死神
残虐描写があるのでご注意下さい
それから1年ダリアに死神が訪れる事はなかった。
その日、ダリアはフォーク侯爵邸付近でクロードが乗った馬車を待ち続けていた。
やがて1台のフォーク侯爵家の紋章が描かれた立派な馬車がやってくる。
ダリアは急いで馬車の進路上に飛び出し、叫んだ。
「フォーク侯爵! ダリアです! お話があります!」
ダリアはこの行為が無礼で、あり得ない事だというのは重々承知している。
だが、こうでもしないとクロードに会えないのだ。
何度か会おうとしたが、全て何かしらの理由をつけて断られた。
社交の季節になっても、クロードと一度も会える事はなかった。
避けられていると気づいたダリアは、それから今日まで会いたい衝動を抑え続けた。
今日で約束した1年が経つ。
ダリアがずっと心待ちにしていた日。
もう、じっとしている訳にはいかなかった。
「フォーク侯爵!」
ダリアの何度目かの呼びかけで馬車は止まり、中からずっと会いたかったクロードが優雅に降りてくる。
1年ぶりにクロードに会えた事で、ダリアは嬉しさで胸がいっぱいになった。
ダリアの目には涙がにじむ。
クロードは地面に降り立つと、驚いた様子でダリアの目の前に立った。
「ダリア嬢、こんな所で貴女は一体何をしているんだ?」
「フォーク侯爵、お忘れですか? 今日で約束の1年です。私は見ての通り、生きております!」
「そうか、あれからもう1年たったのだな……だが、あれから私達は1度も会っていない」
「フォーク侯爵、約束は約束です。賭けは私の勝ちです」
瞳を潤ませながら勝ち誇った笑みを浮かべるダリアに、クロードは呆れた。
「会わなければ、忘れるだろうと思っていたが……考えが甘かった様だ。ダリア嬢の行動力には驚かされてばかりだよ」
そう言って笑いだすクロード。
「あぁ、悪い……まさか貴族の令嬢がこんな事をするとは思わなくて……」
ダリアは恥ずかしさで、カァーっと頬が熱くなった。
「申し訳ございません。しかし、こうでもしなければフォーク侯爵とは会うことができません」
「あぁ、君を避けていたからな。そうすれば、その内忘れるだろうと思っていた……私の考えはあの時と変わらない。今でも死神が怖い」
「でも賭けは私の勝ちです!」
ダリアはキッとクロードを睨みつけた。
そんなダリアとは対照的に、クロードはダリアに微笑みかける。
「そうだ。だからもう一度聞く。君は死神が怖くないのか?」
「はい、怖くなどありません。私は今でも生きてる人間の方が怖ろしいです」
「そうか……では、ダリア嬢も馬車に乗れ。このままブチエナ男爵に会いに行こう」
「フォーク侯爵……」
「まず婚約の話をしに行かないとな」
そう言って笑うクロード笑顔は、5年前にダリアが一目で恋に落ちた時の笑顔と同じだった。
ようやく5年ごしの片思いが実ったと感極まり、ダリアの目からは涙が溢れた。
「はい……ありがとうございます……フォーク侯爵」
正式に婚約が発表され、挙式は異例の早さの3ヶ月後に決まった。
1年何もなかったとはいえ、これからの3ヶ月、もしかしたらまた死神が現れるかもしれないという不安を、クロードには拭いさる事ができなかった。
だが、怯えるばかりで何もしないという選択肢は、クロードの中にはなかった。
それからクロードは、今まで集めた資料を漁り続けた。
何か手掛かりはないか。
どうすれば今度こそ守り切れるのか、クロードは思考を必死で巡らせた。
だが、いくら考えても分からない。
1枚の絵を見てクロードは考える。
ーーこの男が全ての鍵を握っているはず。お前は一体誰なんだ。どこにいる……。
少し休憩しようと机に絵を置いた時、ふとアマリリスが言っていた言葉を思い出す。
『綺麗な方……物語の王子様みたいだわ』
その懐かしい思い出にフッと笑みをこぼすクロード。
『本当にこんな男が実際にいるのかしら?』
思い出の中のアマリリスの言葉に、クロードの中で何かが引っ掛かった。
クロードはまた絵に視線を戻すと、先程まで全く感じなかった違和感を感じた。
ーー本当にこの男は実在するのか?
