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駆け出しにドラゴンの討伐依頼って冗談だよね?

「おい、退け! 轢かれたいのか!」


「……え?」 


いきなり響いた怒鳴り声に反射的に声の方を見ると、ノコギリのような歯の並んだ口が迫っていた。


「――うわっ」


驚いて尻餅をついた僕の目の前をトカゲのような生き物が引く馬車が通り過ぎていく。


「な、なんなんだ……?」


 道端で尻餅をつく僕に視線が集まっている。慌てて立ち上がると通行人の邪魔にならないように道の端に

移動する。


 落ち着いて周囲を見回してみる。石畳の地面に、木造や石造りの建物。道を行き来する人は、髪や目の色がカラフルで、耳が長かったり、獣の耳や尻尾が生えていたり、現実ではありえないような外見の人がいる。


「………………」


 一旦落ち着いて、自分の記憶を確かめる。


 坂上彼方さかがみかなた、高校二年生、十七歳。

 ゲーム、アニメ、ライトノベルが好きなどこにでもいるようなオタクだ。

 特に人に言えるほどの長所もなく、日々趣味に時間を割いてばかりいる普通の男子高校生だ。

自分の姿を確認する。部屋着にも使っているジャージ姿だ。


 小腹が空いたので、近所のコンビニにまで出かけようと靴を履いたところまでは覚えている。

 次の瞬間には、ここにいた。

 きっかけみたいなものは何もなかった。誰かに召喚されたということでもなく、偶然ここに来たみたいな感じだろうか。


 一応、頬を抓ってみるが、普通に痛い。夢ではない。

 まあ、これあれだよね。


「異世界転移、か……」


 カナタは感慨深く呟く。

 異世界に来れたのは嬉しいが、突然のことすぎて実感が薄い。

 まあ、そのうち実感できるだろう。


 異世界に来たら、まずは冒険者ギルドに行くのは常識だ。

 人に聞いて辿り着いた冒険者ギルドは、木造三階建ての大きめの建物だ。

 受付の列に並んで、カナタの番が回ってくる。失礼のないように丁寧な態度を心がけ受付嬢に話しかける。


「すみません、冒険者登録をしたいんですが」


「はい、冒険者登録ですね。登録には試験を受けてもらいますが、よろしいでしょうか?」


 試験か。たぶん簡単なものだろうし、大丈夫。


「はい、大丈夫です」


「それでは、試験は魔獣の討伐依頼となります。ドラゴン三体を討伐し、魔石を持ってきてくだされば合格となります。登録料は討伐報酬より引かれます」


「わかりま…………ん!?」


 え、今なんて言った? ドラゴンとか聞こえたんだけど。さすがに気のせいだよね。


「あ、すいません。ちょっと耳の調子が悪かったみたいで、よく聞き取れなかったんですけど……、何を討伐するんですか?」


 受付嬢はゆっくりと聞きやすいように言う。


「ドラゴンを、三体です。種類は問いませんので、幼竜三体でもいいですよ」


 やっぱり聞き間違いじゃなかった。ドラゴンって言ってる。絶対駆け出し冒険者が倒せるものじゃない。もしかして、冗談で言っているんだろうか。

 受付嬢を見る。営業スマイルを浮かべる受付嬢に悪気は欠片も見えない。冗談でもなく、本気で言っているみたい。


 こうなると、翻訳機能が壊れているんじゃないか。でも、今まで会話できているし、それはないか。

 となると、この世界のドラゴンは自分が知っているものとは違うんだろう。うん、そうに違いない。そうじゃないとおかしい。


「その、この街の近くに出るドラゴンはどんなのがいるんですか? できれば姿形がわかるとありがたいんですけど」


「そうですね……少々お待ちください」


 受付嬢が奥に引っ込んで、一分ほどで紙を二枚その手に持って戻ってくる。

 受付のテーブルに置かれた二枚の紙には、写真かと見紛うぐらいに上手い絵が描かれていた。

 受付嬢は絵を指し示しながら、丁寧に説明してくれる


「こちらが飛竜で、こちらは地竜です。この辺りでは、赤い鱗の地竜の方が多いですね。幼竜は、体長が三~六メートル、成竜は八~十三メートルとなります。ドラゴンの強さは幼竜、成竜、古龍、竜王、竜神、の五段階で表されます。……街の近くでは、古竜以上は滅多に出ませんが、十分に注意してください」


 飛竜は、亜竜と呼ばれるワイバーンとかじゃなく、これこそドラゴンといった感じだ。地竜の方は、翼がない代わりに四肢が太い。

 非常に嬉しくないことに想像通り強そうなドラゴンを出されてしまった。


 どうなってんの、これ? 普通こういう時、ゴブリンやスライムとか弱い魔獣を討伐してくるもんじゃないの。

 でも、ドラゴンの討伐に行くわけにはいかない。武器の一つも持たずに勝てる相手じゃないのは勿論だけど、しっかり武装していっても返り討ちに合うに決まっている。


 ドラゴン三体を討伐できる実力が冒険者になる最低条件なら、僕は冒険者にはなれない。

 なにかしらチート能力を持っている可能性はあるかもしれないけど、ドラゴン相手に命懸けで調べてみる気にはならない。


 カナタは振り向いて酒場でたむろしている冒険者達を見る。

 歴戦の猛者のような冒険者たちばかりではなく、僕と同じような年齢のまだ駆け出しといった冒険者もいる。ここにいる全員が単独でドラゴンを倒せる力を持っている。


 ここはラスボス前の街なのかな? だからゴブリンのような雑魚魔獣とかいなくて、ドラゴンレベルの強い魔獣しかいない。そう考えると、なんとか辻褄が合うかな?

 カナタが熟考していると、心配そうに声を掛けてくる。


「あの、大丈夫でしょうか……もし、討伐依頼が無理なら、採取依頼にしますか?」


「え? あ、ああ、採取もあるか。……それじゃ、採取依頼でお願いしたいんですが……」


 不安な気持ちでいっぱいだったが、採取依頼を受けて街を出る。

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