる事も、伝えるように頼む。』
『ハハァ、直ぐに。失礼いたします。』と与十郎は言い部屋へ、宗治から信長の誓詞をうけとり、直ぐに部屋を出て行った。
『与十郎も、何時もよく働くのう、そろそろ武士に取り立てても良いのではないか?兄、七郎三郎と共に?。』と月清が言い、宗治をみる。
『織田との戦いが終わり、おちついたら、取り立てようと思っております。』と宗治が言う。
『そうじゃな、その方が、あ奴らにとって、いいかもしれんな。』と宗治の真意を感じ取り、月清はそれ以上の言葉を口にする事を無かった。
『来年は、早島城から久之助達を呼んで、盛大に正月を祝いたいものじゃな、今年が我らの正念場の年になる、兄弟仲良く、頑張ろうぞ!!』と月清が弟を励ますように宗治の肩に腕を回し、肩を組む。
仲の良い三兄弟は、危機に直面する毎に、何時も3人で簡単に自分達の運命を決めた。
損得で人が動くこの時代には、珍しいこの三兄弟は、与えられた先祖伝来の土地と領民を守る主君への使命感に燃え決断したのではない、土地を管理してきた者の義務感から決断したのであった。
宗治から信長の誓詞を受け取った小早川隆景は、味方陣営の引き締めとして、境目七城の城主達に、戦の前に恩賞を贈ろうとしたが、清水宗治はその時も恩賞を断っている。
宗治は、既に城を枕に討ち死にする事を覚悟しており、恩賞が目当てで命を懸けたと思われたくないと断ったのである。
どんな時代にも、様々な人がいる。清水宗治は戦国時代では稀有な人物であった。しかし、稀有な人物を信じ運命を共にした兄弟、その家族達がいたのである。
1582年3月、清水宗治は娘と結婚した冠山城城主林重真より早島城城主竹井将監が与力として城の守りについた事を聞かされる。
その話を聞き、『林殿、久之助、いや竹井将監は頼りになる男です。』
『あ奴がおれば100人力ですぞ!千里眼の竹井とも呼ばれた、頭も切れる男です。』
『もし戦いの中、彼が上奏するような事があれば、耳を傾けた方が良い、それは必ず御身を助ける事になる。』と重真に熱く久之助を紹介する宗治であった。
『宗治殿の元で、清水四天王と言われた武勇、その人柄はワシも聞いておりますぞ。共に毛利の為、命をかけ戦う仲間になってくれて本当にありがたい事です。』と宗治のお墨付きをもらった男を信じて共に戦う事を改めて宗治に誓う重真であった。
林重真と暫く話し合い、重真が部屋を退出した後、宗治は冠山城の方角を向き囁く。
『久之助、来年の正月は必ず高松城に来るのだぞ。』
『お主と皆と一緒に楽しい酒を飲む日を楽しみにしておるぞ。』
『鶴姫様、もし未だ久之助に憑りついているのであれば、どうか、あ奴を守ってやってくれ。』
宗治は、仏ではなく、噂にきいた女幽霊鶴姫に、久之助の命を守って欲しいと願ったのであった。
嵐の前の静けさの様に、高松城の外では桜が満開で、春の陽気と共に穏やかな空気がながれていた。
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