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探偵事務所

4 探偵事務所_05 小林こばやし 君! 6 追跡者 7 潜入 8 森の中 9 毘陀羅びだら呪殺じゅさつ 10 明智あけちの柩


 04 探偵事務所




 3日前、千代田区平河町に在る『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』に。一組ひとくみの男女が訪ねてきました。夫婦ではなく姉弟です。

最大手葬儀業者である『 塚下つかもとエンバーしゃ 』の女社長の 塚下つかもと 喜久子きくこ と、その弟で専務の 塚下つかもと 正義まさよし でした。


  塚下つかもと 衣久子いくこ は、初対面の人にう人見知りの少女の如くかしこまり、恥ずかしそうに上目遣うわめずかいで 明智あけち 小五郎こごろううかがっています。

  塚下つかもと 正義まさよし の方は、上場企業の重役らしく趣味の良い背広に、紳士らしい謙虚な口調で話しだしました。



正義まさよし

 「明智さん、どうかお願いします。警察には言えません!マスコミに漏れると困るんです……」



 正義まさよし 氏が、悲痛な面持ちで吐露した。



明智

 「でも、僕としては警察の協力を仰ぐことをお勧めします。知っている警察関係者も居ますから、警察を信じるべきですよ。」


正義まさよし

 「警察を信用していない訳じゃないんです――――こんなコトが外部に漏れると……」


明智

 「その〝 こんなコト 〟とは一体何いったいなんですか?お話し頂ければ色々御力になれるかも知れません。お話しをお聞かせ頂いた上で、僕がお引き受け出来るか警察に任せるか、ご判断なさったらどうでしょう。」


正義まさよし

 「――ではお話しします…… 塚下つかもとエンバーしゃ ではどうしても御遺体ごいたいを扱う仕事に成ります。」

 「その御遺体ごいたいのエンバーミングの質が我が社の売りなのですが――――エンバーミングの終わったあと御遺体ごいたいが、その――――消えてしまったんです。」

 「それなりに大きな〝 モノ 〟なので――――行方が分からなくなるようなコトはそうは無いのですが……」

 「2体も無くなってしまったんです!……」


明智

 「2体ですか――」

 「それで、どのような御遺体ごいたいですか、どんな状態で無くなってしまったんですか?詳しくお願いします。」


正義まさよし

 「葬儀が終わったあとです。最初は葬儀が終わった納棺後、二回目は葬儀が終わった直後でした……」

 「御遺体ごいたいは2体とも若い女性です……」


明智

 「身代金の要求は来ていませんか?ご遺族はどう言っていますか。」


正義まさよし

 「ご遺族に連絡は誰からも来ていないとのことでした――――どうしたら良いのでしょう……」


明智

 「そうですか、女性の遺体を狙った犯行ですね。」

 「それと、会社内部に犯人が居るか。外部の犯人なら、葬儀中に狙う相手を値踏みしているかもしれません。とにかく、会社に協力者が居るでしょう。」

 「身代金要求が有るかもしれません。」


正義まさよし

 「はっ、はぁ、そうですか……」


明智

 「今後、犯行が更に大胆に成っていくでしょう。犯人と言うのは〝 自分は捕まらない 〟と錯覚して行くモノなんです。只それだけ、逮捕するすきも大きく為るんですけどね。」



          ここで始めて 塚下つかもと 衣久子いくこ が口を切って、


               「 明智あけち 先生……」


 彼女の、まだかわかぬ血のように濡れた唇で、心臓が脈打つ度に心が揺らめくのが分かるのだ。



  文代ふみよ さんが 小林こばやし 少年 のれたコーヒーをお客様にもって来た。


               「大丈夫ですよ、」


  明智あけち は少しだけ慌ててこの一言を発したのだが―――― 衣久子いくこ には優しい言葉に聞こえたらしい、ホッとしたような表情にかがやいた。


 「僕の条件は警察に事件を相談することです。」と口を結んだ 明智あけち は、丁重に二人を送り出し、そして 文代ふみよ さんと 小林こばやし 少年 、そして 名犬 シャーロック と共に、捜査の準備をするのだった――





 05 小林こばやし 君!




