鶴姫の仮説(暗殺若しくは誘拐)
久之助は、月清に仲介を頼み難波宗忠に面会を頼んだ。表向きの理由は、祝言の晩酌人をしてもらった事に対する挨拶である。
話は直ぐにまとまり、翌日難波宗忠の屋敷に新妻美津と共に訪れた久之助であった。
屋敷では、難波宗忠の正妻静と宗忠の二人が揃って出迎えてくれて、4人で談笑し和やかな時間を過ごす。
一通りの話が終わった後、久之助の方から宗忠へ仕事の話があると切り出した。
仕事という言葉を聞いた宗忠の妻静は、気を利かせて美津と共に席を外してくれた。
二人が席を外したところで、宗忠が口を開く。
『お主が私に仕事の話とは、珍しいのう、私はどちらかというと戦場には出ず、高松城に残る立場なのでな、それでどんな内容じゃ?。』
『ハッ、高松城に謀略の手が迫っておりまする。』と久之助は、単刀直入に用件を述べた。
『謀略、物騒な事を軽はずみに言う出ない、・・・・何の根拠があってそんな事を言う。』と半信半疑の様子で久之助に理由を聞く宗忠。
『先日、私が城下町にて、不審な者達と出会いました。人数は、10人。旅芸人の恰好をしておりましたが、他国の忍びの者達、若しくは刺客では無いかと思われます。』と久之助は鶴姫から聞いた事を宗忠に伝える。
『他国とは、何処の国じゃ、今戦っている織田家の事か?』
『その者達は、多分備前の宇喜多の手の者達です・・・。理由は分かりませんが・・・。』
『どうして、その者達が宇喜多の手の者だと分かるのじゃ?何か証拠の物でも見たのか?』
『三村家親様ご愛用の鶴の刻印が入った鉄扇を持っておりました。暗殺された日に、宇喜多の刺客に盗まれた鉄扇を・・。』
『何を申すかと思えば、今から10年以上も前の事を、しかも、鉄扇があった事、盗まれた事等、私は聞いた事は無いぞ。』
『お主も、鉄扇の事等、何処で聞いたのじゃ?。』
『三村家と縁のある女性でございまする。』
『オイ、オイ、お主が前の妻子を亡くしてから、武芸にひたすら励み、周囲に女子を近寄らせなかっただろうが・・。』
『そんなお主を心配し、我が兄達が美津殿とお主の背中を押したと聞いておるぞ・・・。』
『確かに、そうなのですが、宗忠様、先ずは私のいう事を無条件に信じて頂けませんでしょうか、不肖竹井久之助、宗忠様を惑わす為に此処に来たのではございません。』
『何者かが、我が清水家に謀略を仕掛けようとしているのは、間違いないのです。』
『私が推測しますと、既に城内には他国の間者が入っております。
おそらく数名いると思った方が宜しいかと!。』と久之助は、とにかく自分の考えを宗忠に伝えた。宗忠が信じるかどうかは、その次の事だと判断したのであった。
『この時世じゃ、織田の調略がこの高松城に来るかもしれない事は私にも分かる。お主が軽はずみな事を言わない男だという事も私は分かっている。
しかし、軽はずみに信じる訳にもいかんのじゃ。一つの情報として、聞こう。』と宗忠は久之助の話を聞いた。
久之助は、宗忠に鶴姫が彼に伝えた仮説をそのまま伝えた。
織田家の者が、毛利の戦力を削ぐために、備前、備中の国に調略をかけてくる事。
宇喜多の手の者をわざわざ使い、高松城へ謀略を仕掛けるのは二つの目的がある事。
一つは、宇喜多に寝返り覚悟を決めさせる為、宇喜多の者に加担させるかどうか決めさせた。
城下町に宇喜多の者がいるという事は既に調略の手が伸びており、裏切るのも時間の問題だという事。
又、同時にそれを我ら清水の者達に知らせようとする意図がある事。
その為、彼らにわざわざその鉄扇を持っていかせた。
味方の宇喜多が織田に寝返ったと知った我らが、動揺し織田家につけば良し、それが叶わなくてもわが家への揺さぶりにはなる。
謀略を仕掛けた者は、其処迄考え済みで仕掛けてきていると伝えた。
そして、我々がその謀略に対抗するためには、気づかぬふりをして、なるべく穏便にその目的を潰す事。
彼らが決行する日の前に、彼らの目的を探り、来た処を捕らえる、又高松城から情報を発信している間者をそれまでに捕らえる事にあると伝えた。
『久之助殿、それは総てお主の考えか?聞けば聞くほど、納得してしまう。まるで一流の軍略家と話をしている様じゃ。』
『私も、少し考えよう、この時期じゃ、用心にこした事はないからな・・・。』
『最後に一つだけ、実行犯が少人数の場合、そ奴らが行動を起こす時は城内が手薄になる時と思いまする。』と話を切り上げようとしている宗忠に杭を指すように久之助は付け加えた。
『お主は、その者達が何をすると思っておるのじゃ?。』
『要人の暗殺、若しくは誘拐だと・・・。』
『・・・・・。』と久之助の確信を持った顔が、宗忠を沈黙させた。
宗忠は、話を総て聞いたうえで久之助達を帰した。
自分も聞いた事の無い鉄扇の事をどうして久之助が知っていたのかを疑問に思い、とにかく兄宗治に鉄扇の事を聞いてみるべきだと思った宗忠であった。
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