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適性試験(半紙を拾い上げろ)

話は、月清が最後の弟子達を決めた日から5日遡る。


一ヵ月半ぶりに備中の国へ戻った久之助達49名は、翌日から3日間自宅での待機を命じられた。

実質、体の疲れを取る為の休暇を意味する措置であった。


久しぶりに、自分の長屋に帰った久之助であったが、自宅はきちんと掃除されていた。


その日は、疲れを癒すために、早めに寝床に着いたのだが、布団も陽の匂いがして、不在中日干しをしてくれた事に気がついた。


久之助は、女中として家事を任せている老婆の献身に感謝しながら眠りについた。


翌日の朝、日の出と共に起きた久之助は、慣れない手つきながら、自分で朝ごはんを作る。


『・・・お主も、そろそろ後添えを迎える頃では無いか?。』と苦闘する久之助をみていた鶴姫が話しかけてきた。


『鶴姫様、おはようございます。食事の準備の為に、後添えをもらうというのは、間違っておりますよ。』


『子供でもおれば、子供の事を考え・・・いや、それも間違いですな、私には鶴姫様がおりますので寂しくも有りませぬ。』と料理する手を休めず、鶴姫の質問に答える久之助であった。


『お主、今年で26歳じゃ、まだまだ隠居する齢でもあるまいて。」とそんな久之助を心配する鶴姫であった。


『こんな時代ですからな、何時織田家との戦いが始まるか分かりませぬ、家族がいると、残される者が心配で、自分の命が惜しくなるのも困ります。』と頭の固い事を言う久之助。


『家族がいるから、生きて戻ろうと死に物狂いで戦える、いやそもそも、結婚と仕事を一緒に考えてはならん。もう少し、融通が必要だと思うぞ、お主の考えには・・。』と弟分に、仕事人間の久之助に人生を楽しめと言いたい、鶴姫であったが、彼の性格も分かっているので、その日はあまり深追いしなかった。


とにかく、今は休息をとってもらう、それが一番大事だと考えたのである。


鶴姫は、意図的に話題を替える。


『そうそう、お主知っておるか?原三郎に傅役(もりやく)がついたのじゃ!』


『原三郎様に、傅役が、誰が選ばれたのですか?その方のお名前は?』と自分の知らない新情報を、鶴姫から教えてもらい慌てて確認する久之助であった。


『確か、周りの者がその者を桐浦(きりうら)と読んでいたなぁ、白髪の老人じゃった。』と鶴姫が必死に思い出そうと自分の頭に手を乗せ、絞り出すかのように一人の名前を挙げた。


『桐浦 秀久殿か、あの方は先代宗則様にも才を認められたお人、人望もあり、正に原三郎様の傅役にうってつけの御方じゃ。』と、鶴姫が出した情報から回答を導き出した久之助であった。


『原三郎は、未だ幼子じゃぞ、未だ早いのではないか?。』と、遊び道具を取り上げられそうになった子供の様な顔で、原三郎を心配する鶴姫だったが、『早い事にこした事はございませぬ。』と久之助に言い切られてしまった。


『3日後から、再び高松城へ出仕する生活に戻りますが、宗治様の兄月清様の修業を受ける者達と、宗治様の下で槍の精鋭部隊として集団戦術を学ぶ者達とを分ける適正試験を受ける事になっております。』と久之助は話を続ける。


『何も無ければ、私も原三郎様の傅役に立候補したいぐらいでしたが、桐浦殿でござれば、これで私も今のお勤めに専念できまする。』という久之助の様子を何処か寂しげに見る鶴姫であった。


その日、久しぶりに久之助と会った老婆は、久之助の為に腕によりをかけ美味しい料理を作ってくれた。


それは、まるで久之助の1ヶ月半の苦闘を労ってくれるような御馳走であった。


彼女の温かい支援のお蔭もあって、3日間の休みで久之助の疲れはほぼ完全に取れたのであった。


4日目の朝、久之助が高松城へ出仕すると、帰国者49名は城の一室に集められた。


その後、一人一人、名前を呼ばれ別室へ案内される。


久之助達6人組の中で、最初に呼ばれたのが守屋であった。


その後、10分もしないうちに別室で何かをして戻ってきた守屋に、久之助は別室で何をしてきたか知りたくて、守屋にそれとなく聞いてみたのだだ、守屋は、言葉少なく、『スマヌ、試験の事は口止めされておる。』と語り、自分の荷物を持って、部屋を出て行ってしまったのである。


