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エンバーミング・スクール

17 エンバーミング・スクール 18 あるモノ 19 人体標本 20 正体


 17 エンバーミング・スクール




 本日、 塚下つかもと 衣久子いくこ の エンバーミング 専門学校せんもんがっこう『 フューチャー エンバーミング カレッジ 』を南青山に開設した。元々は 弟 正義まさよし が準備をしてきたモノで、 衣久子いくこ は乗り気では無かったのであるが――――遺体が盗まれ、親族を二人までも生きながら火葬してしまった失態しったいを取り返さねばならない……


 今日もマスコミが来て「会見をひらけ!」と言ってきたけど、会見をひらいてワイドショーの餌食えじきに為るのは御免被ごめんこうむりたい。

あく迄も被害者の立場を取らなければ…… 今なら 父 が、 母 に罵倒ばとうされるように仕向しむけた、子供たちを味方に付ける為に被害者ひがいしゃよそおったのが分かるのだ。


 これまで副社長だった 常彦つねひこ にこういう場は任せてきたけれど。これからは社長であるわたくし陣頭指揮じんとうしきをしていきたい。



衣久子いくこ

 「――これからは、お世話になりましたこの業界への恩返しが出来たらとかんがえまして。後進の指導にも力を入れ……」

 「…… 葬儀ビジネス界 の即戦力そくせんりょくと成れる人材育成じんざいいくせいを目指し、知識と技術の習得しゅうとく主目的しゅもくてきとした実践型じっせんがた教育 をやって行きたいと、思っております。」



 この挨拶は、 葬儀業界 の御歴々《おれきれき》に対する 衣久子いくこ の決意をあらわしたモノだった。

 これまでも〝 特異な技術 〟を独占しているなど御小言おこごとを頂戴していたのだ、それゆえ。今回の専門学校開設の意義いぎは業界全体にとって大きな物となるだろう。


 それに、 衣久子いくこ にはうれしいコトがあったのだ。この学校に 里美さとみ が入学する、本当によろこばしい事であった。


       「これで、自分の技術のすべてを 里美さとみつたえられる。」


 すでに、 里美さとみ実地じっちで エンバーミング の作業を手伝い、積極的に技術を身に着けたいと頑張っているのだ。



 入学希望者も定員を上回る勢いで入って来る〝 入学金 〟も馬鹿には為らない。

 それを見越して資金をぎ込み開発した機器がある。


       その名は「 全自動エンバーミング機『 キョウシー 』 」



  衣久子いくこ の技術は人為的に『 死蝋しろう 現象 』を演出するモノで。「 ホルマリン、アルコール、グリセリン、サリチル酸 ……」といった薬剤を駆使くしし、死体を〝 物 〟へと変化させる。

 火葬せず長期保存ちょうきほぞんさせた場合、古くなると色が変わる等の変化がしょうずるため、定期的なメンテナンスが必要である。

 関節も 硬直こうちょく しており、曲がるようにするためには、やはり エンバーミング 技術者だった 亡き 常彦つねひこ工夫くふうが必要だったのだ。


      常彦つねひこ も又『 エンバーマー 』としては、一流だったのである。






 18 あるモノ




 秋の 専門学校 入学式も終え、 塚下つかもと 衣久子いくこ は一時の安息を得ようと考えていた。


        しかし、彼女 には大きな心配事しんぱいごとが有ったのです。


       ある〝 モノ 〟が見付から無い、本当に困ってしまった……


        〝 アレ 〟が無いと 柩 で休息しても意味が無い!



 何処へ行ってしまったのだろう。思えばあの時、 銀死面ぎんしめん に〝 コレ 〟として発見されてしまった……

 他に存在を知る者は、夫の 常彦つねひこ が知って居たであろうか――


 やはり、いまつかまらぬ 銀死面ぎんしめん が隠したのか? 警察は今も葬儀場の規制を続けているけど……


   もしかして、わたしの目が届かないスキに警察が押収おうしゅうしてしまった!?



