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「みんなに食べて頂けたら凄く嬉しいです!こないだは、本当にありがとうございました、ジュリ様達が居なかったら、私はカレーライスがべったり付いた制服で授業を受ける事になっていました。アリア様も片付けてくれた上に、サンドウィッチまで差し入れして下さり本当に嬉しかったです!」
お昼ご飯を食べ損なったネネを気遣い、サンドウィッチをお持ち帰り用につつみ、アリアは着替えを済ませたネネに渡していた。
あのサンドウィッチの味は一生忘れません、とネネは花の様な笑顔を咲かせる。
これが、ヒロインスマイルと言うやつか...
カルルにクッキーを渡している場面を、見かけたことがあったので、当然受け取っていると思っていたのだけれど、他人の手作りは食べれないのでと断られたことをネネから聞いた。
でも、何回か作ってきていたクッキーは誰にあげていたのだろう、もちろん私が見かけていたお友達にもあげていたのだが、たしか攻略対象者に作ってくるんだよね。
他の攻略者がいるのではないか?
他の攻略者が一体誰なのかも覚えていないポンコツ転生者な私は、まだ誰をヒロインが攻略しようとしているのかもわからない。
そんな中、学校行事である、魔法強化合宿がはじまるのだった。
バスに乗り、王都から東に向かった先にある、ローツェ山へ。
そこで5人グループで魔物が生息する森で、魔物を狩る合宿だ。
もちろん、カルル、アディ、アリア、私、そして最近仲良くなったネネ(ヒロイン)が加った班編成になった。
「この森は、下級ランクの魔物の生息地だ、必ずグループで行動し、協力すること!時間は2時間だ。
先生たちは、ここに居るので、何かあったら、救護煙を上げてくれ。何度も言うが、くれぐれも奥まで入って行かないようにな。気を付けて行ってこい、以上」
そして私たちは、アリアとアディを先頭に森へ入った。
アディは、魔法騎士なので、剣を片手に、騎士の家紋なので幼い時から教育を受けていたみたいで、かっこいい。
それを見たアリアは『いいわね』なんて言って、氷で剣を作り、切れ味を確かめる為に、木を切りつけた所、スパッと切ってしまった。
私も、一応、自分の細剣を持参してきた、カルルも腰に自身の剣を下げている。
5人で進むと、ゴブリンが現れた。
アディが斬りかかり、引き付け、アリアが氷魔法で魔物を氷柱にし、跡形もなく粉々にする素晴らしい連携・・・私達いる?
でも、この方法では、核石までもが粉々になってしまい、核石を集めなければならない授業なので、やり方を変えるそうだ。
魔物を倒すと、魔物は消え、魔力の核である石が残る、それを集めてグループで何体倒したかを把握する。
最低ノルマは5人グループで合計10体なので、2体ずつ計算だ。
アディとアリアの息はピッタリで、初めて組んだ訳じゃないなと思うくらい次々と倒していく。
アリアは、アディが引き付けている魔物に、氷をズバズバと突き刺していく。
表情がブラックアリアになっているのは、見なかったことにしよう。
「...私達、いる?」
「まあ、いらないな」
「おふたりの力で瞬殺です!」
ネネは、アリアを応援して楽しんでいた。
「この核石を集めれば良いんだね」
私達は、そのままアディ、アリアが前衛体制のまま、魔物を狩って進んでいった。
「キャァ!」
後ろを歩いていたネネの悲鳴と聞き、私達は振り返ると、ネネの足元が光る。
咄嗟に近くにいたカルルの腕をネネが掴み、私がネネの腕を掴むと、私達は光に飲み込まれ、どこかに転移した。
「いてて....みんな無事??」
「すみません私のせいで」
「ネネのせいではない、転移したみたいだ、暗いな」
制服に安全加工が施されていて、暗闇では少し光る加工がされている。
なので、お互いがぼんやりと把握できる程度に見えている状態だった。
カルルは指先に蝋燭の様に炎魔法を発動し、周りを見渡すと、木の棒を見つけ、拾い上げ、木の棒の先に火を付ける。
私たちは明かりを持つカルルを先頭に、歩き出した。
「足元にも気をつけろよ」
「暗くて怖いです....」
とても怯えている様子のネネは、カルルの腕にしがみつきながら歩いているとても可愛い。
こんな女の子を男性は守りたいと思うんだろうな。
