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彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第一章

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11、大晦日の待ち合わせ

 約束の時間よりも十五分早い23時15分。

 小学生の頃よく三人で遊んでいた近所の公園に来たボクは、ブランコにそっと腰を下ろしていた。


 ……寒い。


 もう少し遅めに出てくるべきだったかな。

 いやでも、この寒い中揚羽を待たせるというのも申し訳ないし。


 はぁと、夜空を見上げて白い息を吐き出す。


 昔は田畑が多かったこの町も、気付けば埋め立てられ、一軒家やマンションがどんどん増えていった。

 そのためか、夜空も少しくすんで見える。


「今年も、もう終わりかぁ」


 なんだか切なくなって、そんなことを呟いてしまっていた。

 長いようで、短かった。


 きっと、この先も同じように時は過ぎていって。

 遠いいつの日か、過ぎ去った過去を思って戻りたいとか思うのだろうか。


 ……大晦日の日は、どうも普段は意識しない時間の流れを必要以上に考えてしまう。


 深く息を吸い込んで、大きく吐き出した。

 肺いっぱいに冷たい空気が入り込んで、頭が冷える。


 大晦日の日、公園のブランコに男が一人だけで空を見上げているこの状況は傍から見たら結構怪しく見える気が。

 不意にそんなことが脳裏を過ぎったが、その思考を放棄させるように両目を柔らかい何かが覆った。


「だーれだっ」


 語尾に音符でも付きそうな甘い声が耳元で囁かれた。

 ボクの目元を覆う、ほっそりとした白い指。


「……揚羽」

「むっ、その反応なんだか面白くなーい。もっと驚いてよっ」

「いやいや、驚かないでしょ。今日揚羽としか約束してないんだから」


 もしこの場に可憐も来ていたなら、二人のどちらかで悩んだかもしれないけれど。

 ボクが言うと、何故か揚羽は「そ、そっか」と嬉しそうに呟いて、そっと手を離した。


 昔から子どもっぽいところは変わらないなぁと思いながら振り返って、ボクは思わず固まってしまった。


「あげ、は……?」


 零れ出た困惑の声は、普段の揚羽とは雰囲気が全く違ったからだろう。

 薄桃色の着物に身を纏い、普段は幼さを醸し出すツインテールの髪はうなじの上で纏められていて、大人の色香のようなものを漂わせている。


 ボクが暫く見つめていると、揚羽は羽織をギュッと抱き寄せて「な、なに……?」と上目遣いに訊いてきた。


「いや、着物を着てるから驚いて。……もしかして、電話で言ってた楽しみにしといてって、このこと?」

「う、うん。今日はお姉ちゃんがいないから、比べられることもないし……」


 照れたように頷いてから、もごもごと口の中で言葉を転がすように呟く揚羽を訝しみながら見ていると、揚羽はハッとしたように顔を上げて、着物の袖を摘まみながらその場で軽やかに一回転した。


「ど、どう……?」

「――――」


 ……どう、と訊かれても。

 いつもよりも大人びた雰囲気で、それが新鮮で、……可愛い。


「っぅ……」


 顔が熱い。

 このまま黙っていても変に意識しているように思われそうなので、一度心を落ち着かせてから口を開いた。


「その、似合ってると思うよ。うん、凄く似合ってる」


 若干声が上擦ってしまった。


「そ、そっか。えへへ……」


 だが、揚羽はそのことに気付かなかったらしい。

 嬉しそうに口元を緩めて、髪をいじいじと触って視線を彷徨わせている。

 すると、揚羽の瞳が一点を捉えて止まった。


 一瞬瞠目して、口元を緩めながら俯いた。


「つ、着けてくれてるんだ」


 なにが、とは訊かなくてもわかった。


 クリスマスの日に揚羽に貰った手編みのマフラー。

 それを今日、ボクは首に巻いてきたのだ。


 やっぱり、プレゼントって使った方が渡した方も嬉しいだろう。

 それが手作りとあればなおさらだ。


 ……それに、ボク自身結構気に入ってるし。


「揚羽が作ったんでしょ? ちょっと意外だった」

「ど、どういう意味よ」

「凄く上手に出来てるからさ、揚羽ってこういうの苦手だと思ってた」

「……そりゃあ、上手にできるよ。たくさん、愛情込めたんだから」

「……う、うん。ありがとう」


 どうして揚羽はとても恥ずかしい言葉をさらりと言ってしまうのだろう。

 こちらの身を考えて欲しい。


 耳まで真っ赤にして俯いてしまった揚羽を見つめながら、ボクはそっとマフラーを持ち上げて口元を覆った。


 奇妙な空気が流れる。

 なんだか落ち着かなくて、気を紛らわせようと揚羽の装いを改めて見つめる。


 どうしても普段活発な印象があるが、こうして着物を着ているとしおらしく見える。

 普段は髪に隠れている首筋が、なんというか艶やかだ。


 ……って、ダメだ。逆効果だ。

 逆に意識してしまう。


 予定の時間よりも早いけれど、そろそろ出発しよう。

 そう思って足を踏み出そうとして、それに気付いた。


「って、そういう揚羽も着けてくれてるんだね」


 同じクリスマスの日にプレゼントしたピンク色のミトンの手袋。

 着物の色と被っていたために気付くのに遅れてしまったけれど、揚羽はその手袋を着けていた。


 ボクが指摘すると、揚羽は両手を持ち上げて「えへへ」とはにかんだ。


「凄くあったかいよ。うさみみも可愛いし。……あ、でも」

「……?」


 笑顔を一転、少し残念そうな表情を浮かべた揚羽は左手の手袋を静かに外した。

 その所作を訝しみながら見つめていると、「ん」とその左手を突き出してきた。


「手袋着けてない方が、手、繋ぎやすいのはちょっと不満かな」


 おどけた笑みと共にそう言われて、ボクは思わず押し黙った。

 ボクは努めて平静を装いながら揚羽の手を取る。


「……じゃあ、行こうか」

「うんっ」


 無邪気な笑顔を浮かべながら、揚羽はギュッと握り返してきた。

 公園を出て、駅への道を進む。


 不意に隣を見ると、揚羽は顔を真っ赤にしていた。

 ……ボクも、顔が熱くなるのがわかった。



「あ、左手の手袋着けてみる? ちょうどハルくんの手、空いてるし」

「着けないよ……」


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