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まさに絵空事

それだけ言うと、会話をする事自体に飽きを感じてしまったのか、すっと立ち上がりバルコニーへと足を向けて背を向ける。


『…ユリア』


声をかけたと同時にくるりとこちらを向き、殺意を秘めた瞳を浮かべさせて冷酷に少女は言い放つ。


「あなたを殺す事がわたしの課せられた任務。それが成し得ないのならば、それを遂行するまでの事。…だからこそ言え、お前の身体が今どこで眠っているのかを」


いつのまにかタバコの箱と入れ換えに、少女の手には重厚な拳銃。かちゃりと、音を立てながら俺の額(と言っても透けてしまっているから当たっていないのだけれども)に銃口を突き付ける。その射程距離 0メートル。


『…ここで俺を撃っても意味が成さないよ?

だから、何の脅しにもならない』


「…は。よく言うわ。肉体があろうがなかろうが最初から怖じ気ついてもないくせに」


呆れたと言わんばかりに髪をかきあげる仕草をして、ようやく少女は手中の拳銃をフォルダーにしまって煙草に火をつける。


『…考え直してくれる気になったの?』


「それはない。仲間程、煩わしいものはないと思ってるから。」


ふぅと空を舞う紫煙、共に吐き出される溜め息を俺は見逃さなかった。


『…じゃあどうしたら、君の考えを変える事が出来る?』


「残念ながら、その確率は0パーセント。わたしがあなたに組むなんてまさに絵空事。

諦めて、さっさと病院でもどこでも行きなよ。今なら見逃してあげるから」


きっと少女は自身の持つ力を過信している。その半面弱点を見せぬよう虚栄を強いている。

暗殺業を営む者として、弱点・弱さを見せる=自らを窮地へ追い込みかねん事柄 と捉える傾向がある。弱さを見せる事を頑なに拒否し群れから自ら離れようとする、きっと本当の少女はきっと…。


『よく、わかったよ』


「ふぅん、物分かりは良い方…」



「ユリアは優しいんだねだから、仲間を必要としない」


「…はぁ?なによいきなり…」


少しばかりのどよめきと動揺。目を泳がせたと思えば勢いよくこちらを振り返り険しい顔つきになり睨みつける。

それを受け流すように言葉を続ける。


『自分さえ傷付けばいい。誰も傷付けたくないのでしょう?だから頑なに孤独を強要しそれに沈まろうとする。…強ち間違いではないでしょう?』


「勝手な事を四の五抜かすな。あなたにあたしの何がわかる?たかが数時間前に会った程度で、見透かしたような事を言ってじゃないわよ!」


きっと図星だろう、苛立ちを隠さない声色で拒絶をし断絶しようとする。至極当然だろう。


「仲間なんて何の意味がある?足枷になるくらいなら一人でいたほうがマシだわ」


そう言い切った少女の瞳には一切の迷いも揺らぎもない。ただ、断固として主張するのはこれから先もずっと一人で生きていく、ということ。見えた矢先、推し黙る俺を見越した少女は溜め息をひとつ落としてゆっくりと思い立ったように言葉を繋ぎ始めた。


「…諦めそうにないわね。それじゃあ、あたしをどうにかして納得させてみてよ。」


無表情で淡白とした話し方だった少女の顔色が少し紅潮している。微力ながらも脈拍も少し速いよう。少なからず動揺しているようだ。自分の心境の移り変わりと先程の俺自身の言葉に。

…やはり少女はそうか。自分を殺して冷酷に振る舞い身を投じているに過ぎない。殺しなど不似合いな性で、この世界でやっていくには些か繊細すぎる人物のようだ。


『認めさせろって…。逆にじゃあどうすれば、君は俺を認めてくれるの?経歴でも語ればいいの?』


「だからあたしに質問するなって言ってるでしょ。自分で考えなよ。大体あなたの過去には何の興味もない、あたしが知りたいのはただひとつ、あなたの肉体の行方よ。死に損ないの亡霊さん。」


苛つきを隠さず、とうとう不機嫌を態度に表し始めた少女。煙草の本数を増やしながらそれを健気に、多少なりとも動揺している事を俺に気付かれんようにと精一杯誤魔化している。

俺を窮地に追い込んだ張本人、従来であればこの憎き相手を千載一遇の機会として報復を企てる事だろう。けれど今はそのような行動を起こそうなどと何故か微塵にも思えない。短すぎる会話の中で、俺はあるひとつの感情を芽生え始めていたからだ。


『(…面白いな。もう少しこの“ユリア”という暗殺者の行く末を見てみたいものだ。)』


そんな、霰もない興味がいつの間にか引き出されていた。


『残念ながら俺にも解らない。それが解ったなら先にそちらに行っているよ。

というか、ユリアは俺の身体を見つけたら無抵抗なのに消してしまうつもりなの?』


「軽々しく名を呼ばないで!それと何当たり前な事を言ってるの。言ったでしょ、あたしの目的はただひとつ。どんな手段を使ってでも、依頼を遂行する。…けど、あなたの場合はとりあえず保留しといてあげる。」


『え…』


はぁ と今度は紫煙に紛れさす事なく少女は盛大なる溜め息をついて髪をかき揚げ、そのまま頭を抱える。


「あたしはそこまで豪語する、あなたの腕前をまだ知らないから。まずは見させて貰う、何れ程の手馴れなのかを。そこで、殺すかどうかを決める」


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