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8 エスカレートしちゃうよね

 十月の半ばということもあって、服屋に入れば冬服が溢れかえるほど陳列されていた。

 どうやら甘蜜は冬服に目をつけてきたらしく、今もじーっと服を取っては戻して、取っては戻し手を繰り返している。


 加えて無表情なので、製品の分別を行うロボットに見えてきたのだが、どことなく楽しい感じがするのでやはり甘蜜である。

 服、好きなんだろうな。


「ちょっと仁神君? 来てくれない?」

「あいあい」


 散歩ほど離れた位置にいた俺。

 なぜかと言えば、先ほどから店の前を通る人、店の中にいる人が甘蜜に熱視線を送っているから。


 芸能人がいるかのようだ。

 だがそいつにお呼ばれされてしまったのだからしょうがない。

 極力存在を薄めながら、甘蜜の横に立った。


「う~ん……これ、かしら」

「……」

「いやこっち……じゃないわね。じゃあ……こっち?」


 俺に服を当てて確認する。

 やはり真剣に選んでいるようで、一言に毒が盛り込まれていない。

 ここはユートピアか?


 あと、意外にも距離が近くてドキドキしているということは秘密にしていただきたい。

 これは女子に免疫のない男子にはしょうがないこと。不可抗力だ。


「あっ、これね。あとはパンツだけど……」

「……」


 服屋を回って二時間。

 ようやくトップスが決まった。


 ……長過ぎね?


「何よ?」

「ひっ」


 視線に敏感なのだろうか。

 甘蜜が服に夢中なのをいいことに「うへぇ~」という視線を向けていたら気づかれて、さらに鋭利な視線を返されてしまった。


 っていうか、「うへぇ~」という視線ってなんだよ。


「今私のことじろじろ見てたわよね?」

「全然見てねーよ? ほんと、これっぽっちも見てない」

「嘘。あなたぐらいに女子と接点のない男の子は大方私のことを凝視するわ。それに二人っきりだとなおさらよ」

「それはあの天使モードの時だけだろ。今の殺傷能力に特化した、誰も救う気のないような甘蜜を凝視したいと思うような奴はいない。石にされそうだ」

「私メドゥーサではないんだけど。というか私のことなかなかボロクソに言うわね。ボロ雑巾」

「ちょっと待って? 今間違いなくお前の方が悪口言ってたぞ? 悪口の意味知ってる?」

「当たり前じゃない。ただ私はあなたを客観視して正当な名前を付けただけよ?」

「お前の価値観がバカみたいな歪んでんだよばーか」

「私の方が学力は格段に上だし、生き方からしても私の方が賢いと思うわ」

「その陰キャはバカで陽キャは賢いという思想がばかだ。義務教育をやり直した方が言い」

「なっ……あなたこそ――」


「あのー……お静かにしていただけますか?」


 恥ずかしそうにそう言う店員のお姉さん。

 周囲を見ればデュエルを繰り広げていた俺たちに視線が多数向いていて、俺と甘蜜は顔を真っ赤にしてお互いにそっぽを向いた。


「し、失礼します……」


 またまた恥ずかしそうに、俺たちに負けないくらい顔を真っ赤にしたお姉さんが裏にはけていく。

 その姿を横目に見つつ、やってしまったという自責の念を抱いていた。


「ま、まぁこのくらいにしておいてあげるわ」

「こっちのセリフだ」


「「ふんっ」」


 またお互いにそっぽを向いて、甘蜜は服を選び始める。

 そんな俺たちの様子を見たギャラリーたちは、わいわいと散らばっていった。


 あんなに口論を繰り広げたのはいつぶりだろうか。

 でも随分と昔に、こんな風に周りの目なんて気にも留めずに言い合った気がする。

 そんな、どこか懐かしさを感じた。


「これ、いいと思うんだけど」

「えっ?」


 すっと差し出された黒のスキニー。

 あんなに大々的に口論をした後だというのに、こいつ鉄の心臓の持ち主かよ。


「ちょっと着てきてくれない? トップスと合わせて」

「ん。了解」


 甘蜜から服を受け取って、試着室に向かう。


 この時は気づきもしなかった。

 甘蜜の耳が真っ赤に染まっていたことを。


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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しんでるね、ふたりともw 甘蜜ちゃん、素でいられて楽なんだろうね~
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