クロード頭の中に1人の人物が浮かび上がる。
雰囲気はまるで違うが、思い描く人物と目元がよく似ていた。
ーーいや、考えすぎだ……もしかしたら、親族の可能性も。
そう考えたが、それならブチエナ男爵やアマリリスが知らないはずがない。
ーー俺は何を疑っている……そんなバカな事があるはずがない。
クロードは大きくかぶりを振って、自分の考えを否定する。
しかし、一度抱いた疑念はクロードの意に反してどんどんと膨れ上がった。
ーーアマリリスの葬儀の日、あの庭園で私は何を思った?
どこかで見た事があるとクロードの感は告げていた。
だが、それを無視したのはクロード自身。
ーーなぜ私は最初から男と決めつけた……。
しかし、クロードのその考えでは辻褄が合う部分と合わない部分があった。
アマリリスが死んだ時、例の男が現れなくても死神が現れた事には説明がつくが、アマリリスの葬儀の日まで、彼女の顔は例の男と似ても似つかなかった事には説明がつかない。
頭を抱えてクロードは思考をこらしたが、さっぱり分からない。
ただ、全ての鍵はダリアが握っているはずだとクロードは思った。
クロードは馬を飛ばし、ブチエナ男爵邸へと急ぎ向かった。
自分の考えが間違いであればいいと思いながら。
応接室へと通されてから少しすると、慌てた様子でダリアがやって来た。
「クロード様、急にどうされたのですか?」
クロードが急に自分を訪ねて来てくれた事が嬉しくて、ダリアの声は弾んでいた。
「君に聞きたい事がある」
そう言ってクロードは1枚の紙をダリアの目の前に掲げる。
「この人物を知っているだろう?」
ダリアはその絵を見て、申し訳なさそうに答える。
「知りませんわ。見たこともございません」
「では、聞き方を変えよう。この絵の人物はダリア、君だろう?」
ダリアは笑いだす。
「まぁーなんて事を仰いますの? この方は男性ではありませんか」
「君ほどの身長があれば、服を替えれば男性に見えなくもない」
ダリアは笑うのをやめ、怒りを露わにした。
「酷いわクロード様! 女性に向かって男に見えるなどと……」
「では、違うと証明するためにこの絵と同じ格好をしてくれ」
「なんと言うことを仰いますの? 男性の格好をするなど……」
「そうか、分かった。では、婚約を解消しよう」
真顔でダリアを見下ろすクロード。
ダリアはゴクリと唾を飲み込み、慌てて聞いた。
「クロード様、冗談ですよね?」
「冗談ではない、本気だ! 私はダリアがこの死神事件に関わっていると疑っている。だから、この格好をして、身の潔白を証明してくれダリア!」
ダリアはクロードから視線を外し、下を向いた。
急に部屋の雰囲気が、重く淀んだものにガラリと変わる。
「何を聞いても、クロード様は私と結婚してくれるのですか?」
「もちろんだ! 知っている事があるなら全て話してくれ!」
「その答えは絶対に変わりませんか?」
「変わらない」
ダリアは顔をあげ、ニコリと笑った。
「そうですか。もし約束を違えたならば、貴方様にも死神が訪れる事を忘れないで下さいね」
「やはり……何か知っているのだな?」
「私の知り得る全ての事をお話しましょう。でもその前に我が家特製の紅茶をどうぞ。花の香りが微かにして美味しいのですよ」
ダリアはクロードのカップに紅茶を注ぐと、自分のカップにも紅茶を入れる。
ソファーに2人で向かい合わせに座ると、ダリアが先に紅茶を飲み、それを見たクロードはカップを手に取る。
「……いただこう」
その様子をニコニコと見守るダリア。
クロードがカップをソーサーに戻すと、ダリアは首を横に振った。
ーー全て飲み干せという事か。ダリアは時間稼ぎしているつもりなのか? ならば考える時間を与える訳にはいかない。
そう思い、クロードは一気に紅茶を全て飲み干した。
カップをテーブルに置くと、ダリアは立ち上がり、少し開けておいたドアをきっちりと閉め、鍵をかけた。
ダリアはまたソファーに座ると、話始めた。
「クロード様、私は死神が操れるのですよ」
「何?」
「しかし、神に愛された者は死にません。今まで死んでいったクロード様の婚約者達は神に愛されていなかったのです」
「ダリア! 一体何の話をしている!」
クロードは立ち上がり、ダリアに近付くと肩を掴み、大きく揺さぶった。
