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彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第三章

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63、パンケーキ

「ん~おいしぃ~っ!」


 パンケーキを口にするやいなや、空いている左手で頬を押さえて満足そうな笑顔を浮かべる揚羽。

 分厚いふわふわのパンケーキが三枚、タワーのように積み重なっていて、そこにイチゴのソースがかけられている。


 一口が大きかったからソースが口元についている。

 それを指で指し示すと、揚羽は慌てて拭き始めた。


 そんな揚羽を見ながらボクもナイフとフォークを手に取る。

 ボクのは揚羽とは対照的にシンプルなパンケーキだ。

 生クリームとメープルシロップ、それにバターが添えられている。


 切り分けて口に運ぶと、シロップの甘さとパンケーキ自体の優しい甘みが同時に広がる。

 試験で疲れた頭に染み渡っているような気がする。


「んふふ~」


 パンケーキを頬張りながら揚羽が得意げに鼻を鳴らした。


「テスト終わりに来てよかったでしょ?」

「……まあね」


 それにしても、揚羽の言う通り周りに学生が多いような気がする。

 テスト終わり。みんな考えることは同じということなんだろうか。


 結構なボリュームがあるけれど、割とすんなりと入っていく。


「ね、ハルくんこっちも食べる?」

「え、いいの? じゃあ少し貰おうかな」


 一枚ほど食べたところで、唐突に揚羽が訊いてきた。

 実のところ揚羽の食べているパンケーキも少し気になっていた。

 反射的にそう答えると、揚羽は何やらにやりと意味深な笑みを浮かべてナイフとフォークを動かし始めた。


 何をしてるんだろうと眺めていると、一口大に切り分けたパンケーキをフォークに刺して、ボクに向けて「あーん」と言いながら差し出してきた。


「……いや、揚羽? 流石にここではちょっと」

「ん~? 食べないの?」


 からかうような揚羽の口調と表情に少しむっとする。

 このまま食べないでいると後々からかわれるのは目に見えているので勢いで乗り切ることにした。


「じゃあ、……いただきます」


 ぱくりと一口。甘酸っぱいイチゴの香りと味が広がり、フワフワのパンケーキがそれを包み込む。

 美味しい。確かに美味しいけれど、味に集中できる状況ではなかった。

 ……周りに人がいなかったら全然よかったのに。


 揚羽はと言えば、満足そうににへらと笑いながらパンケーキを食べ進めようとして、フォークの先を見つめて固まっている。

 やがて意を決したようにパンケーキを突き刺してパクリと頬張った。


 真っ赤な顔でもぐもぐと口を動かす揚羽を眺めながら、ボクの脳裏に意地悪な考えが思い浮かんだ。


「揚羽、ボクのも食べる?」

「食べる食べる! ……あっ」

「はい、あ~ん」

「んぅ~~~~っ!」


 声にならない悲鳴を上げる揚羽にボクはパンケーキを刺したフォークを差し出す。

 物凄く悔しそうな顔で、そして物凄く恥ずかしそうな顔で揚羽はそれをぱくりと食べた。


 ぷるぷると震えながら、「おいしい」と小さく零す揚羽に苦笑しながらボクも再び食べ進める。

 食べ進めようとして、自分が手に持つフォークの先端をじっと見つめた。


 ……いや、別に間接キスぐらいどうってことない、けれど。


 …………。


「……ねえ、揚羽」

「うん」

「こういうの、今度からなしにしよう」

「……うん」


 でもたぶん、またやるんだろうなと思った。

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