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トラとシノの戦国ものかたり外伝(備中高松城攻め奇譚 わらび餅好きの女幽霊と優しき男達)  作者: 野松 彦秋
第3章 選抜訓練

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最終試練(総出の大合唱)49/200

小船操作の訓練が終了した翌日、久之助達を取り巻く環境が変わった。


日程は、ほぼ休みなく、様々な訓練が盛り込まれ、一つ一つの訓練時間が長く、体力回復に必要な睡眠時間も大幅に削られたのであった。


しかし、大きな変化はそれだけではなかった。村上家の監視員の管理方法及び態度が大きく変化したのであった。


彼らは、訓練中手に竹刀を持ち、動きの悪い者には容赦なく、竹刀で活を入れるのである。


活を入れられた者の中には、その場で倒れてしまう者もいたが、倒れている時間が長いと、追い打ちをかけて活を入れてくるという、厳しいモノであった。


その為、活を入れられた者達も痛みに耐え、必死に立ち上がるのであるが、当然体力は削られ、精神的にも追い込まれるのである。其れは訓練とは名ばかりの、シゴキであった。


監視員の目的は、清水兵の参加者を一人でも多く脱落させる事、実際に分からないが、訓練を受けている者全員がそう感じる苛烈なシゴキであった。


そんなシゴキを、久之助達6人はなんとか耐えていた。


何時終わるか分からない、地獄の苦しみである。訓練初日より5週間の苦しい訓練を耐えてきた猛者である55名の中からも、6日間で6人の脱落者が出ていた。


6日目、久之助は監視員の強烈な一撃を受け、地面にひれ伏した。直ぐに立ち上がろうとしたが、疲労の限界まできた腕に、力が入らず直ぐに立ち上がる事は出来なかった。


数分後、別の監視員が立ち上がれない久之助に追い打ちをかける。力一杯蹴っ飛ばし、『何を寝ておる、早く立ち上がれ!!。』と怒鳴りつける。赤組を担当したあの若い監視員だった。


男の厳しい激に、言われた通り精一杯力を出し、久之助は何とか身を起こし、浜辺に膝をつく。両手をつき息を吸う。


苦しみながら、呼吸を整えようとする久之助の耳元に、男が囁く。


『もう辞めちまえよ、お前は良く頑張った、早くあの鐘を鳴らしちまいな。』


『鐘を鳴らせば、こんな苦しみから解放されるぜ。もう冷たい海にも、厳しい訓練もしなくてよくなるぞ。』


『理不尽な暴力も受けなくていいのだぞ、早く、鳴らしちまえよ・・。』と正に地獄の悪魔が甘い誘惑を囁いているようだった。


(辞めたい、辞めたい、辞めたい・・・何で、こんな苦しみを受けなければならないのだ・・。)

一度、心の中で生まれた衝動は、どんどん増長していく。


(もう・・・辞めよう。このまま立ち上がって、鐘を鳴らしに行こう・・俺は良く頑張った。)


久之助は、悪魔の囁きに誘われる様に、力なく立ち上がり、最後の力を振り絞る様に、歩き出す為、膝に力を込めようとした。


すると、どこからか歌が聞こえてきた。歌の声の主は女性だった。聞き覚えのある鶴姫の声であった。


歌は、秋の田んぼの収穫を祈る歌であり、清水家の人々と、領民達が作業をしながら一緒に歌っていた歌であった。


久之助は、歌声の主の姿を探そうと周囲を見渡す。周囲には、久之助同様に苦しんでいる清水兵達しかいなかった。


(幻聴か・・・。)それは、久之助が極限の状態で聴いた幻聴だったかもしれない、しかしその歌声は久之助を現世に立ち止まらせたのであった。久之助は、一度その場で屈伸をすると、再び指示されていた訓練を再開したのであった。


監視員の男は、その様子をみて、『チッ、しぶとい奴め!!。』と言葉を残し、久之助から離れていった。


久之助は、最大の危機を乗り越え、その日の夜を迎えたのであった。


6日目の夜は、いつもの夜と違っていた。シゴキは終わらず、深夜まで続き、深夜になると、監視員達は久之助達を船に乗せ、干潟に連れて行ったのであった。


夜の外気は身を削るような寒さである。干潟は、満潮時に海の下に沈む土地である。潮が引いた時間帯でも、海水に浸った土地は水を含み、泥沼である。監視員はその泥沼の上で、腕立てをするよう久之助達に指示を出す。


外気、汗で濡れていた衣服が冷えた事、そして干潟の泥沼が久之助達を凍えさせた。


腕立てをする清水兵全員の歯がガタガタ音をたたている。寒さに耐える為に、腕立てをするそんな状況であった。


そんな彼らの様子をみて、監視員の代表らしい男が宣言するように大きい声で叫ぶ。


『お主らの中で、3名の者が訓練を辞退すると告げれば、直ぐにこの訓練は終了する。』


『たったの3名じゃ!3名の犠牲があれば、この寒さから解放してやるぞ!!』


『もし、辞退する者がいなければ、延々と日の出までやってもらう。日が出てきたら、終了じゃ!。』


『選べ!!』と最後に男は言って黙った。


(日の出まで、短く見積もっても4時間はある。誰かが辞めれば、3名辞めてくれれば、この苦しみが終わる・・。)


皆、そう思ってしまったに違いない。


1時間が過ぎた。腕立てが出来なくなって、泥の上に顔をつけている者も多かった。


しかし、監視員達も、その者達を竹刀で活を入れる事はしなかった。


なぜなら、凍えるか、腕立て伏せをするかの2択しか、男達には許されていなかったからである。


その状況の中、一人が突然カスレ声を上げた。それは、言葉ではなく、歌だった。


『ワレラの村の神様へ、今日はメデタイ収穫日、ドンドンヒャラヒャラ ドンヒャララ ドンヒャララ~ 朝から聞こえる喜び太鼓。』


『今年は、豊年万作で、ワレラは、総出の大合唱~ ドンドンヒャラヒャラ ドンヒャラㇻ~。』

突然歌い出した者を、皆が目で探す。久之助であった。


久之助の歌は、決して上手な歌では無かった、只、歌には情熱の響きがあった。


やがて、一人が、久之助に併せて、歌い出した。松田であった。その後、守屋、庄九朗、七郎三郎、与十郎、が次々に声を併せる。


やがて、6人が7人に、7人が8人に、気がつくと、清水の兵皆が同じ歌を歌っていた。小さかった声が、だんだん大きくなる様子に、村上兵は驚いた。


一本のロウソクの灯が、周りのロウソクたちにゆっくりと、火をともし、広がっていくようであった。久之助の歌が、清水兵の者達の心に、勇気という火を燃え上がらせたのであった。


歌を歌い終わった彼らは、不思議と寒さが緩んだ感じがした。


歌い終わった久之助はひとりだけ目の前に立つ鶴姫が見えていた。


鶴姫は、疲れ果てた様子の久之助へ、『もう少しじゃ、ガンバレ!!。』と言ったのである。

その言葉は、久之助が歌に込めた思いと同じであった。


鶴姫がずっと自分を見守っていてくれた事が嬉しかったのか、それとも皆に自分の心が伝わってくれたのがうれしかったのか、久之助は涙を流しながら、腕立てを続けた。


時は流れ、日が顔を出し、長かった夜は明けた。


干潟に連れて行かれた清水の兵達の中で脱落した者はいなかった。


久之助をはじめ、49名が辛かった村上水軍の試練を生き延びたのであった。

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