ダリアはそれでもただ淡々と答える。
「私の愛するクロード様が幸せになれるようにと……私は彼女達を試したのです」
「なに……を……」
「結局皆死んでしまった。彼女達はクロード様と結婚する資格がなかったのです。ただそれだけの事」
クロードは、フフフと笑いながらまるで世間話を話すかのように言うダリアを不気味に思った。
「では、あの絵の男は……」
「私ですよ、クロード様。昔好きだった絵本の王子様を参考にしたのです」
「でもダリアの当時の顔がまるで違う。だから辻褄が合わないと思っていた。なぜなんだ?」
「私には切り札が沢山あるのですよ、クロード様。例えばこの顔とか」
ダリアはそう言って部屋を見渡し、クロードの手を払い、置いてある花瓶に近付くと花瓶の水を頭から被った。
ポタポタとダリアの髪から水滴が落ちる中、ダリアはハンカチを取り出したかと思うと、ゴシゴシと顔をこすりだした。
ダリアが再び顔をあげた時、クロードは驚いた。
「そんな馬鹿な……」
クロードが始めてダリアを見た時のままの、貧相なダリアの顔がそこにあった。
作り物の鼻をペリッと剥がしながら、ダリアは答える。
「私にはこの化粧の技術がございます。これはお母様の秘密の道具とレシピがあってこそ出来た物。これを使えば、顔を変える事など造作もない事」
「だが『社交界の花』に化粧の技術など……」
その言葉を聞いて、ダリアは鼻で笑った。
「お母様も私と同じ顔でひどく苦労したらしいわ。顔で人を判断する方が多い世の中ですから……だからこそ、化粧の技術を磨いた。クロード様知っていて? 薄い顔はどんな顔にでもやり方次第で変化できると」
「だが、家と家の繋がりに容姿は関係ない」
「そうかもしれませんが、扱いが違います。それに、容姿以外全て同じ条件の令嬢が2人いると仮定した場合、クロード様はわざわざ醜い容姿の令嬢を選びますか?」
クロードは返す言葉が見つからなかった。
下を向くクロードに、ダリアは悲しそうに微笑む。
「私はこの顔のせいで、誰からも愛されませんでした。実の父親にさえ……。そんな辛い日々に毎日毎日死ぬ事を考えるのです」
そこで言葉を区切ったダリアは、下を向くクロードの視界に無理矢理入った。
そして熱を帯びた視線をクロードに向ける。
「クロード様は、そんな私の希望の光。モノクロだった世界を色鮮やかに変えて下さいました。しかし貴方には婚約者がいた。婚約者の方が神に愛されているならば、私はクロード様を諦めるつもりでした。しかし、誰も愛されていない……ならば私こそがクロード様の隣に相応しい。そう思いませんか?」
「ダリア……君の頭はおかしい」
首を横に振ってクロードはダリアから離れる為に後に下がった。
「何がおかしいのですか? 私の世界はクロード様さえいればそれでいいのです。願うならば、あなたの世界も私だけになればいい……」
離れるクロードにダリアは詰め寄っていく。
クロードの背中が壁に当たった時、クロードはダリアに恐怖を感じた。
「君は狂っている! 結婚など到底できない!」
クロードはそう叫ぶと、ドンッと力一杯ダリアの体を押した。
床に勢いよく倒れたダリアは上半身を起こすと、気でも狂ったかのように笑いだした。
そして笑うのをやめたかと思えば、狂気を含んだ瞳でクロードを見つめる。
「クロード様、お忘れですか? 約束を違えたならば死神が訪れると」
「ダリアと結婚するぐらいなら、死神に殺された方がマシだ!」
「そうですか……あなたも私を愛しては下さらないのですね……クロード様、貴方に忍び寄る死神が見えませんか?」
ダリアがそう言うと、クロードはなぜか喉がひどく渇く気がした。
「何を……言っている……」
クロードはガクンと膝を床についた。
手足が痙攣しだし、体に力が入らなくなった。
それを見て笑うダリア。
「丁度効いてきたようですね」
「どういう……事だ……」
「先程の紅茶の花の香り、どこかで嗅いだ事はございませんか?」
そう言われて、クロードは思考を巡らす。
そしてハッと気付きダリアの顔を見る。
ダリアは正解とでも言うように、体の前でパンッと手を合わせる。
「そうです、あのダチュラです。綺麗な見た目に反して、毒性を持っているのですよ。それを口にすれば……今のクロード様のような症状が現れます」