その後、久之助自身が呼ばれ、別室へ案内させられた。


部屋には、宗治と月清がおり、そして鶴姫から聞いていた原三郎の傅役、桐原秀久が待っていた。


『久之助、能島ではご苦労であったな。』と宗治が労いの声を久之助へかける。


『運よく、脱落することなく、戻って来る事が出来ました。』と宗治の言葉に言葉を返す久之助。


そんな会話が終わると、『それでは早速、竹井殿にやって頂きたい事がございます、そちらに置いてある1枚の紙をお取りください。』と桐原秀久が久之助に指示を出す。


『但し、条件がございまして、片足立ちで、手は使ってはいけませぬ。』と条件を出す。


桐浦が、手で指した方向には、数冊の本が積み重なって置かれており、その一番上に一枚の半紙が置かれていた。


畳から20cm程は高いが、口で拾うとなると、難易度は高い、しかも片足となると、難易度は更に上がる。卓越したバランス感覚が求められるのは一目瞭然であった。


『片足立ち、しかも手では拾ってはいけないとなると・・・・。』


『口で拾えとおっしゃるのですか・・・?』と独りごとの様に囁き、試験官の3名の反応を確認する久之助であったが、3人は何も応えない。


『少しお時間を頂きたい。』と言い、久之助は半紙の取り方を自分の中でイメージする。


片足で、腰をかがめる姿で半紙を取ると途中で転んでしまうと即座に判断した。


最初から、できないと思う事を、久之助は選択せず、自分が出来そうな事を試そうと決断したのである。


『ご免!』と言うと、久之助は半紙が乗せてある本迄近づき、自分の肩幅より狭い本を中心にして両手で挟み、逆立ちをしたのであった。


地面(畳)を支える両手は指を立ち、しっかりと畳を握っている、足を目一杯広げ、バランスを取り逆立ちを安定させると、先ずは右手からと、左手の指を一本ずつ、畳から離していく、指が離れると同時に、口で半紙を咥える。2,3秒の間、片手で倒立状態を維持した後、本を避ける形で前転し起き上る。


『・・・・とりあえず合格じゃ。まさか逆立ちして取るとは思わなんだ。手も足と数える事もできるしな。』と月清が久之助の方法を辛うじて評価した。


能島の訓練で、死ぬほど腕立て伏せをさせられていた久之助にとって、逆立ちは朝飯前の仕事であり、小船操作運転で培った力のバランス感覚を出し切ってでの合格判定であった。


月清は、奇策と評価したのかもしれぬが、久之助は冷静に導き出した突破口であった。


『竹井殿、其方、頭も切れるが、何よりも、度胸が良いの!!。』と桐浦が笑顔で久之助を褒める。


『普通の者は、逆立ち等、考えぬぞ、しかも、其れを本番で直ぐに試みるとは、流石じゃ。』と先輩が後輩を褒める様に、桐浦は続けた。


『いや、片足立ちよりも、逆立ちの方ができると思い、ただ必死にできる事をしたまでです。』と恐縮しながら、答える久之助であった。


試験がおわり、守屋同様、自分の荷物をとりに待合室に戻った久之助であったが、案の定、試験内容は口外するなと命令されたため、他の者に伝える事は出来なかった。その後、久之助は何時もの通常業務に戻ったのであった。


適正試験の結果が出たのは翌日であった。


宗治の直属の槍部隊として選抜されたのが45名、それとは別に月清の元で、修業する者として4名の者の名前が張り出されていた。


鳥越佐兵衛、松田左衛門尉、庄九朗、竹井将監、久之助の名は、まるで補欠合格の様に最後に書かれていたのである。

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