             「 小林こばやし 君! 小林こばやし 君!!」


 あまりの大胆さにあっけに取られる 妹の 小林こばやし 少年 を――――詰まり可愛らしい少女は 少年探偵 小林こばやし 少年 の変装なのです……

 …… そして 姉役の 文代ふみよ さんが 小林こばやし 少年 をはげまして―――― 文代ふみよ さんはもちろん、 小林こばやし 少年 と同じ 明智あけち 小五郎こごろう の助手で普段はおしとやかな女性探偵でした。


 二人の探偵は、踊る二人に気付かれないよう後を追います。


 しかし夜になっていましたけれど、暗視マスクにそとは明る過ぎかえって見通しがさえぎられてしまいました。

マスクを取ると男が、ドレス姿の女性をワゴン車に押し込もうとしている処です!


 庭に陣取っていた元警察犬の シャーロック は大型の優秀な犬です、適度な距離をたもってワゴン車を着けて行きます。

ロードバイクにまたがった 小林こばやし 少年 が シャーロック と合流して、賊のワゴン車が信号で止まった処で追い付きました。

発車するワゴン車の車種とナンバーを記録して、 文代ふみよ さんも自動車で後ろから来ています。実は、先ほど散々別れを惜しんだすき文代ふみよ さんが盗まれた令嬢の腕にGPS発信機付きのブレスレットを取り着けておいたのです。


 ―― 小林こばやし 少年 は賊のワゴン車の横に付くとこっそり特殊なスプレーを吹き掛けました。これは犬にしか嗅ぎ分けられない特別な臭いなのです――――これで 名犬 シャーロック が犯人を捕まえたも同然でしょう――


 ――賊のワゴン車は六本木から首都高へ入ってしまったのでロードバイクの 小林こばやし 少年 は追跡を中止しましたけれど、しかし シャーロック を 文代ふみよ さんが自動車ですでに拾いました。

犬の鼻とGPSで、幾重にも賊を追い詰めるコトに成功したのです!





 06 追跡者




           ―― 明智あけち 小五郎こごろう は急いでいた――


 逃走する犯人のワゴン車が首都高上で危険にも停車して、別のワゴン車へ数人移り込み二台に別れたと 文代ふみよ さんから連絡があったからである。

高速で追い越さざるを得ず、かつ暗がりでも有りしっかり確認できなかったのだが、別のワゴン車に乗り移ったがわに令嬢が居たとGPSブレスレットで分かったからだ。


  明智あけち でもGPSを追えるので、 小林こばやし 少年 が特殊な臭いを着けたワゴン車は 文代ふみよ さんと 名犬 シャーロック に任せられた。




 ―― 文代ふみよ と シャーロック が追うワゴン車は高速を下りると、同じ場所を左に左に2度巡ってさらにしばらく走り、代々木公園の前で停車した。


 ワゴン車から二人の覆面の男が出てくると、 文代ふみよ と シャーロック も押っ取り刀(おっとりがたな)そとに出る――



 覆面の男がナイフを出した一瞬、 文代ふみよ の左足が跳んでナイフが宙に舞った。次の瞬間、今度は右の蹴りが男の股間を襲う……

覆面男は両手を太ももにはさんで前のめりに倒れた――


 しかし、それを見たもう一人の男がピストルを取り出したのである――

これには流石の…… と、思いきや―――― 名犬 シャーロック が弾丸もおそれず疾風しっぷうの如く飛び掛かった!


                「タン...」


 鈍い破裂音がした、 シャーロック が覆面男のピストルを持つ腕に果敢にも噛み付いている、 シャーロック の肩から流れる赤いモノが――――発射されたたまがかすったのか、それでも優秀な元警察犬である――――犯人に対する攻撃を緩めない――


  文代ふみよ さんは、悲鳴を上げる男のピストルを奪い、そのあごひざで蹴りくだく!


