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彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。  作者: 戸津 秋太
第一章

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10、台風のような勢い

 遅めの大掃除を終え、後は年を越すだけとなった大晦日の日。

 昼過ぎに起きたボクが部屋のカーテンを開けていると、勉強机の上に置いてあったスマホがピコンと鳴った。

 歩み寄って画面を見ると、可憐からニャインが来ていた。


『揚羽から伝言。今日の夜23時30分に近所の公園に集合って』


 クリスマスイブの日、揚羽と一緒に初詣に行くことを約束していた。


 揚羽はまだ中学三年生でスマホを持っていないので、可憐が代わりに連絡をくれたということだ。

 毎年三人で初詣に行っていたけれど、今回可憐は言わずもがな彼氏の西条くんと共に行くそうだ。


 寝起きからアンニュイな気分になりながら、ボクはスマホをタップして『了解』と返事をしておいた。

 スウェットのポケットにスマホを入れて、欠伸をかみ殺しながら部屋を出る。


 父さんは大晦日でも仕事らしく、母さんは町内の集まりで出かけている。

 しんとした廊下を進んでキッチンへ入ったボクは、コップに水を注いで一気に呷る。

 すると、ポケットに入れていたスマホが聞き慣れた着信音と共にブルルッと震えた。


 誰からの電話だろうと思いながら取り出して見ると、画面には『可憐』の文字が映し出されていた。


「もしもし、可憐?」


 一瞬躊躇ってから通話ボタンを押す。

 すると、電話の向こうから少し呆れたような声が聞こえてきた。


「ハル? もしかして、今起きたの?」

「うん、まあ。どうせ今日の夜は夜更かしすることになるんだし、寝だめしておこうと思って」


 嘘である。

 冬休みに入ってから、基本的にぐうたらしているせいで生活リズムが狂ってしまっている。


 幼い頃からの付き合いである可憐にはそのことを見透かされてしまったのか、スピーカー越しに小さくため息が聞こえてきた。

 可憐といい、揚羽といい、どうにも鋭いなぁ。


「それで、一体どうしたの?」

「ん、やー、特に用はないんだけどね……」

「?」


 いやに歯切れの悪い物言いが引っかかる。

 再度コップに水を注ぎながら可憐の言葉を待っていると、「そのね……」と切り出した。


「今日のことなんだけど」

「今日? ……ああ、初詣のこと? それだったら大丈夫だって。前にも言ったけど邪魔をする趣味はないから」


 毎年一緒に行っていたから、今回行けないことを申し訳なく思っているのだろう。

 ボクは努めて明るい口調で笑い返した。


 すると、可憐は「ううん、そうじゃないの」と否定する。


「揚羽のことなんだけど、初詣に行こうって言い出したのって揚羽でしょう? クリスマスの時も」

「そうだけど。それがどうかした?」

「ほら、あの子前から私たちがどこかに出かけるとき無理矢理ついてきたでしょ。だから、今回もハルに迷惑掛けちゃってるんじゃないかなって」

「似たようなことをおばさんにも言われたよ。ボクってそんなに巻き込まれているように見えるのかな」


 尻に敷かれる、とでも言うのだろうか。

 その自覚がないというわけではないけれども。


「心配しなくても、迷惑なんかじゃないよ。それに無理矢理と言うのなら、可憐も昔からそうだったじゃん」

「え?」

「揚羽に誘われて二人で出かけようとしたら、可憐もついてきたでしょ? 似たもの姉妹だよ、似たもの姉妹」

「そうだったっけ……?」


 スマホ越しに、可憐が小首を傾げたのがわかった。

 悩ましげな声音でうんうんと唸る可憐に思わず苦笑してしまう。


 可憐は覚えていないようだけれど、二人の板挟みにあっていたボクは鮮明に覚えている。

 揚羽と二人で出かけようとすると可憐が、可憐と二人ででかけようとすると揚羽が、必ずと言っていいほど間に入ってきて一緒に行こうとする。

 ボク自身は別段そのことを不満に思っていたわけではなかったので、別にいいのだけれど。


 わざわざこの話をするためだけに電話を掛けてきたのだろうかと不思議に思っていると、スピーカーの向こうから可憐以外の声が聞こえてきた。


「ねー、お姉ちゃん、誰と電話してるのー?」

「ハル」

「えっ、ハルくん! お姉ちゃんちょっと代わってっ」

「あっ、ちょっと……っ」


 何やら電話の向こうが賑やかになった。


 耳元からスマホを少しだけ離して待っていると、「ハルくん!」と揚羽の元気な声が飛び込んできた。

 顔を見ていなくても、満面の笑顔を浮かべていることがわかる。


 揚羽は弾んだ息を整えると、浮き足だった調子で言ってきた。


「今日の約束、覚えてるよねっ」

「もちろん覚えてるよ。起きたら、可憐からニャインが届いてたし」

「公園だからねっ。23時30分だからね!」

「わかったから」


 自分でも口元が緩むのがわかった。

 まるで遠足に行く子どもみたいにはしゃいでいる揚羽が少し可笑しかった。


「揚羽、もう済んだ?」

「あ、お姉ちゃん、あともうちょっとだけ。あのね、ハルくん。今日、楽しみにしといて。じゃーね!」

「え……?」


 一体どういう意味か聞き返そうとしたときには、ポロンという音と共に通話が切られた。

 台風のような勢いに圧倒されて暫くスマホの画面を見つめながら、小さく吐息を零す。


 ……よくよく考えたら、今日って二人きりで初詣なのか。


 そのことを意識するとなんだか気恥ずかしくなって、ボクは注いでおいた水を一気に口に流し込んだ。

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