 この前の葬儀の『 罠 』も、警察と 正義まさよし それと 奥田おくだ という新入社員が仕切っていて――――名目上だけしか関わらなかったのだ。

 いや、まったく知らないという訳じゃ無かった、何か有るのは分かってたけど……


       兎に角〝 アレ 〟が無いのは本当に困ってしまうのです。




  衣久子いくこみずからの作業室でじっと 棺桶 を見つめたまま、物想いにふけっていると、

 その時でした――――とびらが…… 鍵をかけていたにも関わらずひらいたのです。


             そこに立って居たのは……


 見るからに美青年という いた白いシャツの綺麗な男が、しどけなく壁にもたれ掛かりふるえながらうるんだ目で、 衣久子いくこ に視線を送っているのです――


       「あっ!……」 塚下つかもと 衣久子いくこ はこの男を知っています。


            母 の〝 愛人 〟だった 無石なしいし かおる です……



衣久子いくこ

 「貴方、こんな所でなにをなさっているの?」


かおる

 「――――」


衣久子いくこ

 「……どうなさったの? 誰かになにかされたんですね!」



 思わず駆け寄ろうとして…… かおる の左手が見えると、 衣久子いくこ の表情に緊張が走った。 おの をぶら下げているのだ……

強張こわばった 衣久子いくこ の身体が、少しずつ後ずさりして、しかし隠れる場所もない、出来あがった 全自動エンバーミング機 が在るばかりの作業室である。

金属製のロッカーの中か? 物を出しているひまが無い――――ふと 衣久子いくこ の目に入ったモノは〝 棺桶 〟だ、コレなら頑丈がんじょうですぐ中へ入れる!


    衣久子いくこ は。 かおる を刺激しないよう、そーっと 棺桶 の方へ移動した。

         かおる は見るとも無しに、 おのもてあそ んでいる――


  衣久子いくこ が 棺桶 のフタに手を掛けた瞬間、この世のモノとはとても思えぬ恐ろしい叫び声を上げて 無石なしいし かおる衣久子いくこ に向かって 斧 を振り上げた、間一髪! 衣久子いくこ がかわした 斧 が、 棺桶 に一撃を加える。

破片はへん飛び散るそのすき衣久子いくこ は開いたままの とびら へ走った、後ろから 斧 を振り上げて 無石なしいし かおる が右手で 衣久子いくこ のブラウスをつかみ、そとへ行かせまいと引っ張る……

  波越なみこし 警部 が騒ぎを聞き付け入って来た! 警察はまだ 塚下つかもとエンバーしゃ 内に 銀死面ぎんしめん が居るのではないか捜索中だったのだ。


  銀死面ぎんしめん 捕獲ほかくさいし。「 あの時、発砲はっぽうするべきだったのか? 発砲はっぽうけたのは正しい判断だったのだろうか?…… 」皆で自問じもんする日々だった。

波越なみこし 警部 は警視庁でも五本の指に入る射撃の名手である。


                「タン!」


 抜く手も見せず 銃弾 が 無石なしいし かおる の 左腕 に命中。 ひじ蝶番ちょうつがいが壊れ あらぬ方へ曲がって……「ゴトッ」 斧 を持ったまま遂に腕が落ちた。


  ひじ から無くなった左腕をグルグル振り回しながら 無石なしいし かおる波越なみこし 目掛けて突っ込んでキタ――


           「止まれ、抵抗すると発砲する!」


  警部 はそう警告けいこくしたがタックルに吹き飛ばされ、もんどり打って倒れた。

  奥田おくだ 睦秋むつあき が駆け付け、廊下を逃げる 無石なしいし かおる と鉢合わせして組み合う! しかし、凄い力に蹴っても殴ってもビクともしない。

 この世のモノとは思えない恐ろしい叫び声を再び発すると 奥田おくだ を突き飛ばし、よほど執着しゅうちゃくがあるのだろう、部屋から顔を出した 衣久子いくこ へ突進した!


            「タン!」「タン! タン!」


  波越なみこし 警部 が3回発砲。身体に命中したはずが意にも介さず素振そぶりも見せず、しかし多勢にかなわぬとそのまま凄い速さで廊下の向こうへ走って行ってしまう、

波越なみこし奥田おくだ が後を追い、階段をのぼりきった時には、


     「なんだあれは!」と、警察官2名がやはり追っている最中さいちゅうだ。


 玄関へと出た 無石なしいし かおる は、 波越なみこし奥田おくだ 、 警察官二人の目の前で〝 ふわっ 〟と浮かぶと、クルクル縦に回転しながらスーッと屋根まで上がって仕舞った――



 あとは、見失い…… 警察で屋根の上を調べましたが――――吊り上げるために機器を設置したような跡が見付かっただけ、


                         ここ迄、追っていながら……





 19 人体標本




  衣久子いくこ には、やらなければならないコトが有る…… かおる に壊されてしまった 柩 だけど、死者として眠りに入るとやはり落ち着く。


 そこへ、 他仲たなか 鍛夫きたお煤来すすき 頼太らいた が、作業室へ入って来た。 衣久子いくこ が呼んだのである。実は初めてではない、 他仲たなか煤来すすき は元々、 銀死面ぎんしめん の手下である。

