想定外の事態(忠義の家来200名)
鴨鍋を囲んでの兄弟の話し合いで決めた清水軍の武力の底上げ計画は、両人の想定しなかった事態に転がり込んでいってしまった。
当初の予定は、宗治が見込んだ家来の中から選抜して、修行すると、少数精鋭での修業を考えていたが、宗治が進行するうちに、何故かどこかで話が漏れてしまったのである。
内々で進めていた家来の選抜が、公になってしまい高松城の若武者のほとんどが宗治に、『是非自分も選んでください!。』と直談判をしはじめ、その数約200名。
壮年の武将も、『若いものには負けられん』と、これまた200名。
『我らを年寄りと思って馬鹿にするなよ』と歴戦の猛者(老兵)200名。
『最期にひと花咲かせたい。』と、隠居してもまだまだ動けると生きる伝説(腰が曲がって杖を持つ)が25名、併せて625名が、名乗りを上げてしまったのであった。
宗治をはじめ、清水三兄弟が奔走し、その家族、縁者と話し合い、高松城にも残ってもらわないと留守中に敵に攻められると説得に回り、やっと200名の人数に抑える事が出来たのであった。
残った200名の武将は、齢、体格、身分等、と違いはあっても、宗治、清水家に対しての忠義の心は非常に厚く、人情家の宗治は彼らの中から、更に選抜する事が出来なくなってしまったのである。
宗治の評価基準は、身体的な物では無く、心の強さを重視するものであったから、客観的な判断が難しく、それが故苦悩した。
宗治、月清が事態の収拾に頭を抱える中、タイミング悪く、小早川隆景自ら高松城へ現地視察へくるという書状が届いたのであった。
その時期隆景は、織田軍との全面戦争に備え、作戦参謀として現地指揮官となる者達と直接打ち合わせをして、考え方及び気持ちの共有、又、その者達の変化に細心の注意を払っていたのであった。
隆景が高松城へ来た時、重要な内容は備中の国北方制圧の作戦の打ち合わせだった。
それが終わると、宗治は隆景に、自分が目指す清水軍の武力の底上げの試み及び、その過程での現在の問題点を相談したのであった。
『200名、かなり集まったな。それだけの家来に慕われているのは幸せな事だ・・。』
『織田軍の全面戦争に備え、清水軍、いや毛利軍としても中核をなす精鋭部隊が欲しいと思っておった。ちょうどよい機会じゃ・・・ワシも一肌脱げると思う。』と小早川隆景は満足気な笑顔になる。
『実は、これから、行かなければならない場所があって、ちょうどよい、ワシの護衛も兼ねてその200名を一緒に連れて行こう!』
隆景は、行き先を宗治に伝え、同時に後三日間高松城へ留まるので、その間に200名の者の旅の準備をさせよと、宗治に指示したのである。
『2カ月の遠征になると思うが日数は未定という事で、説明しておいてくれ、遠征とは200名から、贅肉を削ぎ落す合宿の表向きの名じゃ、引き締まった体から贅肉を削ぎ落す訓練じゃ過酷じゃぞ・・・下手するとみんな脱落するかもしれん。あの者達は武士ではないからな・・・。』と言う、隆景の声は少し心配した声だった。
翌日、宗治に直談判した200名の者に、3日後の遠征の件が知らされた。旅の準備をして、出発の日を待てという指示であった。
遠征の行き先、その日数も知らされ無い為、その者達総てが疑問に思ったのだが、誰も質問する者はいなかった。
彼らの気持ちは、何処にでも着いていく既に固まっていたのである。
当然、竹井将監こと久之助も、3日後の出発に向け身支度をしていた。
『鶴姫様、行き先、日数も未だ聞いておりませんが、私の遠征に着いて来られますか?』と久之助が聞く。
『200名の男共じゃろ、考えただけでも汗くさいから、気が進まぬのう・・。』
『あと、私がいても、皆が見ている前では話もできんじゃろ・・今回は遠慮しておくかの。』と鶴姫は考えながら答える。
『・・・エ、あ、そうですか・・・。それではお城で、私の帰りを待ってて下さい。』
『高松城の方々を宜しくお願い致します。』と久之助は言ったが、心の中で、鶴姫は着いてくるものと思っていたので、来ないと聞いてちょっと驚いていた。
ただ、鶴姫のいう事にも一理あるので、最終的に心の中で納得したのであった。
翌日の朝、遠征に参加するべく、高松城の城門の前には200名の男達が並んでいた。
200名のほとんどが、武士の者だったが、その中に、2名例外の者達がいた。一人は、月清の馬の口取、与十郎。もう一人は宗治の草履取の七郎三郎という若者であった。
彼らは、武士でなくても、忠義の心は他の者に負けないと譲らず、月清と宗治が根負けし、参加を許可したのであった。武士の中の心無い者は、彼らを話のネタにしていた。
其れから、間もなく、小早川隆景とその一行が、高松城の城門から出て来たのである。
小早川隆景は、出発を前に、200名の男達に、挨拶をした。
『200名の清水軍の精鋭よ、本日のお主らの心意気、天晴である。』
『清水軍の武名はワシも知っておる。此の小早川隆景、主君毛利輝元様に変わりお主らにお願いをする!。』
『今後、備中の国は織田との決戦の地になるやもしれぬ。最前戦になる、お主らの強さに清水家、毛利家の命運が掛かっていると言っても過言ではない。』
『これから、ワシは皆に過酷な試練を与える。とても厳しい試練じゃ。皆の成功を祈る。』と言って、片手を挙げ、男達に向けその手を振った。隆景が手を振るのを見て、一部の男達が歓声を上げる。
隆景は、最後の言葉を付け加える。
『遠征先は、伊予の国(現在の愛媛県)、能島城じゃ、皆ついて参れ!!』
隆景が発表した行き先のあまりの意外さに一瞬どよめきが起こった。
戦国の海賊大将村上武吉の居城、能島城、それは誰もが知っている海賊のアジトであった。
『海か、私も見てみたいな・・。』と、頭上から久之助を見守っていた鶴姫が動揺している男達を尻目に、一人だけ目を輝かせていたのであった。
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