「なん……だと……」
「あぁ、安心して下さい。あの量では死ぬことはありません。ただ……抵抗はできませんでしょう?」
ダリアはスカートをたくし上げると、隠し持っていたナイフを手に取る。
ナイフは光に反射してギラリと光る。
「やめ……」
ダリアはクロードに近づき、耳元でこう言った。
「最後に死神の正体を教えてあげましょう。それは……全てダチュラがみせた幻。死神など最初からいないのですよ。だから言ったでしょう? 『生きている人間の方が怖ろしい』と」
「俺には……お前が死神に見える」
クロードは冷や汗を大量に流しながらニヤリと笑った。
ダリアは一瞬驚いた後、不適に笑う。
「ならば、貴方は死神に殺されて願いが叶いますわね。さようなら、クロード」
そう言ってダリアはクロードの喉元をナイフで突き刺した。
息ができなくて呻くクロードの背中を、続けて何度も刺す。
「貴方が悪いのですよ! 私の忠告を無視して約束を違えるから!」
ハァハァと荒い息を整えるために一旦手を休める。
その間にクロードはダリアの方を向くと、口をパクパクと動かした。
それが何かを訴えているようで、ダリアは目をこらした。
『殺してくれて、ありがとう』
ダリアは涙した。
自分の期待していた言葉ではなかったから。
「貴方は一度も私に『愛してる』とは言ってくれないのですね……」
そうしてクロードは最後の言葉をダリアに伝えると、そのまま動かなくなった。
「もういい……もう全てがどうでもいい! あははハハハハ……」
笑いながらもダリアの頬には次々と涙が伝う。
ダリアは立ち上がると窓から抜け出し、秘密の花園へと向かった。
今は葉っぱだけになったダチュラを見下ろし、ダリアは独り言をこぼす。
「偽りの魅力……あなたはこんなにも美しいのにね……」
ダリアはそっと葉に触れる。
「やはり私にはあなただけ……」
ダリアはこぼれた種から成長したであろう小さな芽を、土ごとハンカチにくるんで隅に置き、いつも道具を置いている小屋に向かった。
そこで、ダチュラをいつでも焼き払えるようにと、用意しておいた油と火打ち石を持って花園に戻る。
油を残り全てのダチュラにまくと、ダリアは火をつけた。
一度ついた火はどんどんと勢いを増していく。
ダリアはハンカチに包んだダチュラを手に持つと、踵を返してまた窓から応接室に戻った。
そして、ダチュラを包んだハンカチを机の上に置いて、床に落ちているナイフを拾い上げ、イザベラの部屋へ向かう。
庭の火事に気付いた使用人達は、皆そっちへ行ったらしく廊下には誰もいなかった。
ダリアが部屋に入るとイザベラはスヤスヤと眠っていた。
ベッドで眠ったままのイザベラに馬乗りになるダリア。
「誰だ!」
そうイザベラが言い終わると同時に、ダリアはイザベラの喉をナイフでかき切った。
イザベラの血がダリアの顔に飛び散る。
喉を押さえてもがき苦しむイザベラの様子を、ダリアは冷めた目で見下ろした。
「貴女もいらない」
ダリアはそう吐き捨て、今度はイザベラの胸をナイフを突き刺した。
「貴女の娘と同じナイフで死ねるなんて、幸せでしょう?」
ダリアはナイフに憎悪を込め、グリグリとイザベラの胸をえぐる。
ナイフを動かす度に苦しむイザベラの様を見ているのは、ダリアにとって実に愉快な事だった。
ずっとダリアはこうしたかった。
だが、当時は力も知恵も無かったダリアは何もできなかった。
今、クロードというタガが外れたダリアは誰にも止められない。
やがてイザベラが動かなくなり、ダリアはナイフを胸から抜き取る。
ダリアはナイフについた脂肪と血をシーツで拭ってイザベラの上から降りた。
顔や手についた血もシーツで拭い、ダリアはイザベラの部屋を後にした。
ダリアは次にブチエナ男爵の執務室に向かった。
執務室の扉を開けるとそこにブチエナ男爵は居た。
ブチエナ男爵は、部屋に突然血まみれで現れたダリアに慌てて駆け寄った。
「ダリア! 何があった! それにその顔……うっ!」
ブチエナ男爵の腹にナイフを突き刺したダリア。
「ダリア……何を……」
腹を押さえてうずくまるブチエナ男爵にダリアは言った。
「貴方を殺しにきたのですよ、お父様」
そう言うとダリアはナイフを抜いて、今度は顔にナイフを突き刺した。
「ウゴオォォォ!!」
