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彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第二章

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29、意地悪と戸惑い

 揚羽の誕生日当日。


 朝、待ち合わせ場所である公園に向かうと、入り口に設置されている自転車進入防止のための石柵に腰を下ろした揚羽の姿があった。

 ボーッと空を見上げて足を上下にプラプラさせている。


 ……可愛い。


 高校生になっても変わらないツインテールが、仕草と相まって揚羽の子供っぽさを助長する。

 とても今日十六歳になったとは思えないけれど、そういうところが揚羽の魅力な気がする。


「おはよう、揚羽」

「ん、おはよー、ハルくん」


 ボクが声を上げると、揚羽がこちらを見てきた。

 いつも通りの挨拶を交わしながら近付くと、揚羽はふふんと得意げに胸を張った。


「……なに?」

「! べ、別になんでもないけどっ」


 慌てたように顔を背けながら、ひょいっと軽やかな動作で石柵を下りた揚羽は、「行こ」と一言だけ言って前を歩き始めた。

 後ろから見ても、頬を膨らませていることがわかる。


 ……相変わらずわかりやすいなぁ。


 ボクが苦笑しながら後ろをついていっていると、不意に揚羽が歩く速度を落としてボクの隣に来た。


「ハルくん、今日って何日だっけ」

「二十五日だったかな」

「そっ、二十五日! 四月二十五日といえば、何かの記念日じゃなかったっけ!」


 それ、ほとんど自分で言ってるようなものじゃあ……。


 まあ、例年揚羽はこうして自分が誕生日であることをアピールしてくる。

 いつもは可憐がすぐに誕生日おめでとうと言っていたけれど、今年はいない。


 だから、少しだけ意地悪をしてみることにした。


「記念日……、そういえば、1953年にDNAの二重らせん構造に関する論文が発表されたから、今日がDNAの日になったんだっけ」

「え、そうなの? 知らなかったっ」


 今日の揚羽の行動を予測して、昨日のうちに調べておいた知識を披露する。

 すると、揚羽はほへーと感心したような表情でボクを見上げてきた。


「他にも国連記念日だったり、日本でいえばカレーラーメンの日なんてのもあったかな」

「すごいねハルくん、よく知ってるねー」


 目をキラキラと輝かせて見上げてくる揚羽に、妙な気恥ずかしさを覚えてしまう。


 よかった、昨日調べておいて。


 顔の向きを前に戻した揚羽は、「そっかそっか、DNAの日かー」なんて言いながら小さく頷いている。

 けれど、電柱を四本ほど通り過ぎた辺りで揚羽はハッとしたように立ち止まった。


「って、違うよハルくん! もっと大事なことがあるでしょっ」

「んー、何かあったっけー」


     ◆


 なんとか学校に着くまで惚け続けることに成功し、揚羽とは昇降口で別れた。

 ボクが揚羽の誕生日を覚えていないと思ったのか、揚羽はもの凄く膨れっ面だった。


 自分でも意地が悪いことをしてしまったという自覚はあるけれど、折角なら登校中の慌ただしい時間でなくて、もっとゆっくりできる時にプレゼントを渡したい。

 ……というのはあくまでも建前で、本当はただ単に拗ねている揚羽が面白かったから、というのでもあったりする。


 とはいえ、このまま惚け続けるのもあれなので、たぶん昼休みには折れてしまうかもしれない。

 それはそれで構わないのだけれど。


 念のためカバンの中に揚羽への誕生日プレゼントをしのばせていることを確認しながら上履きを履いて教室へ向かう。


 少し早かったからか、教室内はいつもより閑散としている。

 そんな中、ボクたちよりも早くに家を出ていた可憐が自席に座って本を読んでいた。


 そういえば、少し文句を言っておかないと。


「可憐、おはよう」

「あ、ハル。おはよう」


 ボクが声を掛けると、可憐は本に栞を挟んで顔を上げてきた。


「昨日、西条くんと揚羽のプレゼント買いに行ったんだって?」

「え、ああ、うん。聞いてたんだ」

「昨日の夜にニャインでね。揚羽に渡して欲しいって」

「なるほど。可憐はもう揚羽には渡した?」

「まだだよ。朝会わなかったから。帰ったら渡すつもりかな」


 最近サッカー部でも朝練が始まったからか、それに伴って可憐が家を出る時間はボクたちよりも一時間ほど早い。


 早起きはつらくないのだろうかとも思うけれど、これもまあ愛の為せる技なのだろう。

 実際の所、可憐はこうして教室で本を読んで始業までの空き時間を有意義に過ごしているようだし。


「まあその、昨日西条先輩と一緒に買い物をしてるときに聞いたんだけど、可憐、先輩にボクの話をしてるんだって? 付き合ってる人にあまり他の男の話はしない方がいいと思うけど」

「……え?」


 ボクが言うと、可憐は困惑したように小首を傾げた。

 悩ましげに眉を寄せて、何やら考えこむ素振りを見せる。


「私、ハルの話そんなにしたかなぁ。んー、でもわかった。気を付けるね」

「う、うん」


 一瞬罰が悪くなって誤魔化しているのだろうかと思ったけれど、可憐の態度からはそんな気配は一切しなかった。

 純粋に戸惑っている様子だ。


 西条先輩がああ言った以上、可憐はボクの話を頻繁にしていたようだけれど……。

 とはいえ、これ以上は可憐に何も言えず、ボクは静かに自席に着いた。

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