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水術訓練【1】(救う者と救われる者)140/200

140名になった久之助達を待っていたのは、水術の訓練だった。


この時代、現代の水泳という言葉は存在せず、水術という言葉で表現されていた。泳ぎは、武芸の一つと考えられており、武士の誰もが基本として習っていたのであった。


久之助も幼き頃より、水術を学んでおり、それなりに自信はあった。しかし、久之助が育った場所の近くには海は無く、泳ぎを学んだのは家の近くの川であった。その為、海での泳ぎは、それ程身近なものでは無かったのである。


水術の訓練の初日、村上家の監視員の前で、140名全員が決められたコースを泳がされた。


終点とされた地点には、船が待機しており、各人泳ぎきった後、泳ぎの評価によって色のついた鉢巻が渡されたのであった。鉢巻の色は3種類有り、白色が上級組を意味し、その次が黒色、そしてもっとも、泳ぎが下手だと評価された者に渡されるのが赤色の鉢巻で有った。


泳ぎの評価で、140名が3つの組に振り分けられた。各組に、監視員が一人付き、その組の者達を訓練するという仕組みである。


140人を3つに均等に分けると、1組大体47人であるが、泳ぎの上手さで分けた為、その組み分けの人数は著しく差が生まれた。


白組50名、黒組65名、赤組35名という振り分けになったのであった。


久之助が渡された鉢巻の色は赤色であった。


『オカシイ!!昔は、足守川の河童と呼ばれた私が、何故赤組なのじゃぁ!!。』と一番下の赤組にされた事にショックを受けていた久之助であったが、赤組の者達の顔ぶれには、1週目の相棒守屋をはじめ、宗治の草履取七郎三郎や月清の馬の口取与十郎等、知ってる顔が見られ、その者達を馬鹿にする事になる為、不満を胸にしまったのであった。


『竹井殿も、こちらの組でしたか、これは心強い』という言葉が、久之助の背後から聞こえてきた。


聞いた声だと思い、振り返るとそこには背の低い男が立っていた。松田左衛門尉であった。


松田は、城の会計係の一人で、武芸で勝負するよりは、帳簿と筆を武器に城に貢献している者だった。背も低いが、体格もそれ程恵まれておらず、貧弱な印象を久之助は持っていた。その為、声の主が松田と分かった久之助は思わず、驚きの声を上げてしまったのであった。


『ゲッ、松田殿、どうして此処に??。』という久之助の言葉に、『そこまで驚く事は無いだろう!私も武士の端くれ、忠義の心は誰にも負けん、1週目の訓練も、忠義の心でしのぎ切ったのじゃ・・・。』と松田が返す。


こころなしか、言葉の最後に力がないなと久之助が感じた時、松田の背後から別の者の声が聞こえた。


『何を偉そうなことを言っておる。俺が相棒で無ければとうに白旗を挙げていた男が・・・。これだから、良い家の御子息様はと、1週間ずっと呆れていたのだぞ。』と若者は言う。


『お主は、何という名前じゃ?。』と久之助が若者に聞くと、若者は、『俺の名は庄九郎。』と短く答えた。


『俺は、もともと百姓だから、姓は無い。だが、いつか戦で武功を挙げ、姓をもらい受け、最後には足軽大将になる男だ!。』と庄九朗は自分の将来の夢を付け加えた。


『良い心がけじゃ!!。』と久之助は、初対面ではあるが、若い庄九朗が自ら目標を持ち、目標に向け励んでいる事を素直に褒めた。


褒められた庄九朗は、久之助から褒められる事を予想しておらず、少し驚いた様子を見せ、その後黙ってしまった。


『そうじゃ、こ奴は、凄い男じゃ、1週目の訓練でワシが動けなくなると、ワシを背負い、そのまま1日の終わりまで背負い続けたのじゃ。』


『庄九朗がいなければ、ワシは最初の訓練で、帰っておったじゃろうて・・・。』と松田は自分の不甲斐なさと庄九朗の自己紹介に補足を加えたのであった。憎めない程、素直な男である。


『俺は元々百姓だから、鍛え方が違う、生活の為に、米俵を運ぶ仕事を良くしていたからな、アンタなんか軽いものだ。』と庄九朗は照れながら、松田の言葉に応えていた。


久之助達がそのような会話をしていると、赤組の担当となった監視員が話始めた。その監視員は、最初の訓練の際、訓練の方法を説明した若い男であった。


『お主らの泳ぎが一番下手だった。これから2週間後に行う遠泳を行う予定であるが、約40里(16Kⅿ)の距離を泳ぐにはお主らの水術はあまりに未熟過ぎる。これから遠泳の日まで、ワシがお主らを徹底的に鍛えてやるので有難いと思え!!』と男は大声で宣言したのであった。


その日から、男の赤組への鬼の特訓が始まったのである。特訓の内容はいたって簡単であった。浜辺の目の前の海で、4時間泳ぎ続けるという訓練であった。泳ぐという表現であったが、実際は泳いでも泳がなくてもよく、ただ4時間海の中で浮遊していれば良かったのである。


言うのは簡単だが、4時間という長時間は、体力的、そしてなにより精神的に追い詰める訓練であった。


久之助と会話した者達の中で、松田が訓練中によく溺れた。もともと体力的に劣っていた松田は、気がつけば海に沈んでいたのであった。


庄九朗は、その不甲斐ない相棒を、その都度潜り救い上げるのであった。


正に松田の保護者、守護神のように頑張っていた庄九朗であったが、訓練の4日目が終わろうとしていた時、いつも以上の体力を使った為か、訓練の時間が残り僅かという時間帯に、今度は庄九朗自身が体力の限界に達し、海の中に沈んでしまった。


その事にいち早く、気づき、庄九朗を救ったのが久之助であった。


4日目を終えた時点で、久之助と会話をした者の中で、脱落したものは未だいなかった。それは、ある者にとっては幸運という言葉で表現できた結果であり、またある者に取っては不幸の結果だったかもしれない。


4日目の夜、闇に紛れて一つの影が浜辺の鐘を鳴らそうとしていた。その陰の男は、松田であった。

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