ダリアは素早くナイフを抜き去ると、ブチエナ男爵の喉をかき切った。
「うるさいのですよ、お父様」
地面にうずくまるブチエナ男爵にダリアは淡々と言った。
声を出せないブチエナ男爵は「助けてくれ」と目でダリアに訴えた。
「なんですか、その目は? あぁ、お父様はいつも言っていましたね。『そんな目で見るな、イライラする』と……」
ニッコリと笑いながらダリアは昔を思い出すように言う。
「確かにその通りですわね、お父様。私、そんな目で見られるとイライラしますわ」
ダリアはうずくまるブチエナ男爵の上にまたがり、何度も何度もブチエナ男爵の体を突き刺す。
やがてブチエナ男爵は動かなくなり、ダリアはナイフから手を離した。
息を切らしたダリアはゆっくりと立ち上がり、血で汚れた手をスカートの汚れていない部分で拭き取る。
そしてブチエナ男爵の執務机を漁る。
引き出しの中からエリーゼの手記を取り出し、それを手に持ちダリアは自分の部屋へと向かった。
部屋に戻ったダリアは服を着替えて、ある程度血を拭き取ると、上からローブを羽織り少しの荷物を持って応接室に行き、最後にダチュラの苗を持って屋敷を後にした。
それからしばらくして、庭園の火を消し終え戻って来た使用人が3人の死体を発見した。
慌てた使用人達に家令は冷静に指示をだす。
衛兵に屋敷の警備を固め、騎士団に連絡するように言いつけ、使用人達にダリアを探すように命じた。
しかしダリアは見つからず、代わりにダリアの部屋で血がこびりついたワンピースを発見した。
最初はダリアが怪我をしていて、悪漢に連れ攫われたのだと思った。
しかし、騎士団が到着してそのワンピースを見るとこう言った。
「これは返り血の跡だ」と。
直ぐにダリアは犯罪者として追ってをかけられた。
絵姿も公表し、必死の捜索が続けられたが、ダリアは一向に見つかる気配はなかった。
情報も何もなく、あの日を境に姿を消したダリアを人々はこう噂した。
「ダリアも、もう死神に殺されたんじゃないかしら」
「あぁ、違いない。ブチエナ男爵も死神と関わったばっかりに、家族皆殺しにされてしまって……」
「新興貴族は新興貴族同士、仲良くしていれば良かったのですわ。それを欲をだすからこうなるのです」
「まぁ、死神は愛するフォーク侯爵まで殺して、あの世に連れて行ったんだ。きっと、もう現れないだろう」
「そうね……もう現れなければいいわね」
そうして、ダリアが姿を消してから5年の月日が過ぎた。
フォーク侯爵の死により、死神は消えたと思われていた王都に、新たな事件が起きる。
ある貴族の令嬢が奇声をあげて、自室の部屋の窓から飛び降りたというのだ。
その令嬢は、命は助かったもののまだ意識が戻らない。
死神に殺されたフォーク侯爵の婚約者達の死に際と行動が似ていたため、街中で噂された。
「また死神がでたそうだ」
「次は一体誰が愛されたんだ?」
「まだ断定はできないが、その令嬢は第二王子のフィリップ殿下の婚約者候補だったらしい」
「という事は、次はフィリップ殿下が死神に愛されたのか……」
そんな噂で持ちきりの王都から少し外れた森の中に、一件の小屋があった。
その小屋の周りにだけ、この国では見たこともない珍しい白い花が咲き誇っていた。
そこに1人の男が訪れ、小屋の扉をノックする。
「開いてるよ」
そう声が中から聞こえる。
男は扉を開け、中に入ると黒いローブを頭から被った老婆が座っていた。
「死神は呼べたかね?」
笑いながら老婆は男に問いかける。
「死神は確かに来たみたいだ。まだ死んではいないが、あれでは婚約者候補から外されるだろう。ほら、約束の残りの報酬だ」
男は老婆の前の机に袋を投げる。
老婆は袋を一瞥して、更に笑いだす。
「相変わらず、気味悪い婆さんだな。まぁ、騒ぎが治まったらまた頼むぜ」
ニヤッと笑って男は小屋を後にする。
老婆は男が出て行った後、フーッと溜め息を吐くとローブのフードを下ろした。
そこからプラチナブロンドの綺麗な長い髪が現れる。
「さて、次は誰にしようか……」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ダリア視点で補足したい部分も多々あったのですが、果たして需要はあるのか? と思い、この4話でいったん完結にしました。