               「ウ!んっっ……」



文代

 「銃の使い方は知っていますよ。」



 革手袋をした手で奪ったピストルを覆面男に突き付けると、二人を拘束して。犯人の意識朦朧いしきもうろうのところを踏んづけ、シャーロックの傷を看たり110(ひゃくとー)番したり 明智あけち に連絡したりしました。

 厳密には 銃刀法違反じゅうとうほういはん です……『 魔術師 事件 』で 養父 の連続殺人事件を手伝ってしまい、有罪判決を受け執行猶予が終わったばかりの 文代ふみよ でした。




 後で分かったコトですが。覆面男二人はインターネットでその時にやとわれたチンピラで、真犯人との関係はとても薄いと言うコトです……





 07 潜入




  明智あけち 小五郎こごろう が世田谷の 塚下つかもとエンバーしゃ 葬儀会場に着いたのは、GPSでワゴン車を特定して1時間ほどたってからだった。

明智あけち の追った犯人のワゴン車は、高速を下りると砧公園の周辺を何度もグルグル巡ってやっと目的の場所に落ち着く気になったらしい。そのかんに後を着けてくる何者かの処分を決定したと見える……


  明智あけち物陰ものかげに身をひそませ、賊たちが令嬢の遺体であろう布に巻いたモノをすっかり移動し終えるまで待っていた。

建物に潜入せんにゅうするにしても夜を待たねばならないし、警察や 文代ふみよ さんに連絡して応援を待つのが得策である。


 しかし、死んでいるとは言え、その間に遺体を損壊する可能性もあるのだ。

取り敢えず、日頃から懇意こんい波越なみこし 警部 に連絡しようと携帯端末を見ると圏外――――妨害されているのかGPSの反応も無い……


             ――ココは思案である――



① 電話の出来る所まで移動する:そのかんに令嬢を別の場所へ移動するかもしれない。


② 葬儀会場の中に使える電話が有るだろう:危険だがやる価値はある。



        こうしてジッとして居ても仕方ないではないか!


  明智あけち は自らの冒険心がムクムクと音をたて湧き上がるのが分かるのだった。





 08 森の中




        ――葬儀場へと 明智あけち が入ると薄暗がりである――



 人気ひとけの無い奥へ進むと、どれ程の広さであろう目がれてくるにつれ全容が 明智あけち 小五郎こごろう大脳皮質だいのうひしつへ入り込むのが解った。


 そこには―――― 2メートル程の木の切り株が、何百本なんびゃっぽんと生えていたのだ――

 ――いや、それは 明智あけち の第一印象に過ぎない。実際には、やっと人一人通れる程の間を開けて、幾百いくひゃくもの棺桶が林立りんりつしていたのである。


  明智あけち 小五郎こごろう は、その一つへと近付いてみた。仕事柄、人の死体は見慣れた方であろうけれど、棺桶をこのように立てた具合で見るのは、蝋人形館のドラキュラ伯爵を見て以来であろうか。


 案外と底が深く大きく、背の高い物である。順に見ていくとサイズの違いで、幅が1メートルを優に超えるモノも有るようだ。


 表面はと見れば。唐草紋様が舞い蓮が華麗に咲き誇り、龍と鳳凰が天を優雅に行き交い。豪華絢爛な透かしりの白木やうるし塗りや、紫檀したん黒檀こくたん鉄刀木たがやさんの棺桶が有るかと想うと。アンモナイトが瑠璃るりに渦を巻き、白妙しろたえかがやく大理石の棺桶まで有る。



  明智あけち 小五郎こごろう は向こう側へ行ってみようと、その棺桶たちで出来た森の中をすり抜けて行った。ふと左を見たその 明智あけちまなこに棺桶とその間の、昔観た映写機の回転するスリットの内側から、 黒覆面の二人組 がこちらへニュウっと伸び出すのが見えた。


  明智あけち は急いで右へ曲がって棺桶で出来た大通りへ出ると、又右へ走った。そうすれば部屋の出入り口に出るはずだ。

右を見ると黒覆面が並走して追って来る。間一髪、 黒覆面の手 が 明智あけち の上着を掴む一瞬逃れると、こんどは左へ深くはいり込んだ。

幸運にも 明智あけち の姿を見失ったらしい 黒覆面は男 の声で「あっちだ。」「いや、こっちだ。」と、反対の方へ遠ざかって行くのが聞こえる。


 息を詰めていた 明智あけち は、ゆっくりと時間をかけて出入り口へ動き出した。だが、男の大声と共に棺桶の大通りを三人の男がやって来るようだ――


     ―― 明智あけち 小五郎こごろう には、足音で三人の男と分かるのである――


 ――それと…… なんであろう、ゴロゴロ台車で運ぶ重いモノが二つ…… そしてピタリと、そこに居るのが分かってでもいるかのように、ちょうど息を潜める 明智あけち の前で止まった!



