君は霊的な物を信じれる性質?
ゆらりふらり、何か暖かいものに包まれているような浮遊感。
心地良く何時までも微睡んでいたい、そう固く瞳を閉じる。
「起きて。まだ眠りにつくときじゃない。
生きて。彼女のために」
眠りを妨げる甲高い声に嫌悪感を覚え、閉じていた瞳をゆっくり開ける。
そこは見覚えもない場所に違和感を与える自身の存在。
『…? 身体が軽い…?』
そこはただ“白”いという印象しか与えない。
家具も壁も生活小物も何もかも白で統一されていた。辛うじてテーブルの上に、食事後の形跡のあるトレーにグラスと救急箱が広げられており、生活感は残されていたが何もかもが新品同様であった。
そんな空虚さを否めない場所に何故自分がいるのかが至極解明出来ない。
確か…、俺は相手を…少女だからと甘くみていた。加減するために手を弛めた結果逆にしてやられ、致命傷を喰らい確実に頭蓋を撃ち抜かれた。
俺は…絶命したはずだった。
けれど眼前には、数時間前に俺を撃ち抜いた張本人が白い包帯を巻きながら目を見開いて此方を呆然と見ていた。
「…驚いたわ。仕留めたという手応えはあったけど…。まさか生きてたなんて」
言葉とは裏腹に、氷のような瞳、変わらない冷笑を浮かべる少女の表情からは大した驚きなど見せてはいなかった。(取り繕っているに過ぎないのだろうけど)何の気なしに自分の掌に視線を送ってみる。
可笑しい話だ。(この状況からして何が可笑しいのか否か考える方が不粋なのだろうが)。
『(…ははは。笑えない。透けてる、なんて…。まさか本当にこんな事が起こるとは)』
それまで無言劇を拡げていた少女は小さく呟いた。よくよく見ると、少女に与えた損傷は甚大のようだ。体内に弾丸は残されていないようだけど、血流の流れは些か景気が良さそうだ。
二の腕・足首・大腿骨付近に巻いたばかりの包帯からはじわりと血が滲んでいる。
頬にもやや掠り傷が目立つ。自ら与えた損傷であるに関わらず、この見ず知らずの暗殺者の満身創痍に少しばかり胸を痛め罪悪を感じる。
「どこでこの場所の存在を知ったのよ。あんたもしかして、最初からわたしの事を知っていたの?」
そんな事はお構い無しだ、と云うように顔色ひとつ変えず問う。
『…君の事は何も知らないよ。気付いたらここに…。ねえ、君は霊的な物を信じれる性質?』
現段階、俺自身も確信したわけではないけれど、そうとしか思う事が出来ないひとつの思案を暫定的に言葉にしていた。
「誰が質問していいなんて言ったの。」
カチャリ、と構える護身銃と言うに相応しい少女の小さな手にフィットしているピストルを俺の頭に突きつけようとしてくる。
相変わらず少女が使用しているのは、護身用の銃。誰も好んでは使用しないはずの戦闘には不向きで扱いにくいとされている品物だ。この暗殺者、一癖も二癖も他の同業者とは違った特性があるらしい。
「この距離なら絶対に外さない。今度こそ…あんたの最期よ」
躊躇いもなく発砲。硬く目を閉じて事の成り行きに身を任せる。もし、これが俺の想像通りなら…、まず死ぬ事はない。
「…!?すり…抜ける…!?」
弾丸は俺の頭を通り抜け、向こう側にあった小さなぬいぐるみに貫き、中の綿が舞い見るも無惨な姿に変貌を遂げていた。
『今の俺は死ねないよ、残念ながら。もう一度聞くね…。君は霊的な何かを信じれる性質?』
「…あんた一体…。…まあ良いわ、話くらい聞いてあげる」