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彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第三章

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62/69

62、テスト終わり

 ――キーンコーンカーンコーン。


 聞き慣れたチャイムが鳴り響く。

 その瞬間、一斉にシャーペンを置く音と、一部凄い音を立てながら紙に文字を書き続ける音が続く。


「はい、終了だ。全員それ以上書くなよー、ほら、後ろから回収回収」


 教壇で監督をしていた先生の指示で後ろから答案用紙が流れてくる。

 回収を終え、人数分揃っていることを確認した先生が、「三日間お疲れさん」と労いの言葉をかけてきたのを皮切りに、教室内に弛緩した空気が流れた。


 そう。長かった中間試験もようやく今日で終わりを迎えた。

 ボクもその場で軽く伸びをする。


 この一週間、本当に穏やかに時間が過ぎていた。

 西条先輩と言い合いになった翌々日には可憐も学校に姿を見せて、これまで通りの生活を送っていた。

 ボクも努めて普段通りに過ごすようにした。

 そして何事もなく中間試験も終わった。


 いつもより少し手応えがなかったような気がするけれど、赤点はないと確信できる程度には解けたと思う。

 帰りのホームルームを受けながら、ぼんやりと可憐の方を見る。

 すると、可憐もこちらを見ていた。


 一瞬驚いた様子を見せた可憐だったけれど、すぐに小さく笑った。

 無理に浮かべた笑顔ではなくて、とても自然な。


 どこか吹っ切れたように見えるのは、ボクの気のせいだろうか。


 ホームルームが終わり、鞄の中からスマホを取り出して電源をつけていると、可憐が声をかけて来た。


「ハル、テストどうだった?」

「まずまずかな。可憐こそ大丈夫だった?」

「私はまぁ……うん、まずまず」

「その顏はあんまり良くなかったって感じだね」

「あはは、バレちゃった」


 試験前の大事な一週間の半分近くを休んでいたんだから仕方がない。

 ボクは意図してその事実には触れないようにする。


「ね、この後何か用事ある?」

「あー、ちょっと……」


 可憐の問いに答えようとすると、電源がついたばかりのスマホがぶるりと震えた。 

 視線を落とすと揚羽からニャインが届いていた。


「揚羽から?」

「うん、ごめん。この後甘いものを食べに行く話があって」

「いいのいいの。彼女はちゃんと大事にしないと! ほら、行って行って」


 可憐に背中を押されるようにして教室を出る。

 振り向くと、可憐はやっぱり明るく笑っていた。


     ◆ ◆


 いつも以上に活気に満ち溢れた昇降口を抜けて校門へ向かうと、そこに揚羽がいた。

 校門のフェンスに背中を預けてツインテールの髪をいじいじと弄んでいる。


「揚羽、お待たせ」


 声をかけると、その場でぴょんと小さく跳ねてボクの方を向いてきた。


「ハルくんおっそーい! お腹ペコペコー!」

「ごめんごめん、ホームルームが長引いて。ほら、ボクたち二年生だからそろそろ色々と言われるんだよ」


 揚羽を宥めながら校門を抜けて一緒に歩き出す。


「パンケーキ~、パンケーキ~!」


 上機嫌に鼻歌を歌いながら歩く揚羽に、ボクは少し呆れ混じりに言う。


「確かにテストが終わったら甘いものを食べに行く約束はしたけれど、まさか学校帰りに行くことになるとはね」

「テスト、終わったでしょ?」

「まあ、言葉通りにとるなら間違ってないけれど」

「それに頭使ってヘトヘトだから、糖分入れないとっ」


 それに関しては完全に同意だった。

 頭を使うと疲れる。

 疲れると甘いものを食べたくなる。

 そしてボクは甘いものが好きだ。


 実のところボクも結構楽しみにしている。


「それはそうと、その肝心のテストの方はどうだったの?」

「うぐっ、今それを聞くぅ?」


 ボクが訊ねると、揚羽は胸を押さえて俯いた。


「まさか……」


 嫌な予感がして足を止めると、揚羽もそれに続いた。

 痛い沈黙が続く。


「……ま、まあまだ一年生の一学期だし、これから取り返せるよ」

「大勝利だったよ~!」

「……どういう悪戯なの、それ」


 ボクが慰めの声をかけると同時に、揚羽がパッと顔を上げてピースサインを作りながら満面の笑顔を向けてきた。


「ドッキリだよ、ドッキリ!」

「じゃあ今から本当は甘いもの食べに行かないドッキリでもしようかな」

「それドッキリじゃなくて本当じゃん!」


 慌てふためく揚羽を見て笑いながら、ボクは手を差し出す。


「ほら、行くよ。ボクもパンケーキ食べたいから」

「……う、うん」


 ボクの手に控えめに揚羽の手が伸びて来る。

 するりと手をからめとって、ボクたちは再び歩き出した。

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