しかし、 衣久子いくこ の 肉体 に懐柔かいじゅうされ――――彼女の手下ともなっていたのだ。


  里美さとみ を狙う 常彦つねひこ浅次あさつぐほうむったのも 衣久子いくこ の支持であった…… 今又、 衣久子いくこ は決意する時なのである――


     ―― 二人は、死者の 衣久子いくこ との色香に迷い官能にふけった――




 …… 他仲たなか 鍛夫きたお が、 衣久子いくこ の口紅に 一服盛いっぷくもられて目覚めた時は、作業台に固定された 煤来すすき 頼太らいた より少しだけ後だった。 全自動エンバーミング機『 キョウシー 』 に装着された 他仲たなか はもう見動きが取れない状態なのだ。



衣久子いくこ

 「質問しますよいですか? あなた達、この前の男は何処へヤリました。答えなさい。」



 キツイ調子の 衣久子いくこ は、何時もにも増して気高く美しさが燃え上がるようである。



衣久子いくこ

 「さあ、質問に答えなさい!」


他仲たなか

 「なんの権利があってコンなコトしてんだお前!」


衣久子いくこ

 「〝 アレ 〟は、わたしのモノです返しなさい。」


他仲たなか

 「フザケてんなよコラ!」


衣久子いくこ

 「質問には答えないんですね、そうですか。」



  衣久子いくこ は『 キョウシー 』のスイッチを入れた。 エンバーミング用 液体溶剤えきたいようざいをポンプで血管へ送り込んでいく、始め 他仲たなか衣久子いくこにらみ、悪態あくたいを思いつく限り付くだけの気力が有った。

しかし更に 溶剤ようざい が送り込まれていくと、モコモコと青く静脈が盛り上がり 痙攣けいれん して、もう表情は崩壊し声さえ出せぬ、 倒懸とうけん辛酸しんさん を存分にくしたのだ。

 今度は別の溶液が、身体の外から洗濯機のようにグルグル回転かいてんして、 他仲たなか の顔が隠れるまでに10秒と掛からなかった。



衣久子いくこ

 「次は貴方ですね。」


煤来すすき

 「めてくれ、オレは知らないんだ!……」


衣久子いくこ

 「嘘を着かないで下さいね、この前の〝 男 〟は何処です、答えなさい!」


煤来すすき

 「け、警察だよ警察!」


衣久子いくこ

 「嘘はめろと言ったでしょ! 何処に有りますか、 銀死面ぎんしめん の所ですか!」


煤来すすき

 「あっ、 明智あけち だよ! あー 明智あけち 小五郎こごろう が持ってるんだよ――」


衣久子いくこ

 「 明智あけち さんは、貴方たちで殺したんじゃないんですか!?」


煤来すすき

 「 明智あけち だよ! 明智あけち が持ってるんだ〜」


衣久子いくこ

 「――そうですか。貴方は下処理したしょりに時間を掛けましょうね。その内にしゃべりたく為るでしょう。」



  他仲たなか 鍛夫きたお の エンバーミング が完了するまでの間。 煤来すすき 頼太らいた は、苦痛で仕切りに頭を振っていましたが、遂には白目をき、この世の不浄ふじょうを呑みしてしまっても、 衣久子いくこ の意にむ答えは出てこなかったのです。




         海外向けの『 人体標本じんたいひょうほん 』が二体完成した。


  衣久子いくこ が以前よりたのまれていた〝 品物 〟だったのだ、仕事が出来て本当に良かった。

     貨物船ように梱包こんぽうすると、あとはトラックにまかせてしまえば良い。




 ふねに積み込まれる寸前、不審なコンテナをおさえたのは警察だった。中から発見されたモノとは?

 最初はなんなのか分からなかったのです。模型の 人体標本じんたいひょうほん だと思われましたが、本物の人間だったとは……

 もっと理解できなかったのは、150個の 輪切り になった 人体標本じんたいひょうほん です。本当に人間だったなんて!? とても思えない代物でした。


    コレが、変わり果てた 他仲たなか 鍛夫きたお と、 煤来すすき 頼太らいた の姿だったのです――





 20 正体




  もう夏も終わろうかというのにどんよりとした曇り空から、この暑さの主役は、


       先ほどから責任を感じてか顔も出せずにいるのです。


     厳しい季節はそろそろ終わります秋が優しく有りますように。



  エンバーミング されたと見られる、 無石なしいし かおる衣久子いくこ を襲った事件と。

 『 人体標本じんたいひょうほん 』がコンテナから見付かった事で、警察は 塚下つかもとエンバーしゃ を調べました。

 姉から エンバーミング を教わっていた 里美さとみ も、当然事情も聞かれたし調べられもしたのです。



            「かくれる所はないかな――」


            可津かつ あきらひど い怪我をしている……


 彼は、 塚下つかもと 里美さとみたよったのだ、彼女が用意したのは、南青山に在る 開校されたばかりの 専門学校 でした、その一部屋ひとへやに 彼 を かくま ったのです。


