訓練一週目(わらび餅になった男達)140/200
村上家の監視員らしき若い男が久之助達に指示を出す。
『先ずは、此処迄来い、ここに整列するのじゃ!!』
『そして隣の者と二人組を組め、そして組んだ者同士で背負い合い、あちらにある赤色の杭迄行ったら、交代しろ、そして此処にある白色の杭で又交代するのじゃ、其れをただひたすら繰り返せ!!。』
スタート地点にある白色の杭と赤色の杭までの距離は、1里(約400m)ぐらいであった。
男の指示を受けた久之助達は、小走りで白色の杭が刺さっている場所に向かい、並ぶ。
参加者総てが乱れた息を整えながら、自分が組むべき者が誰だと、確認した。
『これは、竹井殿、久之、いや将監殿ですな、私は守屋新之丞と申します。これも何かの縁ですな、宜しく頼みまする。』と、頭髪が薄くなり始めた壮年の男が挨拶をした。
男の声で、相手の存在を確認した久之助は遅れて挨拶をする。『守屋殿と申したな、私の方こそ宜しく頼みまする。』
よく見ると、守屋という男の顔は高松城で、何度か目にしている事を思い出した。彼の仕事は、高松城の護衛兵であった。
守屋の歳は、どう見ても久之助より10歳以上、上であった。だが、齢を聞くのも失礼と思い、久之助は自分の好奇心に蓋をしたのであった。
長い考慮の時間は与えられなかった。二人が背負う順番を決めたと思うと、『開始ぃ!!。』という若い男の声が浜辺に鳴り響いた。
初めは、久之助が守屋という男を背負う事にした。侍である久之助は、実質守屋よりも身分が高いのだが、年長者の者を敬う心を優先し、守屋が断る中、久之助が我を通したのであった。
開始を宣言された後、各組の行動パターンは3つに分れた。まるで短距離走の様に走っていく組、普通の足取りで歩く組、ユックリ歩く組の3つである。
久之助は、腕と両足にかかる負荷を考え、普段歩くスピードを選択した。また、なるべく両腕に負担がかからない様に、背負われる守屋にも久之助の首に回す両腕に力を入れ、強くしがみつくように指示をしたのである。久之助は、訓練の長期化を警戒したのであった。
初めて、赤色の杭の場所まで来たときは、それ程疲労は感じなかった。復路で、守屋に背負われながら、消耗した筋力が白色の杭に着く頃には何処まで回復できるかと冷静に考えれる余裕もあった。
疲労が感じられるようになったのは、往復回数が10回を越えた頃であった。その頃には、他の組、浜辺の風景にも変化が出ていた。
最初、走っていた組の者達も、速度を緩め、明らかに疲弊し、極端に速度が落ちている組もいた。
往復の回数が20回を越えた頃、久之助の相棒守屋が体力の限界に達した。守屋は、久之助を背負ったまま、前のめりで倒れてしまったのであった。
『守屋殿、大丈夫か?』と倒れた守屋に久之助が声をかけると、『竹井殿、スマヌ、もうワシは限界だ』と守屋が言う。
言葉もそうだが、守屋の表情が弱弱しく、既に諦めているような顔をしていたのである。
守屋の表情を見て、状況を察した久之助は、守屋を背負い、そして歩き始めた。歩きながら、久之助は守屋に話しかける。
『守屋殿、暫く私の背で休むが良い、ユックリ体と心を整えるのじゃ。』と久之助が言うと、『竹井殿、ワシは足でまといじゃ、置いて行ってくだされぇ』と守屋は言う。
『お主が放棄したら、私は又誰かを探さなければならない、それが面倒なのじゃ。』と守屋の言葉を黙らせ、久之助は歩き続ける。
浜辺を見渡すと、他の何組かが、久之助達と同じ状況になっている。組によっては、歩くのを止め、其処で立ち止まっている。
村上の監視員が其れをみると、立ち止まっている者達の傍へ向かい、何かを言っている。話している内容の詳細は分からないが、彼らの声の大きさ、仕草で罵声だという事は直ぐに分かる。
久之助は、其れを見ながら、勝手に背負い手を変えた自分達が、処罰の対象になるのではないかと心配したが、幸運にも彼らは久之助の行動を認識していたが、罰則の対象にはならなかったらしく、久之助達の元には来なかった。
当初、守屋の役目で有った白色の杭の位置を過ぎても、久之助は守屋を背負い続けた。
再び赤色の杭の位置まで来た時、守屋が久之助に背負う役目を交代すると言いだした。自分が代わるという守屋に、久之助は静かに伝えた。
『守屋殿、私ができるだけ背負う。限界が来た時は頼みまする。今のお主の仕事は、私に限界が来た時に私を背負える様に体力を回復する事じゃ、我らは運命共同体じゃ。』
