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決行日(利用された男)

桐浦秀久は、忠義心の厚い武将であった。


しかし、結果的に薬売りの男の口車に乗り、彼らの行動を助ける事を決断した。


傅役(もりやく)の仕事を、ただの仕事としてやれる人間であれば、そもそも薬売りの男の話も聞かなかっただろう。


傅役という仕事を自分の最後の使命と考えていた真面目さが彼を迷わせたのであった。


薬売りが織田家の回した者である事に気づいたのは、3度目の来訪時である。1年の間に3度も同じ国へ来る薬売りはいないと、秀久は直接薬売りへ何処の回し者だと詰問したのであった。


すると男は、小寺政職(こでら まさもと)の家臣黒田官兵衛の手の者とあっさりと認めた。その場で男を切って捨てるのが正解だったのかもしれない。


秀久が刀の(さや)に手をかけ、薬売りを切ろうとした時、男は言った。


『既に備前の宇喜多も寝返っております。秀久殿は、毛利が織田に勝てると御思いか?。』


『私が怪しいと思っていたのであれば、何故、今私と二人きりで面会したのですか?。』と、男は秀久の迷いを見抜いていた。


僅か4年前迄、清水家は当時備中の国を治めていた三村家を主としていた。三村家が織田家と(よしみ)を結んだため、毛利家に滅ぼされた。


三村元親が毛利を見限った理由は、毛利が備前の宇喜多を味方に引き入れたからである。


長年毛利の手となり足となり忠義に励んだ父家親(いえちか)を殺した(かたき)を、毛利はその(かたき)を味方にひきいれたのだから、元親が毛利を見限り、織田へ走るのは当然だった。


秀久の主君、清水宗治が毛利の大軍を目の前に、戦う事を諦め毛利家へ臣従を決めた。家を残す事が、第一であったこの時代、その判断に間違いは無かった。


主君を替えてでも、生き残る事が、子を残し次の世代へ家を残す事が、この時代、いやそれが有史以来の人間の本能であった。


裏切者とは、主君を替えて失敗した者に対する蔑称であり、それは結果を知っている者だけに許される評論的呼び名である。


歴史には、裏切者が多数存在する。しかし、主君を替えて成功した者を裏切者という者はいない。

戦国の時代、先が見えない現実で、裏切を悪と言える者はいない、それは戯言(たわごと)であった。


秀久が宗治の嫡男原三郎の傅役という仕事に、自分の人生をかける。


それは、原三郎が生き残る事が前提であり必然であった。薬売りの男を使う黒田官兵衛の狙いは其処にあったのである。


優秀な傅役であればあるほど篭絡(ろうらく)しやすい。黒田官兵衛は、人間の本質を見抜いている、頭の切れる嫌な男であった。


薬売りと名乗る男の言葉は巧みであった。秀久の心情にあわせ、理論的に言葉を組み立てる。それは正に名人芸であった。


男の話は、嘘では無かった。真実の事も多かったのである。しかし、それは意図的に、秀久の不安を煽る為に用意された情報であった。


初めは、猜疑心を持って男の話を聞いていた秀久であったが、男が口を開くたびに、少しづつ男の考えに誘導されていった。


秀久は、男が持っている情報を総て聞き出してから、主君宗治へ報告しようと思っていた。しかし、それさえも男が秀家の思考を誘導し、させた考えであったのである。


男が自分の身の上を明かし、それから3度の話し合いを得た日、男は秀家に涙ながらに訴えた。


『織田が勝つか、毛利が勝つかは分かりません。唯、一つ言える事は忠義を尽くして滅ぼされた昔の三村家と今の清水家が重なってなりません。』


『今の当主、清水宗治様は毛利家への過大な忠義、それはまるで熱病にかかっているご様子。その熱病を覚まし、原三郎殿を救えるのは、傅役秀家殿以外にはおりませぬ。宗治様の留守のおり、城に残った宗治様の御兄弟と共に今後の清水家の行く末を冷静に話し合って下され!!。』


『その際には、私をお連れして下されば、私の口より宇喜多が既に織田へ寝返っている事を告げまする。又、宇喜多の手の者、何名かを連れてもいけます。』


その言葉を聞いた時には、秀久の気持ちは既に固まっていた。


(宗治様に、今一度冷静になってもらう必要がある、それは原三郎様の傅役を仰せつかったワシの役目じゃ・・・。)と秀久は思い、男へ『承知した・・・。』と短く答えたのであった。


男が指定した日は、宗治が播磨国(はりまのくに)へ向かった日から3ヶ月経った日であった。


その日、秀家は何時も通り高松城へ出仕する様子で家を出た。道の途中、薬売りの男と旅芸人の恰好をした男達と合流し城へ向かった。


城門へ一行が近づくと、門兵が3名おり一度止められた。


『秀久様、おはようございます。その者達は何者ですか?。』


『この者達は、原三郎様に呼ばれた旅芸人達と馴染みにしておる薬売りじゃ、城代(じょうだい)宗忠(むねただ)様に許可を得ておる。』


『暫し、お待ちを、確認に行かせますので!!』と、門番の責任者の男が一人の門兵に指図をし、指図をうけた門兵が城内へ走って向かう。


『ワシのいう事が信用できないのか?。』と秀久が門番に非難するように声をあげる。


『申し訳ありません、どんな方のお連れでも、確認する事が決まりになってお・・・』と責任者の男は言い終わらないうちに刺された、旅芸人の男の一人が持っている短刀で首に切りつけたのであった。


責任者の男は、咄嗟に自分の首を抑えたが、血は止まらず、数秒で力なくその場に倒れた。


『何をなさる、秀久様、・・・・ゴフッ。』ともう一人の門番が言い、大声で人を呼ぼうとした瞬間、ブスリと、聞き取れないぐらい低く、鈍い音がした。


長身の旅芸人の男が、神業のように一瞬で仕込み杖を抜き、門兵の心臓を一突き、門兵は血を吐きながら膝まづき絶命した。


更に、もう一人の旅芸人が城内へ走っていこうとする男を物凄い速さで追いかけ、追いついたと思うと、刀を抜き背中から一刀両断したのであった。


『誰か、敵襲じゃ、敵・・・。』と背中から切られた男が、最後の力を振り絞り声を出したが、一言のみであり、もう一声叫ぼうとする時に、止めを刺された。


この間、僅か数分である。男達の動きは、連携が取れており、全く無駄が無かった。それは、その者達がその方面で訓練された一部隊である事を証明していた。


男達の凶行を見せられた、秀久はその時初めて自分が利用された事に気がついたのであった。


『お主ら最初から、ワシを・・・、騙したな。』


『おっと、勝手に動かれては困りまする。既に秀久様のお家の方の命は、私の手の者が握っております。大人しく協力して下さい。』と薬売りの男は低い声で秀久に伝えた。


その声は、秀久が知っている薬売りの声とはまるで別人の様な冷たい声であった。


無人になった門を抜け、秀久を脅迫し先導させて城の奥へと入る一行。


早歩きで3ノ丸を越え、2ノ丸も越えいよいよ本丸を目の前にした処で、一人の男が斬馬刀を持ち、一行の前に立ち塞がった。


その男は、久之助こと、竹井将監(しょうげん)であった。

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