  可津かつ はどうしても病院へは行けないと言う…… 里美さとみ は心配で―――― 専門学校 に有るアルコールなどを持ち出して治療はしてみました、でも「死体の壊れた所の修復は教わったけど、生きた人間の修復は…… わたしの技術じゃ――――もし、 がちゃんと治らなかったら……」


     可津かつ は、治りそうに無い 左眼 を抑えていて、熱も有るようだ……


        「大丈夫だよ、 里美さとみ の治療でいんだよ、」


              と あきら は言うけれど、




 ――突然その部屋に! 波越なみこし 警部 を先頭として、 奥田おくだ 睦秋むつあき玉村たまむら 文代ふみよ 、そして 塚下つかもと 衣久子いくこ塚下つかもと 正義まさよし姉弟きょうだいが、 警察官にともなわれ入ってきた。

 素早く察知さっちした 可津かつ は、かねて話をしていた通り、 里美さとみ のその身を床下へとかくすのです。



 「皆さんお久しぶりです。怪我をしたモノですから、休ませて頂いてました。」


         可津かつ は身を起こすと、立ち上がってそう挨拶した。



奥田

 「 可津かつ 君、久しぶりだね、怪我の具合はどうだい。」


可津

 「どちら様でしたか、あゝ新入社員の 奥田おくだ さんですね。」


奥田

 「君の方が会社は先輩だったね。 可津かつ 君、その怪我はどうしたのかな? 病院へ行かないと治るものも治らないよ。」


可津

 「病院へ行く程の怪我じゃないんですよ……」


衣久子いくこ

 「奥田さん、本日は御見舞いに呼ばれたのでしょうか?」


奥田

 「いいえ、 衣久子いくこ さん、本日の要件は、事件のあらましが大体だいたい 分かってきたので、それを御説明しようと皆さんに集まって頂いたんです。 可津かつ 君、キミもね。」

 「 文代ふみよ さんふんする遺体の葬儀に、 銀死面ぎんしめん がのこのこヤッて来た時。 文代ふみよ さんの 左手親指 にやつのDNAが付着ふちゃくしたんですが…… このDNAに合致がっちする人物が、ここに居ます!」


可津

 「お前いったい誰なんだ! なんの権限けんげんがあって!」


奥田

 「 ―――僕は、僕はね……」


衣久子いくこ

 「そうですよ、貴方はいったい何者なんです――」


可津

 「そうだよお前、誰なんだ!!」


奥田

 「 ――――罪悪ざいあくの敵、そして…… 真実の味方! お見せしよう。」



  奥田おくだ はまず、白髪混しらがまじりのカツラを取った。次に、顔に貼り付いたゴム状のモノを左から徐々にいでいく――――すると…… そこに現れた 顔 とはッ!?


      そう〝 探偵の中の名探偵 〟 明智あけち 小五郎こごろう その人なのです!!



衣久子いくこ

 「あっ、貴方は……」


明智

 「皆さん、この顔でお会いするのはしばらくぶりです。 衣久子いくこ さん、御心配ありがとうございます。」

 「やあ、 可津かつ 君、キミもソロソロ正体をかしたらどうかな?」


可津

 「!ッ・・・」


波越なみこし

 「 明智あけち 君、ずは かおる さんから――」

 「 塚下家つかもとけ には14年前、失踪しっそうした青年がいました。名前を 無石なしいし かおる さんといい、美術学校を中退して 塚下家つかもとけ居候いそうろうしていたんです。そうですね 塚下つかもと 正義まさよし さん。」

 「当時、警察に 行方不明者届ゆくえふめいしゃとどけ を出そうとしたのは、貴方ですね 正義まさよし さん。当時18歳の貴方が警察に 捜索願そうさくねがい を出そうとされた。」


正義まさよし

 「はい、そうです。 無石なしいし かおる ――――さんの 捜索願い を出そうとしたのは、わたくしです。父は体調をかなり悪くしておりましたし、母は――――正常な状態では有りませんでしたので…… 結局、大人の失踪しっそうなので、そのままにっています。」


