君が生きようが死のうが
目覚めればそこはやけに薬品の匂いが強烈で清潔感が溢れた白一色な小さな個室。
陽当たりが良すぎて、うっすら汗をかいてしまっているようだ。
「あ、目が覚めた?ほんと、あんたの生命力は大したもんだわ」
頭上から聞こえる声、どうも起き上がるのが億劫で目線だけ声のする方に向ける。
煙草をくわえながら何やら作業をしている真っ白いワンピースにナースキャップの女がそこにいた。
「…病院?」
「それ以外に何に見えるって言うのよ。」
随分口と態度が悪い女だ、沸き出るムカつきを押さえながら女の話に耳を傾ける事にする。
「それにしても驚いたわ。大怪我な上に高熱で指一本動かせない程なのに、それに下手すればショックでも起こして死んだかもしんないのに、あんたよくひとりでここに来れたわねえ」
「は?」
「それにあんたの口調面白かったわ。自分の事なのに[彼女を救ってやってくれ]だなんて、第三者目線にも程があるってもんよ」
テンポよく切り返しながら点滴の機械を少し手入れして、ナース(らしい女)は部屋を後にした。
「あたしが一人で…?」
ポタポタと落ちる点滴の雫を見つめながらこれまでの行動を振り返ってみる。
「(…そんなわけがない。あたしは何があっても医者には頼らない。
確か、昨晩…依頼通りに奴を仕留めた代わりに置き土産の弾丸で怪我しちゃったんだっけ。
それからなんとか帰って…包帯巻いてたら…
殺したはずのあいつがいた)」
ぼんやり霞がかかった先の瞳に映るのは、仕留めた筈の人物だった。
「…っ!ここにいるんでしょ!今すぐ出てきなよ!!」
何の反応もなく苛立ちが募るばかり。しかし動けない代わりに声を張り上げて叫び続ける。
「ふざけるな!誰が…誰が助けてなんて言ったのよ!あんたに懇願した覚えはない!
勝手な事をして…殺すわよ、アサギ!!」
言い切った途端に、無風だった部屋にすぅっと薄く風が吹き、何もなかった隣に人の気配。
『…それだけ叫べればもう大丈夫だね。
それにしても…、開口一番に“殺す”だなんて不謹慎極まりないんじゃないかな』
無表情なままそう語るアサギはゆらゆらと幻影のように宙を浮いていた。まさか、夢の延長線ではあるまいか。
「…あんたの手なんか借りるくらいならあのまま死んだ方がましだった!なに甘い事をしてんのよ!その甘さが命取りになったことを…忘れたの!?」
憎々しく伝える。それが伝わったかのように、あいつも少し顔を歪ませて無機質な瞳を向けて淡々と語り出す。
『そんな事…君なんかより、重々承知だ。
ねえユリア、勘違いしないで。君が生きようが死のうが俺の知ったところではないよ。
ただ助けたのは、今ここで君に死なれると俺が困るの。色々不都合が生じるからね
それが終われば、今度こそ君を生きては返さない』
「………ふっ」
無言劇の最中、思わず笑いを隠しきれなかったのはあたし。そうだ、こうではないと今後何一つ面白味がない。
『何が、可笑しい?』
「何もかも面白くて仕方がない。アサギ、あんた本気であたしを利用価値の有無ではかってるのね。あたしもひどく嘗められたものだわ。」
『…そんなの当然じゃない。だからこそ、君をパートナーにしたいくらいなんだから』