日常の獲得
見慣れた天井、気に入っている布団の温もり、聞きなれた鶏のアラーム。
そうやって戻ってきたことを実感するとともに朝を迎えた。
そして、西暦2025年5月1日6時30分、高校二年生の俺は学校の準備を始めた。
準備を終え、下の階に下りるといつもどおりの朝ごはんがならべられており、俺が「おはよう」と言うと、返ってくる声が二つ。
「優おはよー」
「お兄おはよ!」
母親の恵と妹の未来である。
父親の朝が遅い俺の家はこうやって3人で朝ごはんをたべることが普通である。
肉体的には300年ぶりに見る光景のはずが、昨日記憶が戻ってからは感覚的にはいたって日常的に感じた。
違うことといえば、現世の記憶が補正されても、異世界での俺の300年間の経験や封印したとはいえオリンピック選手並みにある膂力である。
現世に来られたということはこれ以上封印しないでいいということだが、「干渉」の基準が曖昧で正直よくわからなかった。
そんなことを考えつつ、朝ごはんを食べ終わると、俺は学校に行くべく玄関へ向かった。
通学路。俺は家と学校との距離が近いため通学は徒歩で移動している。
すると、「優―!おはよー」と後方から声と小走りの音が聞こえる。
「ああ、おはよう」
そう短く返すと当たり前のように二人で一緒に歩いた。
こいつは本道寺 蓮。俺の唯一無二の親友であり、気の置けない存在だ。
「昨日のNHK見たか!?ボルボックス、かわいいよなぁ~」
「すまん、昨日は見てない。というかNHKは見ない。」
「優~!前もそれ聞いたぞ!どうせその後「今度見とく」っていうんだろ!聞き飽きたぞー!」
「わかったわかったよ蓮。見とくって」
笑いながら俺は答える。
そんなごくありふれた会話をしながら、俺と蓮は学校へ向かった。
ここは西海高校二年A組。俺や蓮のクラスである。
まだ時間が少し早いため人は少ないが小さいころからの知り合いが一人、近づいてくる。
桐崎 雫、いわゆる俺の幼馴染であり、かなりの美人だ。
「優、おはよ!」
雫が元気よく挨拶をしてくる。
「ああ、雫、おはよう」
俺も元気よく答えたつもりだったが、
「まーた無愛想!もうすこし笑って!」
雫はそういって自分の腰に手を当てる。
この光景にまた日常を感じた俺は懐かしく感じながら
「わかったよ、雫」
自分ではどういう表情をしているのかはわからなかったが恐らく満面の笑みだっただろう。すると、
「あ、ああ、もう!不意にやめてよね、、!」
雫は何故か赤くなりながら答える。
「?、笑えって言ったの雫だろ?」
「そうだけど、、心構えが、、」
段々声が小さくなっていき、ききとれなくなったため
「え?なんて?」
と思わず俺が返すと、
「もう、なんでもない」
なぜかぷんすかしながら雫が教室をでる。するとそのやり取りを傍から見ていた蓮は
「また痴話喧嘩かよ」
笑いながらそういった。
「な、聞き捨てならないぞ!俺とあいつはただの幼馴染だ!」
必死に弁解をするが、甲斐はなく、やれやれという表情で蓮は自分の席へと戻った。
そうやって異世界から帰還後初の授業を受けたあと、あることに奮起した俺は異常と思われない程度のペースで走りながら帰宅した後数多くある参考書の中のひとつを手にとって読んだ。
元々参考書厨だった俺は参考書だけは100冊ほどあったのでそれらに全て目を通した。
異世界からくる時に封印したのは力のみであるから、もちろん経験や記憶はそのままなのだ。つまり300年間鍛えられた頭脳は現在も健在だということである。
そこで、試しに授業を学校で受けてみたところ、頭の中に先生の板書や言葉がするする入ってくる。
異世界では大図書館の本何十万冊を読破したことがあり、それが当たり前と思っていたが、現世の価値観を取り戻した俺はそれが異常だったということに気づいた。
異世界に行く前は勉強の仕方に迷っていた俺だったがこれで迷う必要なくなった。
今日の残り時間を勉強に使うことにきめ、机に向かう。
そして2時間後現在持っている本を全て読み、本来なら三年生で習う範囲も全てマスターした。
大きな達成感を俺の価値観が伝えている。
意味があったのかはわからないがやはりなにかに熱中しそれをマスターするのはどの世界でも大切なことだと実感した。
しかし、そんな日常の喪失は意外と早くやって来た。
まんとるです。今回は少しだけ長めです。最後の勉強の下りは決して僕が大学落ちたからとかいう話ではないので悪しからず。(本当)
見てくださっている方いるかわかりませんが何卒よろしく。