月清入道の過去 後編(真柄家の弟)
『李先生、ワシも最後の弟子を育てる齢になり申した・・・・・。』と呟きながら、眺めた大太刀を鞘へ戻す月清であった。
『あ奴が、一番弟子のあ奴が亡くなって、もう弟子を育てる事も無いと思い、頭を丸めたが・・・。』と月清は、再び丸めた自分の頭を触りながら、回想の世界へ入っていく。
武者修行にもあき始めた頃、越前の国である家の当主より、息子に武芸の指南をして欲しいと依頼を受けその家の門をくぐった。
真柄家という家は、越前朝倉家に属してはいるが、武の名門で知られた家系であり、その領地に対しては領主朝倉家も口を挟む事ができないという自治権を認めらた特殊な家であった。
彼らの家系の男子は体躯に恵まれ、豪の者と呼ばれる武将を多く輩出した家であった。戦の際に、圧倒的な武功をあげる彼らを、領主朝倉家は重宝していたのである。
六郎が武芸を指南することになったその家の嫡男も例にもれず大きな体躯であった。
10歳で既に身長は5尺8寸(175㎝)を越えており、当時既に六郎の身長を越えていた。
その家の嫡男の名前は、十郎と言った。
自分の腕力に自信のある子供で、六郎と初めて対面した日、早々にケンカを売られた。
体は大人だが、心が幼く、先ずは心根を叩きなおさなければならないなと、六郎は大きくため息をしながら、仕方なく売られたケンカを買ったのであった。
六郎は金子の代わりに、情け容赦のない平手打ちを十郎に喰らわしてやった。
体のでかい幼子は、自分の挑戦を真っ向から受け、そして大人を見くびっていた驕りを叩き潰してくれた六郎に酷く懐いた。
それは、六郎も思いもよらなかった事である。翌日、家の者から追い出されると覚悟していた六郎の部屋に、十郎自らが修業をしてくれと呼びに来たのである。
六郎は、殿をつけず、十郎を名前のみで呼び、厳しく鍛えた。夏は、修業の傍ら、川へ泳ぎに行き、水術も教えた。
十郎が、六郎の弟才八郎と年が一つしか違わなかった事もあってか、六郎は弟に接する様に六郎と接したのであった。
『十郎、なんだ、その飯の食い方は、お前は犬か?もっと武士らしく食べろ。』
『十郎、なんだ、もう弱音を吐くのか、その恵まれた体が勿体ない、自分の限界を自分で決めるな。』
『よし、いいぞ、十郎、今の突きは、日の元一の突きだ。俺でも躱せん。もう一度だ!!。』
厳しい小言を言いながらも、十郎の良い部分を褒め、伸ばし、月清は指導者としても一流の武芸者であった。そんな、月清を十郎は師と呼ばず、兄者兄者と呼び慕ったのであった。
六郎が真柄家での生活をするようになり5年が過ぎた。もともと大きな体をしていた十郎の身長は、7尺(212㎝)を越えていた。
しかし、十郎の目は5年前とは別人の様に優しくなっており、それは5年間の修行が彼の心身を健やかに成長させた事を物語っていた。
六郎はそんな一番弟子の、彼の身長に合わせた大太刀を刀鍛冶につくらせた。そして、十郎の元服の儀の3日前、修行の終了、別れの記念とし手渡し、5年暮らした真柄家の人々に別れを告げたのであった。
泣いて、別れを惜しむ十郎に、六郎は『戦場であったら正々堂々戦おうぞ、我が一番弟子にして好敵手の十郎殿の武運を祈っておるぞ。』と十郎に初めて殿をつけて呼び、言葉をかけ、10年ぶりに、弟才八郎が待つ清水家へ戻ったのであった。
清水家に戻った六郎は、清水宗知と名乗り、幼い弟に変わり、清水家の部隊長として三村家、時には毛利家の与力として戦場を駆け巡り武功を挙げた。
また、十郎に武芸を教えたように、弟宗治にも自分が身につけた武芸を教え、清水家の縁の下の力持ちとして奮闘したのであった。
兄弟同士憎み合う家も多かったが時代、清水家には皆無であった。その理由はひとえに宗知という人物の人柄であったのである。
宗知の一番弟子の十郎は、元服後、真柄直隆と名を改め、越前朝倉家一の猛将として名を轟かせる。6年前の姉川の合戦で、味方の軍が退く際に、殿を務め、自分の死に場所を其処に求めた彼は、大太刀を武器に奮戦し、単身で織田軍に突撃し、12段あった陣の8段迄破り、そこで力尽きた。
彼を討ち取った刀は、真柄ぎりと命名され名刀として扱われた。
それほど、彼の武勇はずば抜けていたのであった。
遠き国で、一番弟子が死んだ事を知った宗知は、考える事があって頭を丸め仏門に入り、名を月清入道と改めた。
武芸を捨て、領民達と共に地を耕す事が彼の最後の使命とし、生を終えるつもりであった。
しかし、戦国の時代は、彼にそんな生き方をさせず、再び武芸の世界へ引きずり戻そうとしていた。
月清は、回想を止め、筆に墨汁をつけ、白紙に4名の者の名前を書きだす。
鳥越佐兵衛、松田左衛門尉、庄九朗、竹井将監
49名の精鋭から、月清が選び抜いた最後の弟子たちになる者達の名前であった。
『この月清入道、再びあの頃の斬馬刀の六郎へ戻るとするか・・・。』と言う月清の顔は、若々しい目をしていた。
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