「止まって、なんかいる」
「ウガァーーーーー」
「・・・・アンデッドだ」
カルルは確認すると、ネネに松明を渡し戦闘を開始する。
私とカルルが前に立ち剣や魔法でアンテッド達を次々と倒していくが、次々とアンテッドがわいてくる。
「キリがないな....」
「音で動いてるんだよね?だったら一旦攻撃をやめて引く?」
「もう戦闘の音が奥まで響いて、大体反応しちゃってるから意味ない気がする」
「そんなあ....」
怯えるネネは魔法の力を増幅させてくれるキラキラと光る黄色い魔石のついた杖を両手で握りしめる。
夢中でなぎ倒すも、
「きゃあ!」
人の骨のアンテッド達の相手をする私たちをすり抜け、1体のアンテッドをネネに近寄らせてしまった。
「ネネ!!!」
私は咄嗟にネネへ振り返り腕を掴み、引いて自分の後ろへかばった。
「うっ」
背中に鋭い痛みが走る。
「ジュリ!!!!」
「ジュリさん!!!!」
倒れこみかけた私をネネが支え、私の背後を襲うアンテッドをカルルが倒した。
「いった~い、けど大丈夫だよ、ネネは怪我してない?」
「私はジュリさんが助けてくれたおかげで・・・うぅ」
「良かったネネに怪我が無くて。悪いけど泣いてる暇ないみたい」
スッと立ち上がると、カルルの援護を再開する。
「大丈夫なのか?」
「足手まといにはならないから」
「それは心配してないよ」
魔力が増幅する守護魔法をネネが後ろからかけてくれた。
「申し訳ありません、今の私にはこれくらいしか出来ません」
涙を浮かべながらかけてくれた守護魔法は、とても弱くあっても無くても変わらないくらいのもの。
絶対本人には言えないが、おまじない程度の効果だろう。
怖い思いをしているし、普通の精神状態じゃない分、本来の力が出せなくても仕方ない。
このままだとやばいと思った私は、自分の体が動くうちに自分の力を出し切ることに決める。
「カルル、一旦私に任せてみない?そして申し訳無いんだけど体が動かなくなったら頼んでもいい?」
「何する気だよ・・・」
「どうせ私はアンデットにやられて毒が回り始めてる、体が動くうちに出来るだけ片付けちゃおうと思って」
「おい・・・」
説明が面倒だったので、そのまま始める、体に雷を纏い、身体超反応でアンテッド達を倒していく。
アンデット達は敵が目の前に来たと認識し反応する前に私に切り倒される。
なのでこちらが攻撃を浴びることはない。
どれくらい倒したかわからない、ただ機械にでもなったのかと思うくらい倒して最後の一体を倒し、周りに次の標的がいないことを確認した所で私の体は動かなくなった。
―ドサッ―
二人が駆け寄る足音がする。
「ははは…ごめん、本当に動かなくなっちゃった」
「…無理しやがって」
「うわぁーんジュリさぁーん」
カルルが私を背負う。
「俺の火魔法だったら全滅はできただろうけど、ここがどこかわからない以上空気がなくなったら危ないから下手に使えなかった・・・ありがとう」
「へへ…」
そんな私たちの前に光る柱が現れた。
「おー!ピンポイントだ、あいつの魔法精度いいな~みんな無事か~?」
その中から担任のレイチェル先生が出てきた。
アリア達から事情を聞いた担任達は、私たちの胸に付いている校章を頼りに、ワープ魔法で助けに来てくれたんだとか。
校章には、匂いと呼ばれるものがついており、どこにいても居場所が学校側に分かるようになっているらしい。
こういった課外授業には絶対に付けてくる決まりになっているのは、こういう時にためだろう。
「先生・・・!ジュリさんが私をかばって…ひ、一人で沢山の魔物と……ヒック…」
ネネが嗚咽交じりに話す。
「アーティさんは僕が」
「いや、大丈夫です、僕が責任をもって連れて帰ります」
完全に力が入らない脱力した私なんてさぞ重いだろうに、もう腕にさえ力が入らない私は落ちないように捕まることさえままならなくなった私の様子を見て、お姫様抱っこにチェンジ。
「なんかとっても恥ずかしいんですが・・・はは」
出来るだけ明るく言ってみる。
「恥ずかしいとか言ってる場合じゃないだろ、ってか喋らなくていいよ、つらいだろ」
そのまま先生の転移魔法で学校へ帰還、保健室のベッドへ寝かされ、待機していた神官たちによって解毒魔法をかけてもらってるころに、私は意識を手放した。