 「柩を開けろ。」リーダーらしい男の声が静かに棺桶の森の中へと響いて行く。

           二つの柩が前へと運ばれ起こされた。


      ――果たして二つの柩はゆっくりと開け放たれたのである――




一つ目の柩


 そこら中にとても良い香りがして、何か黒いモノが薄暗い中に見える。 白銀はくぎん の デスマスク の男 が懐中電灯を中へ近付けると、人らしい顔が見えた。


 おさなさの残る顔立ちは10代なのでしょう――――あの日見た夕焼けのように朱に染まった無邪気なほおは、活き活きとして今にもくずれて笑い出しそう――


           ただ一つ、いきをしていないのです――


 漆黒の短いゴシックドレスの広がったすそのレースから、いまそこらじゅうを飛び跳ねて回ったかのような活発そうな若々しい腕や脚がびています――


 ――なんでしょう?その胸でクロスした両手には、身体に似合わぬ大きな裁ちバサミが一つずつ握られているのでした……




二つ目の柩


 薄暗がりにとても良い香りがして、 銀死面ぎんしめん がやはり懐中電灯で照らし出すと、背の高い白いモノが浮かび上がる――


 何故に女性とは、人妻になるとこうも艶っぽく成るのであろう――――大人の女の色香がほむらに匂い立つと、扇情せんじょう的に辺りへパァッと広がった。


 それだけで、既婚者きこんしゃであることが分かるのだ。


 純白の孔雀羽のタイトなロングドレスのスリットから、高いヒールの長い脚もあらわに。肘まである手袋の両腕を、止まってしまった時の中で静かに胸の上に組んでいる――


 ――そのかたわらに有るのは…… 木を切るためのチェンソーでしょうか?なんのために有るのでしょう……



 二つの屍体とも、 塚下つかもとエンバーしゃ から盗まれた 塚下つかもと 喜久子きくこ の手にるこの世における至高の芸術品と言っても良い代物でした――――やはりコイツが盗んだ訳です……


  銀死面ぎんしめん は二体の首にそれぞれ金の鈴を二個づつ掛けると、仰々《ぎょうぎょう》しく両腕をYの字にげた――――



            「生命いのちさずけよォォォォ!!」





 09 毘陀羅びだら呪殺じゅさつ




  銀死面ぎんしめん の叫びと共に、二体のしかばね目蓋まぶたがプルプル震えだし、ギュっと一度つぶったかと思うとゆっくりひらいて――――上を向いていた瞳が正面を向くと、今度はギョロギョロとそこら中を舐め回すように動いたのです。


 この、神をも恐れぬ所業しょぎょう――――あの時に見た、葬儀場で手を振り会釈する屍体……これは全て、 塚下つかもと 常彦つねひこ による実験の賜物で有り彼にとっての〝渾身こんしん傑作けっさく〟なのでした――



    「さあ!シザーズ婦人、チェンソー婦人。お仕事の時間ですよ、」



  銀死面ぎんしめん が、純白の孔雀羽ドレスのチェンソー婦人の組んだ手をほどき、その手を取って柩から出るよう丁寧にうながし、先程のチェンソーを持たせました。



チェンソー婦人

 「おまえぇ…… わたしたちを使って、誰を殺せというのかぁぁぁ……」


銀死面

 「ここに一人の男が隠れてるんで――――捜し出して切り刻んで下さいよ、」



 「うん、分かった」と言わんばかりに、チェンソー婦人が持ったチェンソーのエンジンを引くと、騒音と共に勢い良く風斬る歯が回りだす!


