表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/69

33、本物

「んー、着いたー!」


 小一時間ほどかけて遊園地の入場口の近くまで辿り着いた揚羽は、そこで何か達成感に満ちた声と共に大きく伸びをした。


 流石はゴールデンウィーク。

 開場から三時間近く経っているのもあるけれど、もの凄い人で賑わっている。

 チケットブースは想像を絶する長蛇の列をなしていた。


 ……あれに並ばなくてすんで本当によかった。


「ハルくん、行こっ」

「うん」


 幼い笑顔でそう言ってくる揚羽の隣に並んで、入場口に近付く。


 揚羽が従業員の人にペアチケットを渡して中に入る。

 その瞬間に、賑わいは一層強まった。


「ね、ねっ、何乗る? やっぱり最初はジェットコースターかな?」

「やっぱりなの? まあ今日は揚羽のお父さんのお陰で来れたわけだし、揚羽に任せるよ」


 極めて真っ当な考えだと思ったのだけれど、ボクの言葉に何故か揚羽は不満げに頬を膨らませた。


「ハルくんわかってないなぁ。遊園地の醍醐味は二人で何に乗るか考えることじゃん」

「そういうものなの?」

「そういうものなのっ」


 ……女の子の考えることはよくわからない。

 どう考えても一人が決めてそれに付き従った方が効率的だし、変に揉める原因にもならない気がする。


 とはいえ、揚羽がそう言うのなら、大人しく従っておこう。


 往来の邪魔になるので、入場口から少し歩き、二つのメインストリートが丁度交差する場所にある大きな噴水に向かう。

 そして、噴水を囲うようにして置かれている洒落たベンチに腰を下ろした。


 早速揚羽は入場口で貰った全体マップを取り出して膝の上に広げる。

 拳二つ分ほど開けて隣に座り、遠慮がちにそれを覗き込む。

 すると、揚羽が「それじゃあ見づらいでしょ?」と言ってずいとその隙間を埋めてきた。


 肩と肩が触れあい、お互いの体温が重なる。

 なんというか、少し照れくさい。


 揚羽は平気なのだろうかと彼女の様子を窺うと、ツインテール越しに見える耳が真っ赤になっていた。


「ど、どれから行く?」


 微妙に上擦った揚羽の声を聞きながら、ボクもマップを見ながら曖昧に応える。


 ……やっぱり遊園地の醍醐味は、二人で何に乗るか考えることだよなぁ、うん。


     ◆


 この遊園地のアトラクションは、大別すると五つのジャンルにわかれている。

 ジェットコースターなどに代表される絶叫系やホラー系、謎解き要素があったりするチャレンジ系にアニメなどとコラボしたキャラクター系、それに家族でも安心して乗れるファミリー系のアトラクションだ。


 キャラクター系はお互いに特に興味がわかなかったのでスルーしておいて、まずはお昼を食べる前に絶叫系に乗っておこうという話になった。


 早速、この遊園地で一番人気のジェットコースターへ向かう。


 ……が、


「一時間待ちかぁ、やっぱり混んでるね」


 アトラクションの前の長蛇の列は、チケットブースとは比較にならない。

 最後尾でスタッフが掲げる看板には、『60分待ち」と記されている。


「どうする、揚羽。先に他のに行ってもいいけど」

「この数だし、お昼を過ぎてもあんまり変わらないと思う。体力のあるうちに並んでおこう!」

「な、なんだか慣れてるね」

「今時の女子高生はこのぐらいへっちゃらなのっ」


 凄いなぁ、今時の女子高生。


 たぶん、ボクが一人だったら早々に諦めて空いているアトラクションを探しに行ったと思う。

 基本的にこういう場所では、何に乗りたいかというよりも何に乗れるかというのを優先するのだ。


 係員の指示に従って、揚羽と二列で並ぶ。

 バッグからそそくさと取り出した園内マップと睨めっこしている揚羽の横顔を何気なく眺める。


 自分でも、気持ちが浮ついているのがわかった。

 四ヶ月前までは、違う人に向いていた感情。


 失恋し、彼女の想いを知り、そうした過ごした四ヶ月。

 自分の中に発露した気持ちを初めは誤魔化して、気付かないふりをして、けれども自覚してしまった。

 その日から、もう一ヶ月が経とうとしている。


 今日だって、ボクは本当に楽しみにしていた。

 並んでいるだけの今だって楽しい。


 ……そうだ、この想いは間違いなく本物だ。

 いい加減、気持ちの整理を装って逃げ続けるのはやめよう。


「ハルくんは、次、どれに乗りたい?」


 ボクが揚羽を見つめていると、マップを覗き込んでいると勘違いしたのか幼い笑顔と共に訊いてきた。

 思わず力が抜けてしまった。


「……?」


 ボクが堪らず小さく笑っているのを見て、揚羽は不思議そうに小首を傾げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これのどこが15禁なの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