境界線(吉事と忍び寄る魔の手)
4人が課題を終えて戻って来た日から、月清は彼らへの教え方が変わった。
課題前は、4人は毎日同じ内容の修業をしていた。基礎を主体とする全体修業であった。
課題終了後は、その個人の力量、特性に応じて月清が訓練内容を決めるという個人修業が主となったのである。
久之助と鳥越は各人で、松田と庄九朗は2人で修業をし、それぞれの特性に合わせた個性的な剣術の達人へと変貌していった。
斬馬刀の修行を開始して、一年が過ぎる頃、4人は清水軍の斬馬刀部隊として43名(※)の精鋭槍部隊の遊撃隊とし軍に組み込まれる。
彼らが加わった清水軍の戦果は凄まじく、2年もしないうちに小早川隆景より命じられていた備中の国北方の制圧を成し遂げてしまったのである。
戦場では、久之助達4人が常に先頭に立ち、相手の敵陣に突っ込んでゆく。
一番槍、一番首、劣勢の時も、他の部隊が退却する中、47名の精鋭部隊は後方に最後まで残り、その中でも4人は人一倍奮戦したのであった。
気がつけば、毛利家の清水宗治、その精鋭部隊の名は中国地方に名を轟かせるようになっていた。そしてその核となる久之助達4人を人々から、清水四天王と呼ばれる様になっていた。
彼らの活躍が有り、備中の国は毛利の名のもと一枚岩となったのであった。
宗治の主君小早川隆景は、『これで織田家と戦える準備ができた。』と喜び、清水宗治の功を褒めたたえたのである。
小早川隆景は、宗治の功に報いようと恩賞を取らせようとしたが、宗治は収穫不足の際に隆景より頂いた兵糧米の事を挙げ、これを断った。
その欲の無さ、人柄に隆景をはじめ、毛利の上層部は宗治に信頼を強めたのであった。
清水兵達は、その話を聞き、主君の欲の無さを残念がったが、その欲の無さ、潔さが自分達の主君だと温かい気持ちで理解したのであった。
※七郎三郎と与十郎の兄弟は、宗治の強い要望で高松城へ残らされ、今迄通り七郎三郎は馬の世話係、与十郎は草履取を続ける事になった。
備中の国が一枚岩になった1577年、隣の国、播磨国に入った織田家の羽柴軍が上月城を攻め陥落させた。
陥落された上月城には、尼子勝久を担ぐ山中鹿之助および尼子氏再興を願う残党が入り上月城の防衛を任されていた。
毛利家と織田家の勢力争いの中で、約2年間この城を奪い合う両陣営であった。この城の奪い合いが終わった時、もし織田軍が勝利していれば次は備中の国に押し寄せてくる。上月城は実質、境界線であった。
そんな緊張の日々の中些細なことではあるが吉事もあった。
久之助と美津が祝言を挙げたのである。奥手の二人の背中を押したのが、剣術の師月清と宗治であった。
修業中に、何度か美津が久之助へ差し入れする姿をみて、月清が弟宗治にその事を伝えたことから、二人の関係は急速に進んだ。
『何時、戦場で命を落とすかわからないからこそ、守る者があった方が良い。
それが最終的に生への執着になる。』と宗治は、久之助を説き伏せ、美津へ求婚するように促したのであった。
久之助が美津へ求婚した際、美津は久之助へ一つの条件を出した。
その条件は、絶対に自分より先に逝かないという約束であった。
もう、2度と残されるのはごめんだと彼女は本音を久之助へ伝えたのであった。
彼女の本音に、久之助も自分の本音をぶつけた。
『約束はできないが、貴方の為に死に物狂いで戦い、そして必ず帰れるように最善を尽くす。』と言ったのである。
その言葉に偽りは無いと感じた美津は、長い時間考え、そして最終的に白旗をあげ、久之助の求婚を受け入れたのであった。
『どんな戦の功よりも、今日お主がお美津殿を捕まえた事が、一番の手柄じゃ!!』と鶴姫も嬉しがり、久之助を褒めた。
最初にあった時、久之助に感じた暗さが、彼を死へ誘うのではないかと鶴姫は一番心配をしていたのである。
美津の笑顔が、この男を変えてくれたと、鶴姫は美津へ感謝していたのである。
そんな中、高松城の城下町の宿屋で薬売りの男が、10人の男達と話をしている。
『清水宗治の息子、原三郎殿を誘拐し宗治を脅す、毛利を裏切り織田方へつくように脅迫するのじゃ。』
『決行の日は、清水家の主力が播磨国での戦へ毛利軍の与力として参加している時じゃな。』
『手薄になった城にいき、息子だけ確保すれば良いのじゃ、お主らの様な達人が10人いれば、手練れのいない城を占拠する等朝飯前であろう。その時は宜しく頼む。』
『御意、城に入ってしまえばこちらのものでござる。当日の手配、くれぐれも抜かりの無いように・・・。』
男達は、頭を下げると、頭目と思われる人物を先頭に足早に外に出て行った。
それを見送った後、薬売りの男が呟く。
『まさか、官兵衛様がよこした者達が、宇喜多の手の者達とはな・・・官兵衛様、恐ろしい御方じゃ。』
『あ奴らが、万が一しくじった時は、私が奴らを口封じしなければならないと思うと・・・それもまた面倒な事じゃ。』
原三郎の身に魔の手が近づいていたのであった。
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