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彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第三章

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55、身勝手な願望

 ――ボクが、やりたいこと。


 揚羽を家まで送り届けてから帰宅したころには、三時を回っていた。

 彼女と話して冷静になった頭で、一度思考を整理させる。


 揚羽は、ボクがやりたいことをやればいいのだと言った。

 ボクもその通りだと思う。

 結局ボクは、自分がやろうとしていることをやめる理由を探していただけなのかもしれない。

 現状維持が一番波風を立てないで済むから。


 ベッドに横になっていたボクは、体の奥から段々と眠気が湧き上がってくるのを感じて立ち上がった。

 しんと静まり返った廊下に出て、そのまま一階へ降りる。


 ポットに水を入れてお湯を沸かしている間、カップに粉末のインスタントコーヒーを入れながら、ボーッとリビングの全景を意味もなく眺めていた。

 コーヒーを淹れ終えて自室に戻り、勉強机の椅子に腰を下ろす。


「……にがっ」


 気分で砂糖もミルクも入れなかったから、凄く苦い。

 でも、このままでいいとも思った。


 状況を纏める。

 ボクが何もしないでいたらどうなるか。

 西条先輩がどうするかはわからないけれど、少なくとも可憐の方からは何もしないだろう。

 西条先輩が可憐に何も言わなければ、二人はこのままの関係性を維持し続ける。


 それがダメなのか。

 二人が納得した上でそうしているのなら、それは二人の問題であってボクがとやかく言う必要も権利もない。

 だけれど……。


 ――ボクは、可憐に笑っていて欲しい。


 初恋だったから、というのもあると思う。

 冬の河川敷で彼女が西条先輩と付き合うことを嬉しそうに語ったその笑顔を、ボクは複雑な気持ちで受け止めた。

 そして、少し時間が経ってからその笑顔が曇らないでいて欲しいとも思った。


 ボクにとって可憐は揚羽の姉で幼馴染だ。

 それ以上でもそれ以下でもないけれど、彼女の姉にも幸せでいて欲しいと思うことは別におかしくない。


 なら、可憐は今幸せなんだろうか。

 彼女は笑っていた。

 西条先輩と付き合うことを語っていた時の笑顔とは違う、他人を気遣う笑顔で。

 自分を誤魔化すようにして、笑っていた。


 もし仮にボクが西条先輩を問い詰めて、事の真偽が明らかになれば、可憐はどうなるだろうか。

 彼が浮気をしていなければこれまで通りの関係性に落ち着いて、彼女も普通に笑えるだろう。

 でも、彼が浮気をしていたら……?

 その事実を可憐に突き付けたら、絶対に悲しむはずだ。

 可憐を悲しませることは、ボクがやりたいことに反する。


「……なんていうのは、可憐に悲しませることを恐れてるだけの言い訳だ」


 本当はわかっている。

 何よりもボク自身が現状をハッキリさせたい。

 あれだけ可憐のことを気にしていた西条先輩が浮気をしているわけがない、という心のモヤモヤを晴らしたい。

 本当は大丈夫じゃないのに平静を装って気丈に振舞っている可憐に対する苛立ちを消し去りたい。


 突き詰めれば、どれも自分本位な動機になる。

 だから二人のことは二人のことだと言い聞かせて、何もしないでいようとしていた。

 だけどボクは事の真偽を確かめたい。

 ハッキリさせて、二人にはきちんと歩いて欲しい。


「――そうだ。ボクはボクのためにハッキリさせたいんだ」


 可憐のためでも西条先輩のためでもなく。

 二人の間に立ってきた、ボク自身の身勝手な願望。


 長い間座っていたからか、体が硬くなっていた。

 立ち上がりながら軽く伸びをして、カーテンを開ける。

 すっかり空は白み始めていた。


 朝の訪れを感じながらスマホを取り出して、西条先輩とのメッセージを開く。

 どんな文面で呼び出せばいいだろうか。

 そもそも、あのファミレスでの一件の後にボクの呼び出しに応えてくれるだろうか。


 ……いいや、西条先輩なら絶対に来てくれるはずだ。

 奇妙な確信の下、フリック操作で画面をタップしていく。

 そして、呼び出しの旨を綴った文章を送ろうとしたタイミングで、ニャインの通知音と共に画面にメッセージがポップされた。


『今日の放課後、あの喫茶店で会えるかな?』


 それは、いつもの調子でボクを呼び出す西条先輩からのメッセージだった。

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