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パートナーも仲間もいらない。そんなもの邪魔の何物でもない

それを言い出したのは紛れもなく、自分。

恥も外聞も全て捨て去っても構わないし、これまで積み上げてきたプライドも、今となっては全ては無価値と成り果て、護りたいものなんて最早俺には何も残されてなんかいなかった。

ただ最後にやり遂げならなければならない。


「はっ。何を言い出すかと思えば…。まあ言うだけ言ってみて?暇潰し程度に聞いてあげるから」


変わらない高飛車を興じつつ少女は懐に手を伸ばし、嗜好品であろう葉巻、それも女性向きだと見受けられるフレーバーとm数のものに火を付け、紫煙を部屋一面に充満させる。

一瞬顔を歪ませるが、そんなものはまやかしに過ぎない。今の俺は霊体なのだから“不愉快”なんていう感覚などあり得る筈はないのだ。


『確かにこれまで…俺は命を狙われても仕方がない行為を行ってきた。いくら俺の本心ではなかったと言ってもね。けれど、今のところ君は俺に私怨はないんだよね?一体誰の差し金なのか、俺は知りたいんだ』


「…知ってどうするの?やり返すの?」


不思議そうに首を斜めに傾けて疑問を口にする。どうにもこうにも、少女とは生涯理解などしあえるなんて皆無に等しいと切実に痛感する。


『いいや、償わなければならないのならば喜んで命を差し出そう。ただ理由を知りたいだけだ、その為にも君の協力が必要なんだ』


少女の瞳を見つめる。変わらず氷のような冷たい視線のままだけれども、全く無関心というわけでもなさそうだ。


「わたしの?言っとくけど、どんな事があろうともクライアントの情報は割らないから」


予想通りの解答に思わず笑みが零れてしまったが、それを隠すように言葉を紡ぐ。


「そう。君は絶対に口を割らない。そんな事を期待しているわけじゃないよ」


「…じゃあ、なに」


すぅと一呼吸。このような事をこれまで、思ってみせた事もなければ口にする事などないと思い込んでいた。俺も少女と同じで一人を好み生きてきたのだから。


『君の傍にいさせてほしい。勿論君の手を煩わせる事もしないし、俺の持つ能力の全てを賭けて君の手助けにもなろう。俺を、君のパートナーにしてくれないか?』


「パートナー…?」


思いもよらない言葉だったのだろうか。

呟くように吐き出し、表情は変わらないまでも少し目を丸くしたまま無言で俺を見上げながら見つめている。少女自身も、どう反応を示すべきなのかが見当もつかないようだ。


『うん、そう。君の腕前は確かだ。俺がこれまで出会ってきた人間たちを遥かに凌駕している。裏を返せば…、君でなければ俺の窮地に陥れる事など叶わぬ夢になっていたことだろう』


にっこり笑って会話。すると少女もつられて皮肉を表すような笑み…というより口角を無理やり上げただけを小さく浮かべる。


「あら、かなりの自意識過剰なのね。」


『まがりなりにはね。本当に君は俺の事を知らないの?』


微笑んで、少女に問い掛ける。この界隈に身を置く者として、俺の存在(=通り名)を知らぬ人間は誰一人としていない筈。けれど知らないと言いきった少女。虚栄か無知なのか。この“ユリア”という暗殺者が未だに読めない。


「…知らない。ごめんね、他人には興味ないの」


突き放すように少女ははっきりとした口調で切り返す。その瞳には嘘偽りはないといった様子だ。


『じゃあ…“黒薔薇の騎士”は?』


その言葉に反応するように顔色を変え、俺を強く睨み下唇を強く噛み始めじんわりと朱色が滲み出る。


「…なぜにその名を出す?あなたは行方を知ってるの?」


『…いいや。ただ突如闇に消えた騎士団長じゃない?君こそ何か知ってるのかなって。』


腑に落ちない様子だが、更に視線を強め語尾を

も力を込めて少女は語る。


「…そいつを探してるの、絶対に見つけ出す。」

 

『彼と何か邂逅でも?』


「詮索はやめて。一つだけ話すならば喩え刺し違えようとも奴は必ず斃す。」


瞳の奥には燻ることなく燃え盛る憎悪の炎。 

…少女に何か怨まれることした覚えはないのだけれども。


『…話を戻そう、じゃあ君は俺のことを何も知らなかったのに、俺の暗殺を請け負ったの?』


「わたしに質問しないで」


腕と足を組み、怪訝そうに俺を睨み付ける。

少女の様子を窺ってみると、感じられるのは少々、機嫌の下降現象。それはまるで、気紛れな猫のような姿だった。


『…ごめんね。気に障ったのなら謝罪するよ。

…でもそろそろ君の回答が聞きたいのだけれど、検討して貰えそうかな?』


大方、返ってくる回答は安易に想像出来ているが少女の口から紡ぎ出される言葉を聞きたくてわざと問う。俺の考えを読んだのか否か、少女はひとつ態とらしく口角を少しあげてはっきりとした口調で話し出す。


「検討も何もないわ。答えは一つ。

“断る”。わたしにはパートナーも仲間もいらない。そんなもの邪魔の何物でもない」

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