幽霊の顔も三度まで(勝負師の顔)
鶴姫は、先ず久之助に相談事の詳細を確認した。
京都から落ち延び、2年間流浪、失意のどん底である将軍様をどうにか励ましたいと単刀直入に状況を説明する。夕食に何か励ませるモノを、又は元気づけれる事をしたいと、それを二人で考える事にしたのである。
『将軍様となると、私達が知らない美味しいものを食べているだろうに、我らが知っている美味しい物等、食べ飽きていると考えた方が無難だと思うが、美食家の方に中途半端なモノを出すほど怖い事は無いと思うが・・・。』と鶴姫は眉間に少し皺を寄せる。
『義昭様の好物等は、事前に聞いているのか?』
『いえ、そんな時間ありませんでした。』
鶴姫の質問を、久之助がありのままを答えたのだが、その答え方が、鶴姫は少し気に入らず、『終わったな、終了、サラバじゃ。』と突き放す。『スイマセン、事実聞く時間も無く・・。』と鶴姫の心情が分り、即座に謝る久之助。
『それでは、質問を変えよう、義昭様に元気がない、元気を出してもらう、それは分かった。それでは将軍様が元気だったのは何時じゃ?。』『自信とやる気が満ち溢れ、元気だったのは何時じゃ?』と鶴姫が違う角度で、久之助に質問した。
『それは、当然、京で幕府15代目将軍になって権威を示せていた時期かと・・・』
『京・・・要は京じゃな。』『久之助、お主、京へは行った事あるのか?』と鶴姫が聞くと、『お恥ずかしながら、行った事有りません。』と久之助は面目ない体で答えた。鶴姫は、ウンザリした顔で、『お主、やる気有るのか??』と言い放つ。
『ウソはつけません・・。』と辛そうな顔をする久之助であった。
『じゃあ、お主、京と言えば、何が頭に浮かんでくる???。』
『やはり、金閣寺、銀閣寺かと・・・・。』
『貴様、本気でやる気ないだろ!!』
『・・・・やる気有ります。』
『だったら、金閣寺、銀閣寺、持ってくれば良いではないか、やれるものなら』
『ヤッテみるのじゃ!!』
『小早川の殿様に、備後の国に、義昭様の為に、金閣寺と銀閣寺を作って下さいと書状を書いて直談判すればよかろう!』
と遂に堪忍袋の緒が切れ、久之助を怒鳴りつける鶴姫だった。
『出来ませぬ、そんな事をしたら切腹ものです・・』と自分の軽はずみな言葉が鶴姫の怒りに火をつけた事に気づいた久之助だったが後の祭りである。
『出来ぬ事は最初から言うな、相談を受けている私がバカらしくなってくる!」
『ハイ、申し訳ございませぬ・・・竹井久之助一生の不覚・・・。』とションボリする久之助であった。
『・・・しかし、今更義昭様一行の方に義昭様の好物は聞けません・・聞いて、それが用意できなければ本当に切腹しなければなりませぬ。』と話す久之助の声は、だんだんと低くなる始末であった。
溺れた者が藁を掴む様な顔で、弱弱しい声で、『鶴姫様だったら、京と言えば何を連想されますかな?』と久之助は鶴姫に救いの手を求めるように聞いた。
反省した弟分を確認した鶴姫は、顎を指で押さえ、暫し考える。
それほど長くない沈黙の後、『そうじゃな、・・わらび餅・・じゃな・・。』と京の菓子の名前を声に出したのである。
『3年ぐらい前に、元親兄様より、京からの土産としてわらび餅を頂いた事があった。』
『当時、京に少しも興味の無い私でも、一口食べて、流石は天下の都の菓子じゃ、京ではこんなに美味しい物が食べれるのかと、感嘆するぐらい美味かった事を覚えておる。』
『・・・できれば、もう一度だけでも食べたいものじゃ・・・。』と鶴姫はわらび餅があのきな粉の餅が美味しかったという記憶を久之助に伝えたのであった。
『其れです!材料さえあれば、ソレでいきましょう!!』と久之助は何を思ったか即決したのであった。
『お主、そんなに簡単に決めて良いのか??』『私も3年前に一度しか食べていないし、それ程特殊な材料は必要なかったと思うが・・記憶が完璧かと聞かれれば、正直完璧という自信は無い・・。』
鶴姫は、何度も久之助の意思を確認したが、久之助の意思は変わらず、最終的に鶴姫がおれたのであった。
『仕方ない、ワシが今から言う材料を集め、私の言う手順で城の料理人に作ってみさせよ。材料は~、作り方は~』と鶴姫は詳細を久之助へ伝えたのであった。
久之助が鶴姫に伝えられた内容を書き留めた後、鶴姫は二つの事を久之助に助言した。
一つは、作ったわらび餅を宗治の息子原三郎に試食してもらう事。原三郎が美味しいと言ったら義昭様に出す。不味いといったら取りやめる事。
久之助が助言の理由を聞くと、『子供は正直だ・・。』と短く伝えた。
鶴姫のあまりにも短い言葉に、不安そうな顔をする久之助をみて、『もし、別の誰か、大人の誰かが、試食し、失敗したら、お前はその者を許せるか?責める心が生じないと言い切れるか?・・可愛い原三郎だったら、許せるじゃろ!!』と鶴姫は、可愛い原三郎という下りから笑顔で言ったのであった。その笑顔をみて、久之助も直感的に運命を原三郎に委ねる事が一番相応しい気がした。
その後、冷静に考え直し、それでも、人知を尽くして天命を待つ。天命を判定するのは、純粋無垢な幼子が一番相応しいと納得したのであった。
その後、二つ目の助言を久之助に伝えた。助言を聞き終えた久之助は、『分かりました。有難うございます。』と納得した顔で鶴姫に伝え、意気盛んに料理人がいる調理場へ向かったのであった。
1時間後、鶴姫式わらび餅が出来上がり、久之助は其れを持って、宗治と原三郎が待つ部屋へ向かったのであった。
前もって、鶴姫から受けた助言を自分の言葉として、宗治に伝え、、原三郎にわらび餅を試食してもらう事を承諾してもらった。
宗治も最初、鶴姫の助言を聞いた時と同じような不安な顔をしたが、天命の判定者には幼子の素直な判断が相応しいという久之助の考えに同意してくれたのであった。
原三郎は、文句ひとつ言わず、素直に試食をしてくれたが、美味しいとは言わなかった。
だが、出された4個のわらび餅を総て完食してくれた。
久之助は、先ず宗治の目をみて、その後、宗治の直ぐ傍にいた鶴姫の方に視線を向けた後、二人に向けて頷き、『これで行きましょう。』と宗治に伝えたのであった。その時の宗治の表情は、一か八か賭けをする勝負師の顔になっていた。
久之助の、いや3人の勝負開始の掛け声であった。
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