守屋は、自分の不甲斐なさを恥じた。しかし、恥じているだけでは仕方が無いと思わざるをえなかった。
彼は自分の事よりも、久之助を助けたいと思い、言われた通り体力の回復に専念したのであった。
守屋の目は、久之助に背負われながら自然と自分達の周囲を見回した。参加した殆どの者が苦しい顔をしていた。
1割程度の組が、歩行を止めている事も気がついた。
組んだ者同士でケンカしている者達もいる。動けなくなった相手を棄て、他の組の自分と同じ境遇の者と組を組みなおす者達もいた。
ただ、久之助の様に動けなくなった者と交代し、その者を背負う者など、いなかったのである。その事実を認識した守屋の心の中で、目的が変わったのであった。
自分の為ではなく、自分を背負ってくれている久之助を助けたいと強く思ったのである。その心の変化が、守屋の折れそうになった心を修復し、気力を取り戻させたのであった。
久之助は、守屋を背負い、2往復した後、その場で前かがみで倒れた。
『スミマセヌ、もう限界のようじゃ、次は守屋殿、お頼み申す。』と久之助が言うと、『ユックリ休んでくだされ。』と守屋は力強く答えたのである。
砂を被った久之助が、口に入った砂を吐き出しながら、守屋の背中におぶさろうとすると、自分と同じように砂だらけである守屋の状況に気づいた。
『お互い、砂だらけでござるな。まるでワラビ餅のようじゃ・・・。』と久之助が囁く。
『何と申された?。』と守屋が聞き直すと、『お互い、ボロボロですが、頑張りましょう!!』と久之助は言葉を変え、伝えた。
それからは、守屋が久之助を背負い1往復、その後、久之助が守屋を背負い2往復するというのが二人のルールになったのであった。
二人は、ボロボロになりながら、互いを励まし合い、何とか初日の訓練を乗り越えたのであった。
食事の時は、箸を持つのも腕に痛みが走り辛かった。夜になり、宿舎の寝床に着くと久之助は気を失うように眠ってしまった。
久之助は、夢を見ながら、夢の中で鐘が鳴っているのを聞いた。
久之助が朝目覚めると、守屋が久之助が目覚めるのを待っていた。
『竹井殿、おはようございます。昨日は、ワシが不甲斐ないばかりに大変ご迷惑をかけました。一晩考えたのだが、ワシはこの訓練を辞退しようと思う・・・。昨日は助けて下さり、大変お世話になりました。最後に、竹井殿に挨拶がしたくて、待っておったのじゃ。』と守屋は涙を流しながら、久之助に言った。
『そうですか・・。私も辞めたいと思っておりました。守屋殿のその言葉を聞き、正直心が軽くなりました。』
『辛いのは私だけではない事が分り、、・・・守屋殿、今私に、昨日助けられたと言われたが、実は私のほうこそ、昨日は守屋殿に助けられたと思っておった。』
『もし、貴方が相棒でなかったら、私は昨日で訓練を放棄していたと思う。貴方が居てくれたお蔭で、乗り越える事ができた。私の方こそ有難うございました。』と久之助は守屋に向け頭を下げた。
そう言うと、久之助は自分の布団をかたそうと、布団から出て、布団を触ろうとする。久之助は、自分の布団をキレイにたたもうとしているのだが、腕がうまく上がらないらしく、動作が物凄く遅いのである。見かねて、守屋が久之助を手伝おうとする。
その時、守屋は久之助が自分よりも疲弊している事に気がついたのであった。自分より疲弊している久之助が訓練を辞めず、久之助よりも疲弊していない自分が訓練を放棄しようとしている事実に気がついたのであった。
『・・・竹井殿、申し訳ない、本日もワシを宜しく頼み申す。』と守屋は堪えきれず、泣きながら久之助に自分が方針を変えた事を告げた。
(この人が諦める時、自分も諦めよう、この人が諦めない限り、ワシはこの人について行こう。)と覚悟を決めたのであった。
『本当ですか、守屋殿、守屋が居てくれると、私も助かります。一緒にもう少し粘ってみましょう。』と久之助は守屋に言葉をかける。
その言葉は、守屋と疲弊した自分自身に、奮い立たせるような声であり、実際にその言葉は彼らに響いたのであった。
二人は、2度と弱音を吐かず、1週間続いたその訓練を耐え忍んだのであった。
一週間が過ぎ、新たな訓練へと変わる頃、200名いた参加者は、140名になっていた。
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