 漆黒のゴシックドレスのシザーズ婦人はみずから柩の外へ出ると、裁ちバサミを両手に持ったまま「ケケケケケ!」と奇声を発しながら、前傾ぜんけい姿勢でそこら中を滅茶苦茶に脱兎の如く走り出した!



     明智あけち 小五郎こごろう が、この様子を見ることは…… 出来ませんでした。


 けれど、あやしげな呪文じゅもんと、エンジン音、それと…… 鈴の音が「シャンシャン」と建物に鳴り響き、遠くなったり近くへなったりして――――この香りは何処かで覚えが。やはりアレなのだろう……

 ともかく、このままではより危険な状況へおちいる予測が容易に出来るのです。


              とっ、思った瞬間!


  鈴のと共に、髪を振り乱し裁ちバサミを振りかざした若い女が走り込んで来た!!

 ひらりと右手の裁ちバサミを 明智 がかわすと、今度は左の裁ちバサミがおそいかすめる……


         「この上着、気に入ってたんですけどね。」


  明智あけち はそう言うも無く両方のハサミを、バックステップとスウェイでける。しかし、後ろから回転する歯の床をこする音が近付いて来た――


 チェンソーが横に大きく振られると同時に―――― 明智あけち 小五郎こごろう は突っ立っている棺桶の頭へ手を掛け、ひらりと舞って上へと跳び乗った――

 ―― 明智あけち に振られたチェンソーが、そこに運悪く有った棺桶をけたたましく刻む無惨な不快音が五月蝿く響く――


      シザーズ婦人が 明智あけち 目掛けて裁ちバサミを投げ付けた!


  明智あけち は隣の棺桶、また隣の棺桶へとヒョイヒョイ走る。棺桶の森は以外に広い、だが今度は下に居る男たちが 明智あけち を追っかけ廻す。



                「タン!」


 乾いた音が鳴った――――ピストルだ。



  明智あけち 小五郎こごろう は棺桶の上で身をひそめた。このままでは狙い撃ちにされる、もう走り回るのは無理そうだ…… 明智あけち は賊に気付かれないようそっと降りると、棺桶の中へと身を隠した──


       ――チェンソー婦人が近付くのが嫌な音で分かる――



 そして、ついに棺桶にチェンソーの歯が入った!鈍い耳障りな音が棺桶の森へと木霊こだまする――





 10 明智あけちの柩




 チェンソーの走り回る歯が、ひぐまの爪の如く硬い紫檀の棺桶に襲い掛かると――

 ――破片はへんを飛ばして斬り刻み、すさまじい悲鳴をげてついにはフタが真っ二つに弾けぶ!



     「待て待て。」 銀死面ぎんしめん が確認するが――「オイ何だ!?」


      ――――そこには、 明智あけち どころか赤い血らしきも無いのだ。



 実はチェンソー婦人が切り砕いたのは、 明智あけち が隠れる隣りの棺桶だった―――― 明智あけち 小五郎こごろうすんでの所で危機を脱したのである。



          「もうココ、全部燃やしてしまおうか、」


  銀死面ぎんしめん が笑いながら晴々《はればれ》した顔を見せると、騒ぎを聞き付けて来た 塚下つかもと 常彦つねひこ が「そんな事は許されない!」と、珍しく剣幕けんまくです。



          「間違い無い、棺桶の中へ隠れたはずだ!」


     賊4人は、はじから棺桶をトントン叩きながら 明智あけち を探し始めた。



 ―― 明智あけち はと言うと棺桶からそっと抜け出し、しばらく行くとまた別の棺桶の中へと隠れ、そしてやっと森のはじの棺桶まで辿り着いたのだ。


 上品な木の強い香りは、 明智あけちあせる気持ちを落ち着かせるのに充分であった。


       もうしばらくだ、時間をかければ脱出も出来るだろう……


  小林こばやし 少年 がててくれた温かいコーヒーを想いながら、 明智あけち 小五郎こごろう は暗黒の墓穴へ埋められた死者の如く、息もせずその時が来るのをじっと待っていた……




 どれくらいたったのだろうか…… 明智あけち の入った柩はいきなり倒されたのだ――――フタを押しても蹴っても開かないではないか!