波越なみこし

 「その時、 衣久子いくこ さんはどうしていたんですか?」


正義まさよし

 「姉は、留学していました。」


衣久子いくこ

 「わたくしはアメリカに留学中でした。」


波越なみこし

 「そうですか。」

 「警察には、 無石なしいし かおる さんのご両親から 行方不明者届ゆくえふめいしゃとどけ が出されていました。今回、 かおる さんのご両親にご協力をあおぎ、大切に保管されていた かおる さんの持ち物から、DNA が分かるモノをお借りしてDNA鑑定を行った次第です――」

 「――つまりですね、 衣久子いくこ さんを襲った遺体の――――落ちた左腕は、失踪しっそうした 無石なしいし かおる さん自身の 腕 だと警察は断定しました。」


正義まさよし

 「えぇ!まさか……」



  波越なみこし 警部 が 明智あけち の方をチラと見やると、 明智あけち 小五郎こごろう波越なみこし 警部 の後を引き取って続けた――



明智

 「ただし、 無石なしいし かおる 氏はいったいこれまで何処どこに居たんでしょう? こういう疑問を、皆さんもお持ちになると思うんです――」

 「ココから確信かくしんに入ります、良くいていてください。」



      ――そう言うと 明智あけち は、 衣久子いくこ の所で視線を止めた――


  明智あけち衣久子いくこ を見詰める眼力がんりきの強さに狼狽ろうばいし、 塚下つかもと 正義まさよし が「そんなはずは無い」と小さくうめく……


        それよりも、興奮状態こうふんじょうたいおちいったのは 衣久子いくこ だ、


  明智あけち 小五郎こごろう の 瞳の奥 の、脳髄のうずいに走るシナプスのきらめきが、 衣久子いくこ脳神経のうしんけいまで伝わって来て感応かんのうし―――― 明智あけち がこの 警部 とどんな話しをしているのか、それを意識下に置くのはとても耐え難い事に思えた。



 ――いや、あの時死ぬ間際まぎわ煤来すすき と呼ばれていたアノ男が言った「 明智あけち が持っている、」との一言!


 ―― かおる の事をココまで語るからにはやはり…… 明智あけち悪知恵わるじえ餌食えじきに〝 彼 〟は為ってしまっているに違いあるまい――――この 明智あけち め! わたしの心をもてあそんだ上、あいしてやまぬ 無石なしいし かおる まで、捜査と称してどんな目に合わされているのかと…… 考えただけではらわたが煮えくりかえる!!


         「 明智あけち ーー 小五郎こごろう ーーーー!!!!!!」


 ― 登場人物 ―


塚下つかもと 衣久子いくこ塚下つかもとエンバーしゃ 社長。塚下家つかもとけ4姉弟の一番目。『神の手を持つ』エンバーミング技術を持つ。

塚下つかもと 常彦つねひこ : 同社 副社長。 衣久子いくこ の夫。入り婿むこ

塚下つかもと 正義まさよし : 同社 専務。塚下家つかもとけ4姉弟の二番目。

塚下つかもと 浅次あさつぐ : 同社 セレモニーマネージャ。塚下家つかもとけ4姉弟の三番目。

塚下つかもと 里美さとみ :学生。塚下家つかもとけ4姉弟の四番目。

塚下つかもと 里子さとこ塚下家つかもとけ4姉弟の母。他界。

塚下つかもと 善次郎ぜんじろう塚下家つかもとけ4姉弟の父。入り婿むこ。他界。


無石なしいし かおる :美青年。美術を志す学生。塚下家つかもとけ居候いそうろうしていた。

他仲たなか 鍛夫きたお塚下つかもとエンバーしゃ 社員。

煤来すすき 頼太らいた : 同社 社員。

可津かつ あきら : 同社 警備員。


◆ 赤ドレスの令嬢 :消失した遺体の一つ。 ブッチャー婦人 。

◆ 黒ドレスの少女 :消失した遺体の一つ。 シザーズ婦人 。

◆ 白ドレスの夫人 :消失した遺体の一つ。 チェンソー婦人 。


波越なみこし 警部 :警視庁敏腕びんわん刑事。

小林こばやし 少年 :『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』少年探偵。

◆ 名犬シャーロック :黒い大型の優秀な元警察犬。

玉村たまむら 文代ふみよ :『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』女性探偵。

明智あけち 小五郎こごろう :〝 探偵の中の名探偵 〟『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』を主宰。

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