君に死なれる訳にはいかない。
妥協したようにそれを言いきった少女。少女にとってこれが最大なる譲歩なのだろう。少女とて、無意味に命を奪い取る真似など意思に反する事なのか。
「だから、精々その生きてるか死んでるか解らない状況を未練が残らないよう謳歌でもしてなよ。あなたは2度死ぬ事になるんだから…」
銃をホルダーに仕舞おうとしたらしい、手を伸ばした矢先にまるで振り子のように身体を揺らし大きな音と共に硬い床に吸い込まれるように倒れこんだ。
『…ユ、ユリア!』
思わず駆け寄り、呼吸の荒い彼女の状態を確かめる。強がっていたものの、やはり負った傷は深いもので血は一向に止まる気配は見られず、怪我からくる高熱も併発しはじめたらしく痛みの全てが少女に襲いかかる。
「はぁ…、はぁ…」
『…ロクに手当てしなかったでしょう?傷から菌が入り込んだみたいだ。ユリア起きれる?しっかりして』
少女を抱き上げてでもして、病院に運びたいところだけれど今の俺にはそれは叶わない。
身体を揺らそうとしても、少女に触れることは出来ない。声を掛け続けるしか術がない。
『ユリア聞こえる?動けるなら病院へ。』
「はぁ…、はぁ…。ほっといて…っ。あたしが…そんなとこ…行ける…わけ…」
途切れ途切れになりつつ、はっきり言いきり何度か立ち上がろうと試みるも身体が思うように動かないといったようだ。
ただ、喘ぐように荒々しい呼吸だけが部屋に響き渡る。
『…このままだと、破傷風を併発してしまう。
君まで命を落としてしまいかねないよ、だから…』
「はぁ…、はぁ…」
とうとう意識が朦朧としてしまったのか、返答すらなくなった。
その瞳はぼんやり、何も映しておらず繰り返し呟くのは譫言と荒々しい呼吸だけ。
『(手加減はしたつもりだったけど…思ったより、少女に与えた損傷は強大だったらしい。
というか、華奢な体つきだから多少のダメージでも倍となって還ってしまうのか…)』
こうしているうちにも、少女の状態は悪化している。絶えず流れ落ちる血も、失血死に繋がる。頬の紅潮からにしてもどうやら熱も高くなっている様で脈拍が異常に速い。
そして意識淘汰と混濁により繰り返される譫言。
「…さ、ん…。姉さん…。」
『…ちっ。このままだと…』
俺に迷っている時間などなかった。
『…ユリア、どうなるかはわからないけれど今から行う事は君を助ける為なんだ。強いては俺自身の為なんだけどね。
今、君に死なれる訳にはいかない。だから、許してね』
聞こえていない懺悔を口にする。
俺がやろうとしている事は、確証も何もない試み。
ゆっくりと深呼吸。そして。
痛みに喘ぐ少女の身体に入り込むように接近する。
すぅ。この効果音が合っているだろう。
その瞬間、寒暖を感じる事のない俺は久方ぶりに温度を肌で感じた。
『熱い…っ!』