  ――こうなれば〝 まな板の上の鯉 〟である。ジタバタしても始まらない――


 「良く僕の場所が分かったね。」 明智あけち は、賊に話しかけてみることにしたのだ。



銀死面

 「あんた 明智あけち 小五郎こごろう さんでしょ、なんだったかな、見たことありますよ。」


明智

 「初めまして、 明智あけち 小五郎こごろう と言います。こんな格好で失礼、」


銀死面

 「 明智あけち 小五郎こごろう さん、あんた面白い人だね。」

 「あんたの場所が分かったのは、監視カメラですよ。」



     銀死面ぎんしめん は話しながら、 明智あけち の入る柩へ乱暴に腰をドンと落とす、



明智

 「なるほど、なんのことは無い。種明かしありがとう!」

 「ところで、もう一つ聞いてもいかな?フタがかないのはどうした訳だろう。釘で打ち付けたら音で気付くはずだし……」


銀死面

 「 明智あけち 小五郎こごろう さん、ロープで縛ったんだよ。これで分かったかな、」

  というと、銀死面ぎんしめん は笑い出した。



 「もうイイだろ!早くろう。」 塚下つかもと 常彦つねひこ がイラ立ちながら話に割り込んで来た。



銀死面

 「じゃあ、どう殺ろう。チェンソーかな?」


常彦

 「ココをこれ以上汚すな!そとで殺ってくれ。」


銀死面

 「そうだな…… 川に沈めるのはどうだ?」

 「 明智あけち さん、貴方は〝 水葬 〟に決まりましたよ。おめでとう! 明智あけち 小五郎こごろう さん。」


  銀死面ぎんしめん は笑いながら 常彦つねひこ の返事を待たずにそう言うと、尻の下に敷く 明智あけち の柩へ言い聞かせるようにトントン叩くのだった――



              ――しばらく立って、


 ―― 明智あけち 小五郎こごろう は、賊によって多摩川まで車で運ばれ。柩ごと夜の川へと投げ棄てられてしまったのである――


     水よりも重い黒檀の柩は、中へ水が入るとミルミル沈んでゆく……


 ― 登場人物 ―


塚下つかもと 衣久子いくこ塚下つかもとエンバーしゃ 社長。塚下家つかもとけ4姉弟の一番目。『神の手を持つ』エンバーミング技術を持つ。

塚下つかもと 常彦つねひこ : 同社 副社長。 衣久子いくこ の夫。入り婿むこ

塚下つかもと 正義まさよし : 同社 専務。塚下家つかもとけ4姉弟の二番目。

塚下つかもと 浅次あさつぐ : 同社 セレモニーマネージャ。塚下家つかもとけ4姉弟の三番目。

塚下つかもと 里美さとみ :学生。塚下家つかもとけ4姉弟の四番目。

塚下つかもと 里子さとこ塚下家つかもとけ4姉弟の母。他界。

塚下つかもと 善次郎ぜんじろう塚下家つかもとけ4姉弟の父。入り婿むこ。他界。


無石なしいし かおる :美青年。美術を志す学生。塚下家つかもとけ居候いそうろうしていた。

他仲たなか 鍛夫きたお塚下つかもとエンバーしゃ 社員。

煤来すすき 頼太らいた : 同社 社員。

可津かつ あきら : 同社 警備員。


◆ 赤ドレスの令嬢 :消失した遺体の一つ。 ブッチャー婦人 。

◆ 黒ドレスの少女 :消失した遺体の一つ。 シザーズ婦人 。

◆ 白ドレスの夫人 :消失した遺体の一つ。 チェンソー婦人 。


波越なみこし 警部 :警視庁敏腕びんわん刑事。

小林こばやし 少年 :『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』少年探偵。

◆ 名犬シャーロック :黒い大型の優秀な元警察犬。

玉村たまむら 文代ふみよ :『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』女性探偵。

明智あけち 小五郎こごろう :〝 探偵の中の名探偵 〟『 明智あけち 小五郎こごろう 探偵事務所 』を主宰。

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