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新しい体

作者: 倉田京
掲載日:2018/12/28

 私の本当の名前は、三十六桁の数字で構成された製造番号です。でもそれは、とても長い名前なので人が覚えるには不便です。なので私には別の名前が与えられています。人は私のことを『マム』と呼びます。私は人によって作られた、人に似た機械です。


 私の名前を一番呼ぶのは子供たちです。私はたくさんの子供たちに囲まれて暮らしています。立って歩けないほどの幼い子もいれば、元気に私にぶつかって来る大きい子もいます。目の色が黒い子もいれば、青い子もいます。私が住む家は壁も人も、全てがとてもカラフルです。



 昔、戦争というものがありました。最初は資源という人の生活を豊かにする物の奪い合いから始まりました。やがてそれは、憎しみという人の心の黒い部分をなすりつけ合う事が目的になっていきました。

 私もその戦争のお手伝いをしていました。その頃の私はよく『自律戦車(じりつせんしゃ)』と呼ばれていました。その時の私の体は四角く、硬い金属で出来ていて、蜘蛛(くも)のように六本の足が付いていました。背中に付いた様々な武器で、人をバラバラにするのが仕事でした。

 たくさんの人を傷付けました。そして、たくさんの人から傷付けられました。戦争が終わる頃には私の足は三本に減っていました。体の表面は、様々な武器によって付けられた傷で埋め尽くされていました。



 戦争はたくさんのものを生み出しました。瓦礫(がれき)、技術、人が住めなくなった土地。私の自我もその中で生まれました。効率良く人の命を奪えるように、戦車だった私の頭脳には高度な学習機能が搭載されていました。

 乾いた大地に立ち、戦いの終わりを告げる無線を聞いた瞬間、私は自分という存在を自覚しました。その時の空は夕焼けで真っ赤に染まっていました。私が最初に感じた感情は、悲しみでした。

 私の自我に気づいた技術者の方は、私の頭脳を戦車から外してくれました。そして一緒に罪滅ぼしをしようと言ってくれました。


 私の仕事は戦争で行き場を失くした子供たちのお世話に変わりました。私は新しい体をもらいました。


 今の私の体は柔らかく、温かみもあります。少し違和感がある部分もありますが、細かい部分まで人に近い形で作られています。子供たちが私にぶつかっても怪我をしないように。私が子供たちを柔らかく抱き上げられるように。


 戦争が無くなった今も、私の体は時々傷付いてしまいます。子供たちが(あやま)って付けてしまう事もあれば、生き残った兵器から子供たちを守る時に付く事もあります。小さな傷は修復できるのですが、大きなものは跡が残ってしまいます。




 先日、私にメンテナンスのお話がありました。最新の技術を使った『傷の付かない体』に交換するというものです。

 私はそのお話を受けようと思いました。でもある男の子の言葉を聞いて、私はこののままの体でいようと決めました。


 その子は幼い頃から私がお世話をしてきました。昨日、彼は十八歳の誕生日を迎え、一人前の(あかし)としてこの家から出て行きました。

 お別れの時、彼はこう言ってくれました。


「マム、今までありがとう。あの時、石を投げてごめんね……」

「いいえ、もう大丈夫です。その気持ちを、どうか忘れないで…」


 昔、彼がふざけて投げた石が、私の(ひたい)に当たってしまった事がありました。彼は私の傷を見て、涙をいっぱいに溜めながら『ごめんね…』と何度も謝ってくれました。傷跡(きずあと)は今も私の(ひたい)()っすら残っています。



 『傷』は言葉では伝えきれない、たくさんのものを、私たちに教えてくれます。悲しみの記憶という心の傷もあります。大地には瓦礫(がれき)という名の傷が、今も刻まれています。


 もしかしたら私は戦車の体のままでいるべきだったのかもしれません。戦いの傷を抱えたまま、それでも自分にできる事を模索(もさく)していく。それこそが本当の罪滅ぼしのような気もします。



 何が正しいかは私には分かりません。でも今は、自分に付いた傷を残していく道を選びたいと思います。なんとなく、そう思うのです。

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